第994話 有名夫婦な所以
私が真人の心配をしていると、店長さんが「それから」と言ってこう続けた。
「中筋君と西蓮寺さんがここの名物夫婦と言われる所以は、イチャイチャしてるからってだけじゃないんだよ」
店長さんが言ったことに、心当たりがある。以前に店長さんから言われたのもあるから、イチャイチャ以上にそっちの方が自覚がある。
「え、そうなんですか?」
「うん。美奈ちゃんは何かわからない?」
「んー……なんだろう?」
「美奈ちゃんと一緒にここに来たの、初めてだからね」
真人と付き合う前、ここに初めて来た時に、真人とそれをやっている所を美奈ちゃんが見ていたことがあったけど、それだとは思っていなさそう。
まだ答えが浮かばない美奈ちゃんを見て、店長さんは笑顔で答えを言った。
「ふたりはね、エアホッケーがすごく強くて、今や対戦するとギャラリーが集まるくらいなんだよ」
「そ、そうなんですか!? あ……そういえばここで初めてふたりを見た時もエアホッケーをしてたような……」
美奈ちゃんは私と初めて会った時のことを思い出しているみたい。
あの時、真人と接戦を繰り広げていたけど、私の最後の攻撃に真人は反応できなくて、それは私の後ろで偶然私たちの勝負を見ていた美奈ちゃんが真人の目に入ったからなんだけど……あの時は『好きな人の妹さん!?』って思って、内心すごくドキドキしていたのを覚えてる。
「え、お兄ちゃんたちってそんなに強いんですか? お義姉ちゃんのようなものすごい美少女がエアホッケーをやってたからギャラリー……男子たちが群がってきただけじゃなくて?」
確かにエアホッケーは男の人の方がよくプレーするイメージはあるけど、女の人がしても変だとは思わないけど……。
というか『ものすごい美少女』って……。
「確かにそれもあるかもだけど、ふたりの試合は毎回白熱するんだよ。これだけ想いあっているふたりが一切の容赦なく相手を倒そうとする姿勢に、自然と人が集まってくるんだよ」
「じ、じゃあ……本当に強いんですね」
「しかも西蓮寺さんの方が強いんだよ。確か四月にやった時は西蓮寺さんが勝ったよね?」
「そうですね。初めて二点以上の差をつけて勝ちました」
真人と勝負する時は、いつも一点差の僅差だったから、あの時の勝ちはいつもより嬉しかったなぁ。
「え、お兄ちゃんがお義姉ちゃんにわざと勝たせたわけじゃなくて?」
「うん。真人は毎回、私を倒そうと本気を出してくれてるよ」
真人はいつも優しい笑顔を私に向けてきてくれるけど、私とエアホッケーをしている時は、すごく真剣な、真面目でかっこいい顔を私に見せてくれる。
真剣な表情といっても、それは私を敵と認識した表情で、本気で私を倒すと決意したような顔だ。
エアホッケーをしてる時だけ、真人は私をそんな顔で見てくるんだけど、もちろんショックなんかはなくて、むしろ嬉しいとさえ思ってる。
実力が拮抗しているのもあるけど、全力でぶつかってきてくれるのが本当に嬉しい。
こういうことを考えると、真人とエアホッケーしたくなってきちゃった。今は部活中で無理だし、終わったあとなんて真人は疲れてるから無理させるわけにもいかないから、夏休みに入る前後に言ってみようかな?
「……お義姉ちゃん、今絶対にお兄ちゃんのこと考えてる」
「本当、西蓮寺さんはわかりやすいな」
美奈ちゃんと店長さんの話し声が聞こえてそちらを見ると、美奈ちゃんはちょっと生暖かい、店長さんは笑って私を見ていた。
美奈ちゃんの店長さんに対する苦手意識がなくなってきてるのは嬉しいけど、なんでそんな目で私を見てるんだろう?
「美奈ちゃん、西蓮寺さんの実力に興味があるなら、一度対戦してみてはどうだい?」
「お義姉ちゃんとですか? ……いい? お義姉ちゃん」
「もちろんだよ美奈ちゃん!」
うわぁ……美奈ちゃんとエアホッケーができるなんてすごく楽しみ!
「どうする? 先にする? それともやりたいゲームを先にする?」
「ん~……先に他のゲームしたい」
「わかった。じゃあ行こう美奈ちゃん」
「うん」
私たちはまた手を繋いで店長さんを見た。
「では店長さん、私たちはこれで。本当にありがとうございました」
「お礼なんていいよ。それよりも楽しんでね。西蓮寺さん、美奈ちゃん」
「はい。店長さん、失礼します」
「店長さん、また……」
美奈ちゃんはちょっと遠慮気味にだけど、店長さんに手を振っていた。
そんな義妹を見て嬉しくなりながら、私たちはリズムゲームのコーナーへ移動した。




