第993話 改めての紹介
店長さんを再び探していると、さっきと同じ場所にいたので、また店長さんに近づいた。
「店長さん、さっきは本当にありがとうございました」
「西蓮寺さんがお礼を言うことじゃないだろう」
「いえ、私が最初に無理を言っちゃいましたから……」
出入り禁止を撤回するのって、すごく難しいはずなのに、私の無理を、そして中村君を信じてくれたことはちゃんとお礼を言わないと。
「西蓮寺さんの願いを突っぱねるのも申し訳ないしね。まぁ、中村君がまた少しでも怪しい動きを見せたら、すぐに声をかけさせてもらうけどね」
「きっと、それで声をかけることはないですよ」
むしろ中村君がゲーム筐体を乱暴に扱っている人たちを注意するんじゃないかな?
「そうあってほしいけどね。それはさておき……」
店長さんは笑顔で私と手を繋いでいる美奈ちゃんを見た。美奈ちゃんはちょっとだけビクッと肩が跳ねたけど、さっきみたいに私の後ろに隠れることはしてない。ちょっとは慣れてくれたのかな?
「改めてだけど、こうして話をするのは初めてだね。このゲーセンの店長の磯浦颯斗です」
「な、中筋、美奈です。よろしく、お願いします……」
まだちょっと緊張してはいるけど、ちゃんと自己紹介ができたみたい。
この調子で店長さんと普通におしゃべりをする関係になってくれたら嬉しいな。
「うん、お兄さんの真人君と同じで、いい子そうだね西蓮寺さん」
「はい。とってもいい子で、私の自慢の義妹です」
「お、お義姉ちゃん! は、恥ずかしいから……」
美奈ちゃんは顔を赤くして私のTシャツの袖をクイクイと引っ張っている。かわいい!
「あっはっは! ふたりもとても仲良しなのは今のでわかったよ」
「はい。とっても仲良しです。ね、美奈ちゃん?」
「う、うん……」
照れくさそうこくりと頷く美奈ちゃん……すっごくかわいいよ!
「と、ところで、店長さんは、うちのお兄ちゃんとも仲良しなんですよね?」
「そうだね。中筋君がここに顔を出したら絶対に俺に挨拶をしてくれるし、時間があったら他愛ない話もしてるね。それに、なんてったって中筋君と西蓮寺さんはこの店の名物夫婦だしね」
『名物夫婦』と言われて、なんでそう呼ばれたのかはすぐにわかったけど、どうやら美奈ちゃんは別の方に考えちゃったようで、「……え?」と、ちょっと引いたような顔をして私を見てきた。
「な、何を考えてるの美奈ちゃん?」
「いや……お義姉ちゃんたち、ここでもイチャイチャしてるんだなって……」
「な、何言ってるの美奈ちゃん! してっ!……ないよ?」
「なんで自信なさげなの……やっぱりしてるんじゃん」
え、してる!? いや、確かにゲームセンター《ここ》でもイチャイチャしたことはあるよ。覚えてるもん。真人とプリクラ撮る時にキスしたとか。
そうじゃなくて、店長さんたちスタッフの皆さんや、他のお客さんのいる前でイチャイチャしたことがあるかを思い出しているんだけど……。
「て、店長さん。私たちって、ここでもイチャイチャしてました?」
「うん。してたね」
「!?」
そ、即答されちゃった……!
「西蓮寺さんが中筋君の腕に普通に抱きつくところは何度も見てるし、クレーンゲームで取れた時なんかもハグして喜びをわかちあってるし……」
「も、もう大丈夫! だから言わないでください!」
指折り数える店長さんをつい止めてしまったけど……え、私たち、ここでもそんなにいっぱいイチャイチャしてたってことなの!?
「やっぱりね。ふたりが揃ってイチャイチャしないとかありえないし」
「うぅ~……」
美奈ちゃんがなんだかふふ~んみたいな顔してるけど、事実みたいだから何も言い返せない。
私たち、みんなから言われてるもんね……『どこでもイチャつく』って……。
私はもちろん、真人もやめるつもりはないと思うけど、そんなにイチャイチャしてるのかな?
「まぁ、ふたりが揃っていてくっついてないのは逆に違和感しかないけどな。美奈ちゃんだってそうだろ?」
「……ま、まぁ、そうですね。くっついてないと何かあったのかと心配はしちゃいます」
「わ、私たち、今まで通りにしていても大丈夫なんですよね?」
外でくっつきすぎるのはやめた方がいいのかな? でも真人とは一緒にいる間は極力離れたくないし……って葛藤していると、ふたりの話の流れが変わったのがわかったから聞いてみた。
「もちろんだよ。違和感しかないからぜひいつも通りにしておいてよ」
「あんまり外でいちゃつかれてもって思わないでもないけど、それがお兄ちゃんとお義姉ちゃんだからね」
「わ、わかりました! これからもいっぱい真人にくっつきますね!」
なんだか美奈ちゃんが微妙な顔をしているけど、これからも外で真人とくっつけるのは嬉しいな。
真人、部活頑張ってるかな? まだ終わるまで一時間以上はあるから、真人の喉がちょっと心配になっちゃうよ。




