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42海賊船ゴブリン号①

文字数の関係で前半は前エピソードの続きとなります。

アーティガル号での伏線がようやく回収となりました。このことは終盤でもかかわってくる予定です。(そう言いながら忘れたらどうしよう)

奴隷船の記述ですが、実際はもっとひどいです。そんな彼らの生きのこる道のひとつが海賊化でした。エドワード・ティーチの仲間であり弟子でもあるブラック・シーザーもそのひとりでした。彼はとあるアフリカの部族の王子でしたが、部族間の争いにまけ、部族全員が奴隷として売られました。現地での奴隷商人はアフリカの住民でもありました。彼らは欧州の奴隷商人とつながっていました。

 東屋に四季咲きのバラの香りが漂う。そして背の高い樹木が風と共にさわさわと音を立てて葉を揺らしている。マリサがマデリンの暗殺に失敗し、オルソンがとどめをさした夜もバラの香りが漂っていた。


 この庭のある部分には毒性の植物が植えられており、子どもたちや関係のないものを立ち入らせないようにしていた。マリサもそれを教わっている(幼少編 7話 マデリンの火遊び)。オルソンはこれらの植物から毒を抽出したり、鉱物からも精製したりしていた。

 

「テイラー子爵、答えはこうです。オルソン家は毒の守り人として代々王室に刃を向けるものを排除してきたのです」

「坊ちゃん、それは……!」

 アーネストの言葉に驚いたジョナサンが思わず立ち上がる。オルソン家の秘密は領主とその長子、庭師だけが共有しており、明かすわけにはならないものだからだ。領主と長子のみに何か起こった場合、相続する者がこの仕事を引き継ぐことになっている。

「心配するな、ジョナサン。僕やルーク、亡くなったアイザックの意思だ」

 オルソン家の秘密のことにルークやアイザックもかかわっていたことにジョナサンは驚愕する。

 このジョナサンとアーネストとのやり取りを見てテイラー子爵は一瞬ここへきてしまったことをためらい、思わず視線をそらしてしまった。

「御見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない。ジョナサンがこうして驚きの表情をしているのも仕方がないことなのです。オルソン家の当主は専属の庭師を雇っています。ジョナサンも代々この家に庭師として仕えていた家系です。それは当主を助けながら共に毒の守り人としての宿命を負っていたからであり、ともに責任を負う重要な役として仕えてきました」

 じっと黙り込んだままのジョナサンにアーネストは語り掛ける。

「ときにジョナサン、お父様とお前がずっと疑問に思っていたことがあるだろう?……なぜ毒のことをルークとアイザックが知っていたか。ルークは遊学の際に、アイザックは通いの売春宿からそれぞれ毒の知識を仕入れたのではないかとお父様は思っている。お前はこの偶然話を信じるか?」

 アーネストのいう通り、ルークとアイザックはそれぞれ毒のことを知っていた。オルソンは疑問に思いつつも、当時はふたりを問いただすような状況じゃなかったため真実はわからないままだ。(アーティガル号編 23話 ポートロイヤルへ)

「坊ちゃん、いくら何でもそのような偶然話をご主人様が本気で思ってらっしゃるとは思いませんし、私も信じることはできません。それだけこのことが重みをもっているのですから」

 そう言ってジョナサンは黙り込んだ。彼自身もヘンリエッタにたぶらかされており、アーネストに許してもらったとはいえ、オルソン家に尽くす身でありながら裏切るかたちとなってしまったからだ。東屋で席を同じくしているテイラー子爵は話を聞きながらも問題の重みを感じている。

「では、話そう。テイラー子爵は証人として聞いてもらいたい。オルソン家の長子だけに相続されるのは財産だけではない。オルソン家の長子は本来の役割である毒の守り人の仕事を継承する。これは知識であり、所有している毒物や書籍、或いは知的財産だ。このことは当主と長子しか知らない。例え結婚しても嫁いでくる女は外部の者だから知られてはならない。そして貴族の子息でありながら弟のルーク、亡くなったアイザックのように長子以外も継承の対象外だ。そう、これまではそうだった」

 アーネストの言葉にジョナサンが顔を上げる。

「といいますと?」

「どうやら根幹はそこにあるようですね」

 テイラー子爵も身を乗り出す。

「ジョナサン、ルークとアイザックにオルソン家の秘密を明かしたのはこの僕だ……。お父様とこの家を呪縛から解き放つためにやったことだ」

 アーネストはそう言ってふたりに背を向けると四季咲きのバラに目を向けた。相変らず花の香りが漂っている。

 

 しばらくの沈黙が東屋を包む。聞こえるのは野鳥の声ぐらいである。そして屋敷の方からはヴァイオリンの音が聞こえていた。ジョシュアが楽師の下で練習しているのだろう。妻のメイジーはよく子どもの演奏に付き添っている。


「やはりそうでしたか……。そうであるにしても余程のお悩みであったと思います。この仕事は王室を守るために必要だと言われてきましたが、だんだんその存在も忘れられております。坊ちゃんのおっしゃる通り、毒の守り人という呪縛は長らく重くこの家にのしかかっていました。私の先代もそれを感じていました。密かに政敵を葬るなんてあまり気持ちのいい仕事ではないですから。でも代々のオルソン家の長子はそれを守り続けたわけです。で、呪縛から解き放つとはなんです?」

 ジョナサンも薄々感づいていたようだ。

「お父さまひとりにこの重い定めを背負わせたくない。……今までお父様の様子のおかしい時が何回かあった。僕たちに目を合わせることなく遠くを見つめたまま黙っていた。そのときは決して僕たちを抱きあげたり、やさしい言葉をかけたりすることはなかった。その後、お父様から毒の守り人を継承するとお父様の気持ちがわかるようになった。例え王室の安泰の為とはいえ、このことでお父様は苦しんだと思う。むしろ海賊としてのお父さまはとても生き生きとしていた。……僕が毒の守り人を継承したとき、お父様は悲しそうな顔をしたんだ。それだけこの仕事がお父様を縛り付けていたのだろう。その重みが今の僕にはわかる。だから僕はその定めをルークとアイザックにも共有し分かち合うことにした。そういうことだ」

 アーネストは少しだけ笑みを浮かべた。オルソン家を縛り付けていたものが緩んだような気もしたからである。

「では、私も坊ちゃんにお話ししましょう。ご主人さまはマリサにもその一部を継承しています。女性が海賊として生きる上で何かしらの身を守る知識を身につける必要があったとご主人様が判断されたからです。このことはまだマリサが子どもの頃の話ですので恐らく坊ちゃんたちはご存じないでしょう。それから前にも申しました通り、ヘンリエッタに騙されて教えた毒は1種類であり、解毒薬もあるものです。そしてご主人様は子どもたちが成人すると、毒の守り人として微量の毒を口にすることがありました。いわゆる体慣らしです。危険な行為ですが昔からそのことも受け継がれています。私はご主人様の生還を信じております。簡単に亡くなるようなお方ではありませんから」

 ジョナサンがそう言うとアーネストは深く頷いた。テイラー子爵もオルソンの人柄を知っていたので言葉を発せずともわかっている。


「貴方の知りたいことはこれで解決しましたか。貴方が単に興味本位で我が家を詮索しようとする輩なら、こちらも手段を選ばずつぶす気でいました。しかし、あなたの目はそうでなかった。ご存じと思いますが、お父様はマリサの後見人でもあります。使用人の子であり海賊の子として育つことになったマリサの行く末をお父様は案じていたのです。そしてマリサの生みの親が貴方の妹であるマーガレットでもあることも。マリサはほんの小さな子供の時にイライザとともにこの屋敷に来ています。僕たちもその日のことを覚えており、よくマリサと遊んだり勉強をしたりして過ごしたものです。マリサがなぜこうまでしてお父様を救いたいのかこれでおわかりでしょう」

 アーネストはそう言うとジョナサンへ仕事に戻るよう促した。そしてテイラー子爵を伴って東屋からでると共に庭を散策する。

「ここはジョナサン自慢の庭です。毒物関係なくジョナサンが日々手入れをしたバラを中心に野辺の花や木々が植えられています。貴族といえど我が屋敷は古くて使用人も多くおりません。こんな田舎の貴族など相手にする物好きもそういませんが、以前はお母様を慕う人々が集い、夜会もよく開かれていました。私の妻、メイジーはその夜会で出会いました。私はメイジーを愛し、息子ジョシュアを愛しています。力による抑圧といえる毒の守り人は続けるべきでない……それが私とルーク、アイザックの考えです」

 アーネストは愛する息子ジョシュアに毒の守り人を継承させたくなかった。

 

 一羽の鳥がキィーキィーとさえずりながらバタバタと羽ばたいていく。

「初対面の私にお話しいただきありがとうございます。あなた方の気持ちをしかと受け取りました。この事件にはジャコバイト派がかかわっています。このお屋敷にヘンリエッタが使用人として働いていたなら、密かに彼らが入ってくる可能性があります。今後も警戒を続けられるよう、進言します」

 テイラー子爵の言葉にアーネストは笑みを浮かべた。アーネストにとってもこのような話を妻メイジーに話すことはできない。オルソン家の秘密を知った自分たちが抱えた問題であるからだ。

「長旅、お疲れでしょう。どうか今日はここへお泊り下さい。大丈夫、貴方に毒を使うことはしませんよ」

 アーネストはそう言って屋敷に戻ると使用人頭のメアリーと執事のトーマスにテイラー子爵のもてなしを言いつけた。


 (あのガルシア総督の本当の死因がわかった。マリサ、お前はたったひとりでガルシア総督と対峙し、仲間を救うために孤独な戦いをしていたのだな……。今更にあの時の自分の行いを恥ずかしく思う。これは私の罪滅ぼしでもあるのだ)(本編45話 反撃②)


 悪名高き海賊”光の船”はガルシア総督が権力を思うままにし、捕虜たちを死なない程度にいたぶっていた。そしてそれはグリーン副長としてのりこんでいたテイラー子爵が密かに”光の船”と繋がっており、”青ザメ”もその餌食となった。それは彼のマリサに対する私怨からくるものであったが、結局彼は騙されていた。そのことを思い出しつつ、オルソンやマリサの足跡をたどるかのようにテイラー子爵はオルソン家の人びとと交流を深めていく。



 テイラー子爵がオルソン家へ出発したころ、大西洋上ではある船団が商船の船団を追尾していた。

「ほう、何とも運の良いことだな。奴隷船だぞ……他の船は商船か?どちらも艤装を施してはいないところをみると保険でまかなうってことだろう。艤装してもそれを扱う船員がいなくてはならんからな。さあて、体慣らしをするか……」

 その船は海賊船となったゴブリン号と、船を襲撃し脅迫して乗員たちを仲間とした2隻の船であった。仕切っているのは少尉であったスミス船長である。しかし、テイラー子爵から調査を依頼された海軍司令部は、彼がスミスを名乗る別人であると結果を出している。このスミス船長は薬屋の息子の名を騙り、順調に昇進をしてきたのである。

 奴隷船には多くの奴隷が荷として積まれている。奴隷商人によって買い付けられ、労働力としてアメリカ植民地へ向かうのだ。となると他の商船はそれ以外の積み荷だ。金貨銀貨など金目の物や本国の工業製品などが積まれているのだろう。

 

 

 商船の船団の方も何やら追尾してくる船団に警戒を始めている。

「だから艤装するなり海軍に護衛してもらうなりしてほしいって直訴したのに、あのケチなオーナーはそれを拒んだ。もうこちらは逃げるしかない」

 ひしめきあうほどの奴隷を運ぶ奴隷船は船足が遅い。それでも大事な商品である奴隷を海へ投げ捨てていくわけにいかない。とにかく逃げるしかなかった。追従していた商船も奴隷船ほどではないが金目の物を多く積んでいるため、海賊に狙われやすいことを十分に承知していたが、海賊共和国瓦解で少しは海上輸送が安全になったことと、南海泡沫事件で資金繰りに困っていることが影響していた。

 

 船団はそれぞれ風を捕えると捨てられるものを捨てて逃げる。乗員たちの顔に悲壮感が漂っており、奴隷船の中でも異変を感じた奴隷たちが鎖につながれたまま小声で恐怖を呟いていた。もはや船内の奴隷たちを見張っている余裕がないのか、乗員たちは総出で、甲板上へあがっていく。そして心得のある者はマスカット銃を手にした。


 ゴブリン号と仲間の船に旗が上がると商船の乗員たちの恐怖はさらに広がる。

「海賊旗だ!海賊の残党がいるっていうのは本当だったんだ。逃げろ!とにかく逃げろ!」

 ここまでくると銃の扱いの有無を問わず、むかえるものはむかわねばならなかった。

 そうこう言っている間に距離が縮まってくる。


 

「移乗攻撃をする。甲板にいるうるさいネズミどもを排除しておけ」

 ゴブリン号ではスミスの船長の声に仲間たちが銃を手にして次々に撃っていく。海賊の船団には操船や銃の扱いに手練れた仲間たちがいる。その中にはジャコバイト派として海賊をしていた海賊の残党も多数いるのだ。

「海賊を国にへ売るような裏切り者はここにはいない。ジェニングスも今頃地団太踏んでいるだろうぜ」

 そう話したのはかつて海賊共和国の2大巨頭、ジェニングスの手下のひとりである。ジェニングスはジャマイカに土地を持つ裕福な地主だったため、自分の身と財産のことを考え、あっさりと国王の恩赦を受け入れた。これは彼の愛弟子であるチャールズ・ヴェインを失望させた。その後ヴェインは主になって海賊行為をしていったが1720年3月に処刑されている。ジェニングスが投降を決めたとき、投降を拒んだ手下たちがいた。彼らもまたジャコバイト派であり、ヴェインと同じくジェームズ・フランシス・エドワード・スチュアート氏が国王となった暁には軍隊に重用してもらえると確信していたのである。ジェニングスのような資産を持っていなかった彼らは、自分だけが財産だった。

 

 彼らは銃口を商船の乗員たちに向けると次々に撃っていく。


 バン!バン!バン!


 甲板上に倒れていく奴隷船の乗員たち。ゴブリン号は奴隷船へさらに接近をし移乗していった。別の商船でも仲間たちがそれぞれ移乗攻撃を仕掛けている。銃撃やカットラスなどで船の乗員たちを排除していき、船長を締め上げるため船内へ入っていく。

「さあ、お宝はどこだ。おとなしくださねえと強引に探すことになる。勿論、お前たちは皆殺しだ……。それともこのままサメの餌にでもしてやろうか」

 船長や主だった乗員たちを拘束した海賊たちは銃口を突きつけて脅迫をする。

「ひいっ!」

 商船の船長は体を震わせており恐怖で思うように口が動かない。

「あうっ……あうっ……」

 しゃべろうとすると歯ががちがち音を立ててしまい言葉にならず、冷や汗もたらたらと流れて彼の顔は汗だらけになった。

「全くよ……役に立たねえ船長だな」

 海賊がそう言ったところで仲間たちが金品の入った箱をいくつも見つけたと報告をしてきた。海賊たちの顔は興奮のため紅潮している。

「そういうことだ。じゃあ、お前たちは用無しだ」

 

 バン!バン!


 海賊に銃殺され、床に船長と乗員たちの体が転がっていく。

「あとの連中は仲間に入らねば殺す!とでも言っておけ。拒んだら殺すなり海へ投げるなりしてもかまわんぞ」

 海賊船の船長の指示に仲間たちが行動をする。


 そして奴隷船でも悲劇が起きていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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