第986話 ゲーセンの前にいた人物
「……中村君、どうしたの?」
「っ! ……西蓮寺か」
私はゲームセンターの前に立っていた知り合い……中村圭介君に声をかけると、中村君はびっくりしたようにこっちを見た。
「ゲームセンターの中を見てたみたいだけど、入らないの?」
「……入らないっつーか、入れないっつーか……」
「あ……」
そ、そうだった! 中村君は去年の十一月のある出来事がきっかけで、店長さんから出入り禁止を言い渡されたんだった!
私が……私たちが原因だったのに、それを忘れていたなんて……!
「ご、ごめんね中村君! 私ったら……」
「謝るなよ西蓮寺。元はと言えば俺の言動に問題があったんだからよ」
「……」
私の中村君の間に気まづい雰囲気が流れる中、美奈ちゃんが私の手を離して一歩前に出た。
「……中村先輩」
「え?」
まさか美奈ちゃんから声をかけられると思ってなかった中村君は、びっくりした顔で美奈ちゃんを見ている。
「中村先輩はまだ、お義姉ちゃんのことを狙ってるんですか?」
「お姉、ちゃん? 西蓮寺、お前妹がいたのか?」
中村君はちょっと驚いて目を見開いている。
中学の頃、男子の中では誰よりも一緒にいた時間が長くて、いろんな話をしたけど、きょうだいの話なんて一度もしたことがなかったのを中村君も覚えていたみたいで、ちょっと困惑してるみたい。
「えっと、この子は本当の妹じゃなくて、真人の妹なんだよ」
「っ! 中筋の妹なのか!?」
中村君はびっくりした様子で、私と美奈ちゃんを交互に見てくる。
「……確かに、西蓮寺に似てないな。かと言って中筋にもあまり似てない」
確かに真人と美奈ちゃんの外見はあまり似ていない。性別が違うのもあるかもしれないけど。
そんな中村君の視線にも全く表情を崩さない美奈ちゃんは、先輩、そして真人以上の身長差にも物怖じせずに中村君に、さっきより語気を強めて聞き返した。
「私の質問に答えてください! お義姉ちゃんのこと……まだ想ってるんですか!?」
「み、美奈ちゃん! 中村君は───」
「いいよ西蓮寺。俺が言う」
中村君は私の前に手を出して制止してきたので、私は中村君にゆっくりと頷いてこれ以上は口を出さないようにした。
「……その口ぶりだと、俺のこと、アニキから聞いたのか?」
「はい。中村先輩は男の人と女の人では態度が全然違うって。それに、私の親友のマコちゃんにまで手を出そうとしたことも……!」
初詣の時、修斗君との一件のあとにマコちゃんが言っていたけど、美奈ちゃんはそれについてもまだ根に持っていたんだ。
前の中村君は付き合う人が取っかえ引っ変えって聞いていたから、誠実にマコちゃんとお付き合いをしたいと思っていなかった中村君に怒るのも無理はないけど……。
「マコちゃんって……」
「私より背が低くてとっても可愛い子です」
「…………あぁ」
中村君はじっくり考えてマコちゃんを思い出したのか、少しだけ目を見開いて小さく呟いた。
「マコちゃんは私のお兄ちゃんがずっと好きで、中村先輩の誘いは断りましたけど、もし中村先輩についていっていってそのまま付き合ってたらと思うと……やっぱり、許せなくて……」
「……」
マコちゃんは顔には出さなかったけど、今年に入ってからずっと、マコちゃんのことで中村君のことを恨んでいたんだ。
「中村先輩、答えてください。先輩はやっぱりまだ、お義姉ちゃんが好きなんですか?」
最初の質問に戻った。
次の中村君の発言で、美奈ちゃんがさらに怒るのか、それとも今の怒りが収まるのかが決まる。
けど、今の中村君を知っている私にあるのは、この険悪な空気へのドキドキだけで、中村君がどんなことを言うのかは予想がついていたので心配はしていなかった。
「……え?」
やっぱりというべきか、中村君の取った行動に、美奈ちゃんが驚いていた。
中村君が、その場で腰を折って深々と頭を下げたから……。




