第983話 過保護な義姉弟
ノックをしてドゥー・ボヌールの二階の部屋に入り、麻里姉ぇの部屋の扉をノックして麻里姉ぇの許可を得てから扉を開けると、麻里姉ぇが義両親と三人で青のキャリーケースに荷物を詰め込んでいることろだった。
「ちょ、麻里姉ぇ……!」
「真人。今日も来てくれてありがとう。嬉しいわ」
そんな麻里姉ぇの嬉しさ百パーセントの言葉と笑顔をもらいながら、俺は麻里姉ぇへと小走りで近づく。
「麻里姉ぇ、俺たちがやるから座っててよ」
遅れてやってきたやつが何言ってんだと言われてしまったらそれまでだけど、とにかく動いてお腹の子になにかあっては遅いから、俺はちょっと躊躇しながらも麻里姉ぇの肩に触れて言った。
「大丈夫よこれくらいなら。お義父さんとお義母さんもいるんだから」
「なら今から俺が麻里姉ぇとバトンタッチするから、麻里姉ぇは座っててよ」
キャリーケースの中を見ると、けっこう中に物が入っているので、俺と丈さんたちでやればあと数分で終わるだろう。
麻里姉ぇは頑張ったんだからあとは休憩と、俺たちに指示をしてくれるだけでいい。
「……真人、なんだか今日はいつもより優しい……というか過保護じゃないかしら?」
なぜか少しジト目を向けられてしまう。
「大切な姉に優しくするのは当然だよ。それに過保護と言えば麻里姉ぇこそそうじゃん。それで何度も助けてくれたんだから、たまには義弟にも過保護させてよ」
いつも俺を甘やかして、時には自ら俺を助けてくれる人を、過保護と言わずなんと言うのか。
ジト目を向けられていたけど、麻里姉ぇは観念したように鼻を鳴らしながら表情を緩めて笑顔になった。
「……本当、お姉ちゃん想いの義弟なんだから」
その言葉はそっくり返したい。麻里姉ぇことそうじゃないか。
「わかったわ。真人の言葉に甘えさせてもらうわ。お義母さんたちも、いいですか?」
「もちろんよ。というか私たちも言ったじゃない。麻里奈ちゃんはゆっくりしていて」
「そうだぜ麻里奈ちゃん。俺たちに任せとけよ」
「あ、凛さんたちも言ったんですね」
「そうなのよ。でも麻里奈ちゃん、私たちだけにさせるのは申し訳ないって……」
「お義母さんたちにだけやらせるのはやっぱり悪いですから」
まぁ、気持ちはわかる。義両親たちに任せて自分は座ってみてるだけってのは申し訳ないし落ち着かない。それは痛いほどわかるんだけど、やっぱり俺たちの立場からしたらお腹の子のためにもあんまり激しい動きは控えてほしい。
「でも真人君の言うことは聞くんだな」
「……不承不承ではありますけど。真人って頑固な部分がありますから」
「あ、あるかな?」
「あるわよ。昨日も今日も、私に安静にしてろって口酸っぱくしてるもの」
麻里姉ぇはくすくすと笑っている。
「でもそう言いたくなるって。麻里姉ぇとお腹の子にもしものことがあるのはマジで嫌だから」
「ええ。ありがとう真人」
「俺、来月の合唱コンクールも全力を尽くす。だから見ててよ麻里姉ぇ」
俺は合唱コンクールへの意気込みを、麻里姉ぇの目を見てまっすぐ伝えた。
「……ええ。合同練習でじっくり見せてもらうわね」
一瞬、麻里姉ぇの優しい笑顔が消えたような気がしたけど……気のせいか?
キャリーケースに荷物を詰め終え、額の汗を拭いながら俺は麻里姉ぇへ質問をした。
「ところで、麻里姉ぇはどうやって実家に帰るの?」
「もちろん自分の車でだけど……真人も乗ってく?」
……ここでも俺は心配を口にしかけたけど、車がないと色々不便だろうし、俺は運転できないからサポートはできない。それに送ってくれるのは文字通り渡りに船だ。それにこの荷物を部屋に運ぶ役が必要だから、ここはついて行かない選択肢はないな。
「うん。お願いしようかな」
「そうしなさい。外は暑いんだから。お義母さんたちはどうしますか?」
「私たちも明奈さんたちにご挨拶をしようと思っていたから。麻里奈ちゃん、お願いできる?」
「もちろんですよ」
「すまねぇな麻里奈ちゃん」
こうして、四人で綾奈の家に向かうことになった。
この部屋を出る前、俺は綾奈にこのことをメッセージで送ってから部屋を出た。




