第981話 翔太の両親
「オヤジ! お袋! 店の前でなに真人君に絡んでんだよ!」
「し、翔太さん!?」
店から出てきた翔太さんは、このおふたりに少し怒ったように叫んだ。
というか……え? オヤジと……お袋ってことは、つまり───
「お、翔太じゃねぇか! なんでお前がその坊主のこと知ってんだ? いや、それ以前に、なんでその坊主を庇うんだよ?」
「翔太。あんたこの子の知り合いなの?」
「知り合いもなにも、彼なんだよ! 綾奈ちゃんの婚約者で、俺と麻里奈の義弟は!」
「……は?」
「……え、本当なの翔太?」
おふたりはさっきまでの勢いは嘘のようにピタリと動かなくなり、顔色が悪くなって汗がダラダラと流れ始めた。さっきの俺とおんなじだ。
「そうだよ! 名前も伝えていただろ?」
「……翔太さんすみません。俺、名乗ってなかったです」
おずおずと手を挙げて言った。
お互いに名乗ってなかったが、俺が自己紹介をすれば解決できていたのか。
……そもそもこれっきりの縁だと思っていた人に名乗るつもりもなかったし、翔太さんのご両親だと思わなかったし、俺のことを伝えているのも知らなかったので名乗ることが解決への直通ルートだとは絶対に思いつかない。
「だとしてもうちの両親が悪い。高校生相手に凄んで。まったく……星原さんが気づいて知らせてくれなかったら、真人君がどうなっていたことか。本当にごめんね真人君。僕の親が突っ走っちゃって……」
「い、いえ、それは大丈夫ですから、頭をあげてください翔太さん……!」
え、まさか、手を出されていたとか!? だとしたら通報されて、翔太さんのご両親がしょっぴかれてしまうかもしれないところだった!
翔太さんに知らせてくれた星原さんにはあとでお礼を言わないと。
というか翔太さん全然悪くないんだから謝らなくても……。
「その、本当にごめんなさいね真人君。なんとお詫びしたらいいか……」
「まったくだ。麻里奈ちゃんを狙う悪党と思っちまって。悪かった坊主!……いや、真人君!」
「だ、大丈夫ですから! もう気にしていないので頭をあげてください」
店の前で目立つ人たちが頭を下げたら注目を集めてしまう。本当に気にしていないので普通にしてほしい。相変わらず店の前だから目立つのなんの……行為だけじゃなくて容姿も目立つんだから。
「真人君は今日も麻里奈に会いに来てくれたんだよね?」
「あ、はい。麻里姉ぇの様子、見てもいいですか?」
「もちろんだよ。麻里奈も喜ぶよ。ところで今日は綾奈ちゃんは一緒じゃないのかい?」
多分ちょっと前に気づいていたけど、ご両親のことでそれどころではなかったんだろうな。
「はい。今は美奈と一緒に磯浦さんがいるゲーセンに行ってると思いますよ」
「その美奈ってぇのは誰なんだ?」
翔太さんのお父さんが美奈について聞いてきた。翔太さんのお父さんは美奈と同じで思ったことを口にしてしまうタイプみたいだな。
「真人君の妹だよ。そっか、今日は綾奈ちゃんは部活ないもんな」
「そういうことです」
「なら……疲れてるところ悪いんだけど、ちょっと麻里奈を手伝ってくれないかい?」
「手伝う、ですか? ……あ、もしかして!」
俺は今朝綾奈に聞いたことを思い出した。
「うん。麻里奈、実家に帰るために必要な荷物を僕も一緒にまとめているから。もちろん手伝ってくれたあとにはケーキをご馳走させてもらうよ」
「ご褒美なんてなくても喜んで手伝いますよ」
麻里姉ぇのお役に立てるなら喜んで力になる。腹が減っていたとしてもやる。
翔太さんはお店のこともあるからずっとは手伝っていられない。俺が今日も来たことは翔太さんにとっても嬉しい誤算のはずだ。
「オヤジとお袋にも手伝ってもらうからな。真人君をビビらせたんだから強制な」
「お、おう。もちろんだ」
「えぇ。手伝わせてもらうわね」
「翔太さん、そこはもういいですから……」
もうそれは解決したんだから……。
俺がそう言うと、翔太さんは鼻を鳴らしながら肩を竦めた。
「真人君は自分のこととなると本当に怒らないな。オヤジたちにもっとガツンと言っていいんだよ?」
「い、言いませんよ。俺にも落ち度はありましたし、それ以前にもうマジで気にしていないので」
「オヤジたち、真人君に感謝しろよ? 普通ならキレられても文句は言えないんだから」
「そうだな。返す言葉もねぇや」
「本当ね。私たちが言うのもアレだけど、これからよろしくね真人君」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は翔太さんのご両親と握手を交わし、お店に戻る翔太さんの背中を見送り、三人で裏口へ向かった。




