第二話 魔導具
色々と忙しいことがあって全然投稿できていませんでした……スミマセン。
これからは大丈夫そうだと思います。
ガリ……ガリ……
無機質な洞窟の中で、俺はこの世界に来てからは滅多にしなくなっていた物作りに熱中していた。
こう見えても龍の手先は器用で、意外だが繊細な作業に長けている。俺も昔はハンドメイドが趣味だったので、こういった地道な作業には恋しくなっていたところだ。
さて、俺が今何を作っているのかと言うと……
「キュピーッ!」
おっと、お客さんが来たようだ。
俺は先程からアタックを仕掛けてきたスライムを苦しまないように鉤爪で瞬殺し、 収 納 でその死骸を異空間に転送した。
スライムは魔導具の素材になる貴重な生物だ。俺の下へ来る不運なスライム達には申し訳ないが、見かけ次第すぐに倒すことにしている。
そう、魔導具。それこそ俺が今作っている物だ。
コレは俺が悩んでいた魔力の伝達についての問題を一気に解決に導いてくれた、まさに救世主のような発明なのだ。
切っ掛けは洞窟を探索して見つけた色々な物の魔力量を”鑑定”で調べていたときのことだった。
洞窟に生えている苔にも、コウモリにも、大体の物には魔力が無かった。
大きな期待はしていなかったし、何か良い発見があるとも思えなかった。ただの暇つぶしだった訳だ。
その時、自分の足元に綺麗な光る石が転がってきた。
水晶か蛍石だろうかと思いながら、それに何気なく”鑑定”をしてみたのだ。
すると、こんな内容のディスプレイが浮かび上がった。
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形態:魔導石
魔力:100
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なんと魔力があったのだ!ただの宝石に実は魔力があったことも驚きだが、それよりも俺は気になることがあった。
この石なら、魔力が浸透するのでは?
善は急げということで、俺はこの魔導石とやらに、炎モドキを吹きかけてみた。
暫くはなんの反応も無かったが、よく観察してみると、魔導石が段々とその輝きを増している。
そこで、試しに”鑑定”をしてみた。
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形態:魔導石
魔力:200
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俺の予想通り、魔力量が増えていた。
俺の魔力もその分減ったが、しばらくすると回復していた。外に吐いた魔力はすぐに体内に戻ってきてしまうから、時間が経てば回復するのは知らなかったんだよな。
さて、この魔導石。これが思っていた以上に凄かった。
なにせ魔力を吸収するんだ。その量にも限界はあるが、例の臓器に収まりきらない分の魔力もこれに蓄えることが出来る。
コレのおかげで魔力の研究が大いに捗った。
例えば、今しがたスライムの死体を仕舞うために使った 収 納 だって、昔は膨大な魔力が必要だった。
大量の魔力で無理やり作った小さな異次元空間に、これまた大量の魔力で物体を押し込む。
今は研究に研究を重ねてかなり少ない魔力で扱えるようになったが、この魔法を発明した当時は魔導石の存在が不可欠だったし、その後の研究にだって魔導石は重要な役割を果たした。
そうそう、魔法についてだが、これは魔導石を発見する前から研究していた。
俺の炎モドキは厳密には魔法ではない。魔力が太陽光を反射させて光っているだけだ。
だが、氷や水に近づけると、溶かしたり、蒸発させたりする。おまけに、その後は魔力が少し減る。
これは太陽光の反射だけでは説明のつかないことだ。いくらなんでも、太陽の光だけで即座に水を蒸発させるなどありえない。
俺はこの現象に関しては純粋に魔力がエネルギーとして作用していると考え、研究を進めていた。
そうして、長年の研究の果てに新たな魔法を発見したという訳だ。
例を挙げるとキリがないが、俺が日常的に使っている魔法の一つに 着 火 がある。
俺の炎モドキを解析して作った魔法だ。
具体的には、空気中にある魔力を俺の魔力と接続させて魔力同士の動きが対応するような状態にして、その後に俺の魔力に色や形、温度、明るさなどのイメージを投影させることでまるで小さな炎が燃えているように見せている。そもそも魔力は強いイメージを反射させて増幅し、その影響を受けて状態を変化させる性質があり………っと、あんまり話していると日が暮れるな。
要は俺の考えたことに魔力が反応して、炎みたいになっているってことだ。
魔力は俺の思考に影響を受けて姿形を変化させる。この性質は結構前から知っていたが、その範囲を広げるのには苦労した。
というのも、どうやら魔力は動かしにくい物らしかった。焚き火ぐらいの大きさの炎を出すまでにかなりの訓練が必要だったものだ。
途中から量子力学とかコーディングとかの記憶を引っ張ってきて、論理的に魔法を組み立てられるようになったおかげで、巨大な矢の形をした火の玉をいくらでも出せるぐらいには上達したけどな。
そのせいで調子に乗って、雪山で山火事を起こしかけたんだが。
ま、まあ、人生は失敗の連続って言うしな。俺龍だけど。
というわけで魔導石という革新的な物を手に入れた俺は、まず初めに、何とかしてこれを再現したいと考えた。
どういうことかと言うと、この魔導石、数が少ない。
洞窟を普通に歩き回っただけではまず手に入らないし、手に入ったとしても魔力をあまり貯められなかったりする。
最初にあの魔導石を見つけられたのは奇跡と言っていい。
何故これが魔力を保持できるのかを調べようとひょいと持ち上げると、意外にもその手がかりはすぐに掴めた。魔導石に、何か記号のような物が掘られていたのだ。
記号と言っても単純な物だったが、他の魔導石にも同じような記号が掘られていたのを見て、これが魔導石と普通の石の違いだと確信した。
たぶん、小動物が引っ掻いたり、霰に傷つけられたりして、偶然その記号の形の傷がついた石があったんだろう。理由は分からないが、その記号が掘られた物には魔力を貯める力が備わり、生き物の思考に関係なくその力を発揮するのかもしれない。
この石は空気中に漂っている魔力を長い時間をかけて集めたに違いない。
かくの如く考えた俺は、すぐさま実験を開始した。
その辺に落ちていた石に、同じような記号を彫ってみることにしたのだ。
あの記号が本当にただの石を魔導石に変化させているのかは、実際に試してみればすぐに分かるだろう。
よく調べてみると、質の良い魔導石の記号に特徴があることに気がついた。
それに倣って細かいところも忠実に再現しながら、俺の魔導石第一号(仮)は完成したのだ。
龍のおっかない爪も万能なもので、制作には5分も要らなかった。
だが、制作の途中で結構な数の不良品を作り出してしまった。いつかは器用になれる魔法でも開発してみるかな。
それはさて置き、俺が彫った記号はいつの間にか太陽のように力強く光り、いつまで経ってもその輝きは失われていない。
これはもしや成功したのではないだろうか。もしそうだとしたら効果が現れるのが少し早い気がするが……
俺は早速それを鑑定してみた。
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形態:魔導具
魔力:50000
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……!?
まさか魔力を溜め込めるばかりか、天然の魔導石よりもその効果が高まっているとは……
魔力量の多い石を参考にして作ったからだろうか。やはりあの記号が魔導石を魔導石たらしめる要因のようだ。
もう一つ気になることがある。
最初は鑑定してもウィンドウには岩石としか表示されなかった石ころが、別の物として表示された。
ここまでは俺も予想していた。
肝心の形態が、魔導具と表示されたのだ。
てっきり魔導石と表示されると思っていたのだが、天然の魔導石と、俺の作った”魔導具”は鑑定によれば別物らしい。
俺は元の世界で読んだラノベを思い出した。
前世の知識がある主人公は素晴らしい魔導具を開発して、ハーレム陣にきゃあきゃあ言われるような展開がお馴染みだった。―――俺に縁はなさそうだな。
ラノベではもともと変な力のある素材なんかを材料に魔導具を作っていた。
俺の鑑定が言う魔導具とは少し違う。
俺の魔導具は普通の素材に特殊な文字を刻み込む、ルーン魔術の魔杖のような製法で作っている。
人為的に作られていることが魔導石との違いなのだろうか。まあ、俺は龍なんだが。
この辺りは未開も未開で、人は影すら見当たらない。
どこかに人の文明があるとすれば、もう既に魔導具を発明しているのだろうか。
追求もほどほどに、俺はさらなる魔導具の改良を試みていた。