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第一話 龍の魔法

 あの日から、この龍の身体について様々なことがわかってきた。

 まず、龍は食事を取らない。産まれてから薄々気づいていたことだが、いくら時間が経っても腹が()かない。龍の体内構造が人間の物とは全く違うのは分かっているが、どこからこの巨体を維持できる程のエネルギーを補給しているのだろうか。しかもこの体、魔法を使える。この力がなぜ、どうやって使えるのかは俺も知らないが、そうとしか思えないようなことが今の俺には出来た。



 それはこの世界に来てから3日ほど経ったあたりで起こった。あの洞窟で寝そべり続けるのも暇なので、眼の前にあったあの卵の殻(俺の生まれ故郷)をじっと眺めながら、瞑想をしていた。不思議なことが起こったのはその後だった。

 あの卵の殻のそばに、半透明のディスプレイのようなものが浮かんでいたのだ。

 そこにはこのような内容が書かれていた。



 ==========================

 形態:古龍種の卵の殻

 魔力:0

 ==========================



 俺は前世でラノベを読みふけっていたので、これがなんなのかは大凡(おおよそ)見当がついた。



 ―――ステータスだ。





 まさか自分にラノベによくある”鑑定”のようなことができるとは思っても見なかった。まあ、口から炎が吐けるのに今更かな。

 それに、二つ気になったことがあった。まずは、あの卵の殻が『古龍種の卵の殻』と書かれていたことだ。この鑑定(取り敢えずそう呼ぶことにした)がどれだけ正確なのかは分からないが、もしもそれが事実なら俺は本当に龍になってしまったようだ。



 俺はこの鑑定についてもっと調べるために、石川啄木ばりに自分の手をじっと見つめてみた。すると先ほどのディスプレイは消え、新しいディスプレイが手元に浮かんだ。



 ==========================

 形態:古龍種の子供

 魔力:20000

 ==========================



 ”鑑定”によると、やはり俺は『古龍種』という生物のようだ。そして、このディスプレイは手で触れても感 触がないばかりか、空気のように通り抜けてしまうということも分かった。多分、このディスプレイはホログラムのように空中に光を投影しているのだろう。仕組みはさっぱり分からないが。



 それと、もう一つ気になることがあった。魔力についてだ。今のところ”鑑定”からはこれと鑑定したいものの種類しか分からない。俺みたいに口から火を吹くドラゴンが居るなら魔法もあるだろうし、魔力だってあるのかもしれないが、ではこれ(魔力)は一体どう使うのだろうか?



 地球のファンタジー作品ではよく魔法使いは魔力を消費して魔法を使っていた。つまり、俺も頑張れば魔法を使えるはずだ。そのためには、自分の中のどこに魔力があるのかを見つけなければならない。

 もし”鑑定”の内容が全くのデタラメであったら無駄な時間を過ごすことになるのかもしれないが、龍になってからやることがないのだ。暫くはこれで時間を潰せる。



 まずは、自分の身体の丹田辺りに意識を向けてみる。

 何故かって?俺の見ていたラノベの主人公は丹田に魔力を蓄えていたからだ。それ以外に魔力を探す手がかりはまったくない。



 龍に丹田があるのかも分からないが、まああるとすれば人間と同じように臍の下辺りだろう。

 そんなことを考えながら魔力を探していると、なんと丹田の近くで俺の意識に反応する存在を見つけた。

 こんなにあっさりと見つかるとは思っても見なかったな……

 しかしこの魔力、なかなか頑固である。なんとか体の一部だと認識することで僅かに動いたが、それでも本当に僅かである。体の外に出すどころか、この魔力の貯まっている臓器から出すこともままならない。



 だが、何時間も格闘していると、徐々にではあるが魔力の移動可能な距離が伸びていってることがわかった。

 例の臓器を中心として大豆くらいの大きさの範囲ではあるが、それでも着実に大きくなっていることが分かる。

 ―――これ結構楽しいな。




 魔力の移動可能な範囲を広げるには魔力を移動させればいいことが判明してから、俺はずっとこれをしていた。もはや趣味と言ってもいいくらいだ。

 なにせあの洞窟の中はびっくりするほど何もないし、俺の一日は魔力を動かすことと寝ることくらいしかやることがなかったからだ。泣ける。



 しかし、そんななけなしの趣味でさえ終わりを迎えつつあった。

 俺の魔力は今や手足を動かすよりも簡単に動かせるし、例の臓器から抜け出してついに全身を移動できるようになっていた。

 けれども、そこから先がうまくいかない。



 体内から体外へ魔力を出せないのだ。

 例えれば、魔力が魚で、今までの体内の環境が水中のようなものだとすれば、体の外は陸のようなものだ。体の外に魔力を出そうとすると、反発するような感じで体内に戻されてしまう。



 やはり龍の身体とただの空気では魔力の浸透性が違うのだろうか……?

 ここで一回、魔法とは何なのかを考え直す必要があるのかもしれない。

 俺は魔力を移動させる前から炎を口から吐けていた。前に、炎を吐く前と吐いた後で”鑑定”での俺の体の魔力量が変わるのか調べてみたことがある。



 結果としては変わらなかった。いくら強い炎を吐いても俺の魔力はちっとも減らなかったし、なんなら魔力を例の臓器に留めたまま炎を吐くことだってできた。だから俺は炎を吐く能力と魔法は全く別のものだと思っていた。



 しかし、その考えは間違っていたのかもしれない。俺は炎を吐いてから”鑑定”を使っていた。

 だが、もし炎を吐いている()に”鑑定”を使ったらどうだろう?



 ==========================

 形態:古龍種の子供

 魔力:10000

 ==========================



 ……予想通り、俺の炎は魔法だった。




 俺はこの炎を、空気中に放たれたまま霧散する物だと思っていた。しかし、この炎は普通の物とは違っていた。一旦出したエネルギーを元に戻せるのだから、もしかしたら炎ですら無いのかもしれない。

 そもそも、俺はどうしてこれを炎だと思っていたんだ?



 赤くて、光り、水を蒸発させたからだ。

 しかし、俺は炎を吐いても口を火傷しなかったし、よく考えてみればあの炎モドキが光っているんじゃなくて、太陽の光を反射させているだけだったのかもしれない。



 虹はそれ自体がああやって色がついていて光っているわけじゃない。空気中の水分子などに太陽光が反射して、あの綺麗な七色になる。コレもそういうカラクリなんじゃないか?

 よく考えれば、俺は洞穴水を蒸発させる前の自分の魔力の量を知らない。



 あの炎モドキは魔力そのもので、ただ赤く光るだけなら太陽光のエネルギーを使えばいい。魔力は洞穴水(どうけつすい)に干渉して沸騰させていたので、その分の魔力は減った可能性がある。ただ、その頃の俺に”鑑定”の能力が無かったせいで、俺は魔力を()()()()水を蒸発させたと勘違いした。



 ふむ、これなら結構辻褄が合うな。ただ、どうして例の臓器に魔力を留めたまま炎モドキを吐けたのかが分からない―――いや、それも違うな。俺は魔力を例の臓器に留めていると思っていた。だが、それは本当に例の臓器だったのか。



 俺は例の臓器に魔力があるとき、触覚のようなものでその存在を感知できる。

 うまく言い表すことはできないが、それはアナログ―――連続的な物―――ではなく、デジタル―――断続的な物―――だった。つまり、例の臓器のどこに魔力があったとしても、俺はすべて同じ感覚として受け取ってしまう。



 なので、例の臓器は実は口まで繋がっていて、そこから魔力が吐かれていたとして、例の臓器が丹田の辺りにしか無いと思い込んでいる(・・・・・・・)俺は気付けない。



 ちなみにちゃんと確認したら消化管に沿うように例の臓器があった。つまり魔力の確認は別に丹田の辺りでしなくても良かったし、なんなら口も例の臓器の一部だった。それにもし魔力を縦方向にも動かしていればもっと早く真実に気付けたのかもしれない。



 俺は魔力をわざわざ例の臓器と一番離れている手から出そうとしていた。……考えてみればアホだったな。

 ちなみに何故手なのか言うと魔を貫き光で殺すようなやつをやりたかったからだ。



 そんな感じでようやく外に魔力を出す方法を覚えた俺だったが、振り返ってみると最初に炎を吐いたのがまさか最適解だったのか……龍生(じんせい)って難しい。



 さて、魔力を外に出せることがわかったが、例の臓器と俺の身体以外にも魔力を浸透させたいという思いは変わらない。結局魔力を口から吐けていたのは口とそこから伸びる一定の範囲が例の臓器になっていたからであって、俺はまだ空気にすら魔力を伝達できていない。うーむ、何が空気と魔力を隔てているのだろうか。

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