第989話 許せるのか、許せないのか
「……中村君はあの時、中筋君にひどい暴言を吐いたと聞いた。西蓮寺さんが何よりも……誰よりも大切にしている中筋君にだ。キミはそれを許したのかい?」
「……」
私はすぐには答えず目を閉じる。そしてあの時のことを思い出す……。
『西蓮寺は罰ゲームでこいつと付き合ってるんだろ?』
『こんな陰キャでキモいクソオタクと好き好んで付き合う奴なんているわけねぇじゃん』
『お前みたいに勉強も運動も出来ない最底辺で気持ち悪いオタク野郎のことを、西蓮寺の様な美少女が本気で好きになるわけないってわからないのか? わかるわけねぇか。お前みたいなバカは、西蓮寺が自分と付き合ってくれたって舞い上がって、そんな事考えつくわけないもんな』
他にも色々言ってたよね。それこそここにいる美奈ちゃん、それに杏子さんやマコちゃんが聞いたらその場で怒りそうなことを。
私も実際に怒った。あそこまで怒りで頭に血が上ったのはあれが初めてだった。
あれからもう八ヶ月くらい経って、改めて思い出して───
「許せないです」
私にはやっぱりその結論しかなかった。
「私は、真人を傷つけた人、心無い言葉を言った人を……そのことを完全に許すことは、多分ないです」
店長さんの言ったように、真人は私にとって何よりも大切な存在。
私の心が狭いのかもしれないけど、誰よりも愛している人を傷つけた人を、何年経っても完全に水に流すなんてことは……できない。その未来がイメージできない。
「そんな人物の肩を、西蓮寺さんは持とうとしている。そして、俺の一番大切な場所に入れようとしている。そのことはわかってるね?」
「……はい」
あの時店長さんは、『店の筐体を乱暴に蹴ったりしていて厳重注意をしたのに』って言っていた。
店長さんの一番大切な場所を荒らそうと……してやったのかはわからないけど、大切なゲームたちを傷つけられるのが我慢ならないのは十分にわかってる。
「聞かせてくれないかな? 西蓮寺さんがそうまでして中村君の出禁を撤回したがっている理由を」
「……」
私はまた目を閉じて、深呼吸をした。言いたいことの整理と、どうしてそう思ったのかを思いざすために。
私はもう、中村君はお友達だと思ってる。それは四月の……夕姫ちゃんと同盟の件で来てくれたあの日から。
でも、あの時は……正直このゲームセンターの出入りを禁止されていることは忘れちゃっていた。
私がこうして店長さんに直談判をしてまで中村君の出入り禁止を取り消してもらいたいと思ったのはついさっきのこと。
あの表情と、中村君が言った一言がきっかけになったから……。だから私は、考えるより先に足が動いたんだと思う。
「……中村君、ここを見ながら言ったんです。『ここは子供の頃からよく通ってた思い入れのあるゲームセンターで、自分のせいだとわかってるけど、ここで遊べないのはやっぱり辛い』って……そう、言ったんです」




