第988話 綾奈の説得
美奈ちゃんと一緒にゲームセンターに入った私は、店長さんを探すために辺りを探しながらゲームセンターの奥へ進んでいく。
午前中だからそこまでお客さんはいない。
リズムゲームの所で、私と同い年くらいの男子の集団を見つけた。きっとあの人たちが中村君のお友達なのかもしれない。
彼らのことは今はいい。早く店長さんを探さないと……!
「お、お義姉ちゃん、誰を探してるの?」
「店長さんだよ……あ、いた!」
お店の一番奥……メダルゲームのコーナーで、誰も座っていない筐体を掃除していた店長さんを見つけたので、私は走って店長さんに近づく。
「店長さん!」
「……ん? やぁ西蓮寺さん。いらっしゃい」
私に気づいて、掃除を中断して笑顔で挨拶をしてくれた店長さん。だけど美奈ちゃんは私の後ろに隠れてしまった。優しい笑顔だったのに、やっぱりまだ苦手意識があるのかな?
「その子は中筋君の妹さんだよね? 今日はふたりで来たんだ」
「はい。あの、美奈ちゃんの紹介はあとでちゃんとするので……今は店長さんにお願いしたいことがあるんです!」
「西蓮寺さんが俺にお願い? 珍しいね。……あ、もしかして麻里奈ちゃん関係かな?」
お姉ちゃんが妊娠したことは、既に店長さんの耳にも入ってるんだ。お義兄さんが嬉しくなって店長さんに言ったのかな?
「それは多分、お義兄さんが言ってくると思います。私のお願いは、お姉ちゃんとは関係のないことなんです」
「麻里奈ちゃん関係じゃないとすると……一体何かな?」
腕を組んで「う~ん」と唸りながら考えている店長さんを見ながら、私は一度心を落ちつけさせるために、目を閉じて深呼吸をする。
そして小さく頷き、思い切り頭を下げた。
「店長さん……中村君の出入り禁止を、撤回していただけないでしょうか!」
私のお願いは、中村君の出入り禁止の撤回。
少しの沈黙のあと、店長さんが驚いたように「え?」と言った。
私はまだ頭を下げているから、店長さんがどんな表情をしているのかわからない。
「お、お義姉ちゃん、どうして……?」
「美奈ちゃんは、あの中村君を見て何も思うところはなかった?」
そのままの姿勢で美奈ちゃんに問いかけると、美奈ちゃんは小さく「え?」、と言った。
「中村君のイメージは、真人から聞いていて知っていたと思うけど、今の中村君と、何ヶ月も前の中村君が違うのは、美奈ちゃんもわかるよね?」
「う、うん……。正直、今もちょっとびっくりしてるし、困惑もしてる」
「中村君はもう、ここで問題を起こした頃の中村君じゃない。だからお願いします店長さん! 中村君をまたここで、遊べるようにしてもらえないでしょうか!」
こんなお願いを、店長さんが簡単に聞き入れてくれるなんて思っていない。
私が店長さんの相棒……親友の義妹だとしてもそんなのは関係ないってわかってる。
中村君がここを出入り禁止になったのも、前の性格が災いしての自業自得だということも。
だけど、中村君のあの顔を見たら───
「……西蓮寺さん」
「はい」
「まずは、頭をあげてほしい」
「……わかりました」
私はゆっくりと頭をあげ、店長さんを見ると、店長さんは真剣な眼差し……というよりちょっとだけ睨むように私を見ていた。
今まで私に向けたことのない目をしていたので、びっくりして少しだけ怯んでしまった。
「中村君というのは、以前君たちと口論になったあの背の高い子……で間違いないかい?」
「はい」
「そうか……」
そうだけ言うと、店長さんは何か考えるようにまた腕を組んで目を閉じた。
そして十秒くらいして、目を開いて腕を組むのをやめた店長さんは、私をまっすぐ見て言った。
「彼を許す許さないの前に、西蓮寺さんに少し聞きたいことがあるけど……いいかな?」
「は、はい」
一体どんなことを聞かれるんだろう……私は店長さんの次の言葉を、緊張を強め、唾をゴクリと飲み込みながら待った。




