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44反撃の第二歩①

このマリサの小説を書くようになって、学校で教わらないイギリスの歴史を調べることが多くなりました。当時の生活や文化、思想なども調べます。

おかげで少しはイギリスについて詳しくなりました。書いている自分が楽しいです。

 話はアーティガル号がロンドン港を出る少し前へさかのぼる。

 

 海軍司令部でもある動きがあった。それはひとりの艦長があごひげを伸ばした男と話をしたことから始まる。

「私は先まわりすることにしたよ。手柄がどうこうとか、フランスに戦争を吹っかけるとかの問題じゃないのだ。これは私の反撃でもある。このために私はあるお方から本部ヘ口添えをしてもらい、正当な理由付けもしてもらった。ここで私が動かねば単なる臆病者としかいわれないだろう。……あの島のことは決着をしなければならないのだ。民間であるアーティガル号側だけにこの問題をおしつけるようなことをすべきでない。これは私の責務だと心得ているよ」

 そう言って気難しい顔をして話しているのは元スパロウ号のエヴァンズ艦長だ。ゴブリン号から謀反人とされた4人を預かったとき、ゴブリン号の様子にジョンソン艦長やゴブリン号の様子に違和感を感じ、ジャマイカから帰港してすぐにここを訪れていた。彼は海賊ジェニングスの罠にはまり,スパロウ号を鹵獲されただけでなく多くの乗員を銃撃によって失い、生き残った者は置き去りとされている。その中にはマリサの夫フレッドや、士官候補生だったクーパー、副長として乗り込んでいたグリーン(テイラー子爵)もいた。生き残った者は知恵を出し合い、島で必死に生き延びた。そしてアストレア号とウィリアム号の救助を受け生還した(アーティガル号編 24話 置き去りの島からの脱出)。その後、海賊船となっていたスパロウ号を奪還し、再び国王陛下の船の艦長として勤務している。今はスパロウ号の艦長を退き、ひとまわりほど小さな船バラクーダ号の艦長だ。スパロウ号奪還後もしばらくは艦長としてのその任務に就いていたが、とある理由によりスパロウ号を降りていた。この理由を理解して口添えをしたのは、引退後も海軍へ影響を与えているあの元提督ディクソン氏である。

「全く……あの元提督ディクソン氏はふたつ名を捨てたとはいえ、こうして今でも密かに影響をしているわけですからな、貴方への期待が大きいと言えるだろう。バラクーダ号にはスパロウ号の乗員だった者たちも多数乗艦させている。貴方の活躍を祈っているよ」

 そう言って立派な髭の男はエヴァンズ艦長に手を差し出す。海軍の方も民間である私掠船アーティガル号だけに任せるわけにいかなかった。奪われたゴブリン号奪還は海軍の責務であり海賊の討伐はアーティガル号の責務だからである。エヴァンズ艦長はゴブリン号に起きた事件を聞き、違和感が現実となっていたことを知る。平和的な要塞爆破の命令が偽物であり、騙されて多くの人員がエヴァンズ艦長とともに亡くなっていることに胸を痛めた。

「亡くなったジョンソン艦長の無念を晴らしたい。なぜならスパロウ号を奪われたことや乗員たちを多数失ったことで罪を問われ、しばらくの間、罪人として見られた私をジョンソン艦長は気にかけてくれていた。同じような年齢であることや昇進が遅かったことも似ており、以来私とジョンソン艦長のつながりができた。……ジョンソン艦長も船を奪われた挙句多くの乗員たちとともに亡くなっている。もしここで私が立ち上がらなかったらジョンソン艦長の幽霊が導くだろう」

 そこにジョンソン艦長がいるかのように、誰もいない(くう)を見つめるエヴァンズ艦長。

「キャニオン島のことやスミス少尉のことはすでに公開されている情報だ。貴方の元部下であるグリーン副長(テイラー子爵)が尋ねてくる予定だから彼にも話しておく。彼もアーティガル号の所属する商船会社として何か考えているようだ」

「そうか……。あのグリーン副長……いや、テイラー子爵が動こうとしているのか。それは何とも心強いことだ」

 髭の男の言葉に納得したエヴァンズ艦長は何度も頷き、事務所を後にした。

 こうしてアーティガル号に先立って、エヴァンズ艦長率いるバラクーダ号がゴブリン号奪還のために出帆をする。



 大西洋上では商船ブリトマート号とノアズアーク号、スミス率いる海賊を討伐する私掠船アーティガル号、そしてゴブリン号奪還と命を奪われた乗員たちの無念を晴らしたいエヴァンズ艦長の船バラクーダ号が航海をしている。ブリトマート号とノアズアーク号はアトランティック・スターズ社の利益のために荷を運んでおり、いくつかの島や港を立ち寄りながらアメリカ植民地を目指し、アーティガル号とバラクーダ号は因縁の島キャニオン島を目指している。

 マリサたちの反撃とは別の動き、反撃の第二歩である。


 

 一方、アーティガル号はブリトマート号とノアズアーク号とグリンクロス島まで行動を共にしていた。国から建材や生きた鶏、牛数頭、織物に薬や家具など海賊とってはそこまで魅力的でないにしても島にとっては必要な品ばかりを運んでいた2隻の商船は、ここで荷を降ろすとサトウキビや果実、カカオを積んで国へ帰るのである。

 グリンクロス島はグリンクロス(緑布)という名の通りプランテーションの面積が広く、家畜を育てる環境がなかった。しかし総督の屋敷が海賊によって破壊焼失したことをきっかけに、家畜を育てる仕組みを作っていた。島の発展のためにウオルター総督は尽力をしている。島民が慕っているシャーロットがイギリスへ帰った今は、総督が島民に寄り添っていた。

 総督の屋敷は住民たちの協力もあって建物だけは何とか急ごしらえできたが、まだ中の内装やら調度品はまだまだだ。そのため総督は国王の代理でありながら未だに空き家となっていた島民の家に仮住まいをしている。これでは寄港してきた客人に対して最低限のもてなししかできない。それでも人柄を知る人々は仮住まいを訪ねてくるのだ。


 「こんな状態で客人をもてなすようなことはできないが、かけてくれ」

 ウオルター総督は訪れてきた客人に座るように促す。総督といえど服装は質素なものである。自分の服を国から運んでもらうとか、ここで仕立て屋に作って買い付けるとかできるのだが、総督はそのようなことを後回しにしていた。

 総督はこの島の再建がなされないままでは国へ帰ることはできないと思っている。ときどき,業務の合間を見て人々の手伝いをしているのはその理由からだ。


 空き家を急ごしらえで整備した総督の簡素な仮住まいの外では、漁民たちがボートで引き揚げた魚を水揚げしており、プランテーションでは奴隷たちが働いている。その一部では家畜を育てる環境つくりのために駆り出されていた。しかしここの奴隷たちは海賊襲撃の折、シャーロットが避難させて守り抜いたことや、人種や国籍、出自を問わないマリサたちの影響もあり、奴隷といっても他の奴隷たちよりもはるかに待遇がよかった。おかげで生産性も上がり、和やかに働くことができていた。


「君たちの話す通りだよ。海賊共和国が瓦解していったんは海上輸送に平穏が訪れたかと思っていたが、安心するのはまだ早かったようだ。この島もあれだけ被害を被ったものの、島民たち一丸となって再建に取り組んでいる最中だ。それでも出入りする船からゴブリン号の噂を聞くようになった。それも新たに拠点を作ろうとしているようだな。ただ、規模が大きくなりつつあり、アーティガル号だけでの討伐は難しい。君たちに協力者はいないのか?」

 ウオルター総督の話すことはもっともなことだ。

「協力を頼めなかったというのが正直なところでしょう。要塞爆破事件はイギリスがフランスへ戦争を仕掛けた格好になっており、表立って行動をすることができません。それゆえの私掠船アーティガル号です。ただ、おっしゃるようにキャニオン島の地理的背景や戦略を考えると協力者が欲しいところです。ノアズアーク号はブリトマート号を守りつつ帰り荷を積んで本国へ帰りますから我々と行動を共にできません。私たちは1隻でなんとか海賊船ゴブリンを奪還し、乗員たちを捕えねばならないのです。女神がこちらを向くのを願うばかりです」

 前回ここを訪れた時よりもフレッドは肌色がよくなっていた。アーティガル号へ他の士官とともに身柄を預けられている立場ではあるが、道筋が見えているからだ。ただ、ゴブリン号を奪還して海賊たちを討伐するためにはアーティガル号の戦力だけでは難しい。良い点があると言えば、キャニオン島についてフレッドは経験上心得ていることがある。特に地理的な要因はスパロウ号事件の敗因でもある。

「実はゴブリン号討伐の為に密かに海軍の船が動いている。これ以上フランスを刺激しないために私掠船の立場で行動をしているが、海軍であることは間違いない。船の名前はバラクーダ号。スパロウ号を降りたエヴァンズ艦長が指揮をしている。つい先日、補給の為バラクーダ号が寄港したとき、エヴァンズ艦長はここへ立ち寄ったのだ。君と繋がりのある方だったかいろいろ話をしたよ」

 ウオルター総督がその名を口にしたとき、フレッドは大きく目を見開いた。

「エヴァンズ艦長が!?」

「そう、エヴァンズ艦長はスパロウ号事件の責任をとらねばならなかった。ゴブリン号の海賊化を聞いて自ら討伐を申し出たそうだ。キャニオン島が因縁の島であることはエヴァンズ艦長にとっても同じだ。彼らは一度ジャマイカへ立ち寄って体制を整えるということだからアーティガル号も合流するように」

 もともと”青ザメ”はマリサが初めてグリンクロス島を訪れたとき、総督から仲間の命と引き換えに海軍との協力を命じられていた。マリサに出された条件であるフレッドとの結婚は果たすことができたが、もうひとつの条件である船を降りることはまだ果たしていない(この場合、船乗りを辞めて陸で暮らすこと)。それは行方不明になっていたマリサが海賊として見つかったことで、処刑とならないよう、身の安全を図ろうとした総督の愛情でもあった。

「ここへ立ち寄ったときのエヴァンズ艦長の目は非常に厳しい目つきをしていた。相当な決意があると思う。だから君たちの協力が必要だ。特にフレッドにとってもそうだろう」

 総督の言葉に深く頷くフレッド。

「そうともなれば話がはやい。じゃあ、補給が済み次第にジャマイカへ向かおうぜ。心配すんなよ、フレッドとフォスター中尉達のこともうまくやっておくからな。精々からだを鍛えておけよ」

 リトル・ジョン船長もバラクーダ号との共闘を心強く思った。この話はすぐにアーティガル号へも知らされた。



 翌朝、日の出とともに港を出ていくアーティガル号。その姿を見送りながらウオルター総督はシャーロットとことや、オルソン救出の為に行動をしているマリサのことも考えていた。アーティガル号の乗員たちとシャーロットやマリサたちも皆自分の手から遠く離れている。何があっても手助けできない距離だ。オルソン家のことを気にかけているシャーロット、オルソン救出へ向かっているマリサ。子どもたちに何もできないのは歯がゆいことだが、今は島の復興が優先である。自分はグリンクロス島の総督であり、国の代表なのだ。


(君たちの成功を祈っているよ……。私掠が必要なくなる日は必ず来る。そうなればマリサも陸で暮らすことができるようになるだろう……)


 総督はこうしていつもマリサとシャーロットのことを気にかけている。総督の任期を終えたらゆっくりと子どもたちの話を聞いて暮らすのも悪くないと思っている。


 

 反撃へ向かって確実に進んでいく人々。総督は神に祈らずにはいられなかった。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想ツッコミお待ちしております。

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