フェロモンと嘘
フェロモン体質。
ルックスも頭も並なのに、モテてしまう。
一見、うらやましがられるような体質だけど、そんなにいいもんでもない。
なんにでも過度の好意を寄せられるのは大変だし、騒動の種になってしまう。
だから、なんとかある程度コントロールできるように努力したし、怪しげな研究をしてる叔父に制御する装置も作って貰った。
でも、それらも完全なものでない。
漏れ出るソレによって、女の子には他の男より好意的に接してもらえる。
まぁ、恋愛沙汰になるほどではないし、それはそれで得ではある。
例えば、学食のおばちゃんにおかずを一品、オマケしてもらったり。
力をコントロールできるということは、それを抑えることも出すこともできるというわけで。
まぁ、あこがれる女の子を呼び出して、最大出力しつつ告白したのは若気の至りとでも言うか。
言い訳するわけではないが、こういう能力があったら、使いたくなるのが人情だろうと思う。
それに、実行するまでに結構悩んだんだ、これでも。
それで、まぁ、当然OKを貰ったんだけど…3日で別れた。
虚しかったし、疲れたしね。
効果が切れるたびに力を出すのも、戸惑った顔を見るのも。
最大出力で照準を狭めてやれば恋愛感情を持たせることもできるけど、効果もすぐに切れる。
つまり、俺のことをなんとも思ってない状態に戻る。
もともと、普段の、漏れ出ている程度の力なら、俺がそばから離れれば効果は消えてしまう程度だ。
そういう訳で、もう、そんな使い方はしてない。
女性の店員さんからオマケを貰うため、とかでは使ってるけどね。
だから、この大学に入って、京に会って。
びっくりした。
最初は、頭がよくて、きちんと真面目な人って聞いてたから、宿題見せてもらおうと思ったんだ。
断られたから力を出して、でも、効かなくて。
最後には最大出力までいったのに。
それに、
「この授業をとったのは自分の意思だろう。とくに理由もなしに、いい年にもなって人に頼るな」
なんて、怒られて。
その強い言葉と、力が効かないって事で、もう思いっきり、京に対して興味が出た。
それからは、もう、なにかあれば京にかかわって。
最初は嫌な顔されたけど、京にかかわるって事は、まじめに学業に励むってことでもあった。
そうしていると、そのうち京も認めてくれて。
まぁ、友達にはなれた。
彼女との聡明な(彼女にとっては普通だろうけど)会話とか、自分の決めたことや役割を遂行しようとする真面目な姿勢とか。
そういうものが分かってきて。
たまに、思い出したように力を出しても、やっぱり効かなくて。
いつの間にか、京がとても好きになっていた。
叔父さんがとうとう、この能力を完全にシャットアウトする装置を完成させてくれた。
小型のその装置をつけ、能力最大限開放で町を歩いても、誰も振り返らない。
本当に完全にシャットアウトしることが分かり、俺と叔父さんは祝杯を挙げた。
「これで、安心して、お前も恋ができるな」
そう、酔っ払った叔父さんは、何か見透かしたように言ってにやりと笑った。
そうして、彼女を呼び出して、バカな話に聞こえるかもしれないが…、なんて前置きしてから、俺は自分の体質と、それが京には効かない事を説明した。
「実は、それは…知っていた。」
そう切り替えしてきた彼女に、俺は吃驚してしまった。
「叔父さんというのは、工学部の高畑教授のことだろう?
廊下を通りかかったとき、たまたま君と教授の話を聞いてしまったんだ。
冗談かとも思ったけど、そういう雰囲気ではなかったし、そう思って観察すると、辻褄が合うこともあった。
知っていて、黙っていたのは悪いと思ったが、そっちも黙っていたし、知らないフリをしていた方がいいかと思ったんだ。
でも、悪かった。」
そういって、すまなそうな顔をする彼女は、やはり、いい奴だとおもう。
「…でも、なんで、それを告白する気になったんだ?」
そう聞かれると、ちょっとドキドキしてしまうが、勇気を振り絞って、言わなきゃならない。
まずは、制御する装置が完璧に完成したということを報告した。
そして、続けていった。
君が、京が、好きだ、と。
心臓が破裂するかというぐらいに緊張して、返答を待つ俺に返ってきた言葉は、
「嘘をつくな。」
だった。
「そんな嘘をついて、何になるんだ。私をからかって、楽しいのか?」
なんで、俺が嘘をついていると思うんだ。
京は、それは真面目で冗談が通じないところも多少はあるが、むやみに人を疑ったりする事はない。
こんな冗談みたいな体質の事は信じてくれたのに、心は信じてくれないのか?
俺は、からかってなんかいない、真剣に言っているんだと説明したが、それでも京は信じようとしてくれない。
自分の想いは迷惑なのか、いや、そもそも、俺は京にとって、そういう悪戯をするような奴だと思われていたのか。
なんだか悲しくなってきて、何が嘘だと思うんだ、と叫んでしまった。
「だって…まず、その能力が完璧に抑えられる装置が完成したというのが、嘘だろう!?
そして、私が、その能力が効かないっていうのも!嘘だ!?
絶対に、それは、嘘だ!」
そう叫び返した京の言葉は、いつも冷静な彼女らしくなくて。
そのせいで逆に冷静になってその言葉の根拠を推測することができた。
俺は。
なんだか嬉しくなって、彼女を思わず抱きしめた。