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第992話 それはないよ

「中村君、よかったね!」

 店長さんがゲームセンターの中に入ってから少しして、ピリついた空気が弛緩していったタイミングで、私は中村君に声をかけた。

 中村君は大きく息を吐いて、気持ちを落ち着けさせてから、私に笑顔を向けた。

「西蓮寺のおかげだ。マジでありがとうな」

「あの寂しそうな顔を見てたら、考えるより先に行動しちゃって……」

「こんな俺のために行動できるのがスゲーよ。もうお前には頭が上がらねーな」

「そ、そんな! 旦那様のお友達なんだから、何とかしたいと思うのは───」

「当たり前じゃねーって。俺に関してはな」

「う、うん……」

 いろいろ確執があったのは事実だもん、ね。

「なんかお礼をしなきゃだが……」

「いいよお礼なんて。私が勝手にやったことで、大きなお世話じゃないかとも思ったし……」

「感謝こそすれ、そんな風に思うことは絶対にねーよ。……なら、お前ら夫婦が何か困ったことがあったら言ってくれよ。その時は力になるからな」

「わかったよ。真人にも伝えておくね」

 これも断ろうかと思ったけど、多分それだと中村君は引き下がらないと思ったし、真人と言った遊園地で菊本さん親子との間に起こったちょっとしたアクシデント……その時の真人と義之さんとのやり取りを思い出して、中村君の協力を得ることにした。

「中村君、お友達が待ってるんでしょ? 早く行ってあげないと」

 店長さんを探している時、中村君のお友達らしき男子の集団がいたから、きっとあの人たちがそうだよね。

「あ、あぁ! マジでありがとう! 西蓮寺、中筋の妹ちゃんもまたな!」

 中村君は手を軽く挙げて私と美奈ちゃんにそう言うと、ゲームセンターの中に入……ろうとして、なぜか自動ドアの前で立ち止まった。

「中村君?」

「……西蓮寺。ひとつだけ答えてほしいんだけどさ……」

 中村君はこちらを見ずにこう続けた。

「もしも俺が、中学から今の性格だったとして、そしたら俺は……お前と付き合えていたか?」

「!」

 まったく予想していたなかった質問に少しびっくりしちゃったけど、その答えなら考えるまでもなく決まっていた。

「……それはないよ。私はどんな世界線だったとしても、真人しか選ばないから」

 真人と一緒の中学じゃなかったとしても、私と真人はいつか絶対に出会う運命にあるから、どんなに魅力的な男性と出会っていたとしても、真人以外を彼氏に選ぶことは、絶対にない。

 それだけ私と真人の間には、強く固い絆があるんだから。

「……そっか。残念だ。……まぁ、そうだよな」

 そう言っている中村君は、「フッ」と目を瞑って、笑っているように見える。

 残念って言っているけど、なんだかあんまりそういう風には見えないけど……。

「……あんまり残念そうには見えないです」

 私が思っていたことを、美奈ちゃんがちょっと遠慮気味に言っていた。

 中村君……はぐらかすかな? それともちゃんと答えるのかな?

「まぁ、そう言うだろうって予想はしてたし……それに俺……今ちょっと気になる人、いるしな」

「そ、そうなの!?」

 正解は後者の方で、ちゃんと答えてくれたんだけど、その後にちょっとびっくりすることを言って、思わず聞き返してしまった。

 中村君の気になる人って、どんな人なのかな?

「あぁ。うちの学校の先輩で、ちょっと一筋縄じゃいかない人なんだけどな」

 中村君の先輩……年上の人なんだ。

 頭の中に茜さんと一哉君が出てきた。先輩って聞いたからかな?

「……そろそろ行くよ。あいつらの驚く顔が見たいからな」

 お友達が中にいるもんね。いつまでも引き止めておくのも悪いし、私も美奈ちゃんと店長さんを改めて紹介して、美奈ちゃんと遊びたいし。

「頑張ってね中村君」

「おう、西蓮寺も中筋とうまくやれよ。……色々サンキューな」

「気にしないで。じゃあまたね」

「……あぁ、またな、西蓮寺。中筋の妹ちゃんも」

 振り向きざまに手を振る中村君に、私も手を振り返して、美奈ちゃんは会釈をしてゲームセンターに入っていく中村君を見ていた。

「中村先輩の恋、うまくいくかな?」

「きっと大丈夫だよ。今の中村君なら。さ、私たちも入ろう、美奈ちゃん」

「……うん!」

 ちょっと緊張を増した美奈ちゃんの手を握って、私たちも再びゲームセンターの中へ入った。

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