第980話 疑いをかけられる真人
「あの……入らないんですか?」
「あ?」
「え?」
店の前でご夫婦に話しかけると、旦那さんに睨まれた……気がした。グラサンしてるから表情が読めない。
「おー、お前はさっき駅で見た坊主か!」
「そ、そうです……」
高校二年生って、坊主って言われる年齢なのかな?
「あら奇遇ね。キミとは不思議な縁があるのかもしれないわね」
「そ、そうですね」
奥さんの方は物腰が柔らかいな。さっき旦那さんを注意して頭を叩いていたけど、さっきのが旦那さんに見せる素なのか。
「キミはこのお店のケーキを食べに来たの?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「じゃあ、こっち側に用があって、私たちに声をかけてくれたの?」
「えっと、俺もここ、ドゥー・ボヌールに用があって来たのですが……」
ここの店長の奥さんの様子を見にきた、という込み入った理由は色んな意味で話さない方がいいと思いはぐらかしたんだけど……。
「あ? ケーキ屋にケーキ食う以外に来る理由なんてあんのか?」
旦那さんがグラサンを上げて、俺を怪訝な顔で睨んできた。ゲーセンの店長以上の強面だ……!
というか、なんでこんなに凄まれなきゃいけないんだ? この人たちはまったく関係ないだろ。
「でも確かに変ね。ケーキを食べるわけでもないのにケーキ屋さんに顔を出すなんて」
奥さんの方も解せないようで、頬に手を当てて首を傾げている。
この人の立ち位置は俺の味方っぽかったけど今は旦那さんの方に傾いている。
「坊主……お前もしかして、この店の女を狙ってんのか?」
まてまて、話がなんかいきなり飛躍したぞ!
「な、なんでそうなるんですか!?」
「この店の店員は可愛い子しかいないからな。男子高校生の坊主が大人の女に興味を示すのも無理はねえ話だ」
「ち、違いますって! 俺はただ、ここの店長の奥さんの様子を見にきただけで───」
「店長の……」
「奥さん?」
麻里姉ぇのことを言ったら、おふたりの目の色が明らかに変わった。マジで一体なんなんだ!?
「……坊主」
「は、はい……」
「するってぇと、おめーの目当ての女は、《《麻里奈ちゃん》》だってのか?」
「いやだから違いますって……って、え、麻里姉ぇを知ってるんですか?」
こんなキャリーケースを持っているということは、この人たちはこの近くに住んでいる人ではないというのは少し考えればわかることだ。
「まり……」
「ねぇ……?」
なのになぜ麻里姉ぇの名前を出した途端に雰囲気がさらに変わるんだ!? マジでわからん。
あとさっきからこのおふたり息がピッタリだな。
旦那さんが俺に一歩詰めて、俺は思わず一歩下がった。
なぜかプレッシャーを与えられて、汗がダラダラと出てくる。
「……坊主」
「な、なんでしょう……?」
「なんでおめーが、麻里奈ちゃんをそんな風に呼んでんだ?」
「……え?」
そりゃ、俺があの人の義弟だからだけどって言えない。プレッシャーとそこから来る焦りで口が動かない。
「いいか? 麻里奈ちゃんを姉と言っていいのは、あの子の妹の綾奈ちゃん───」
「あ、綾奈のことまで知ってるんですか!?」
「あや……」
「な……?」
もういいよこの件!
「キミ、麻里奈ちゃんだけじゃなくて綾奈ちゃんまで知ってるなんて……ちょーっと詳しすぎるわね」
「いや、それは……」
奥さんは笑顔なんだけど、放つプレッシャーが旦那さんのそれと似ている!
なんだか知らないうちにこのおふたりの地雷を踏んでしまってプレッシャーが二倍になった。マジでなんでだ!?
「……色々言いてぇことはあるが、まずはさっきの続きだ。麻里奈ちゃんを姉と言えるのは綾奈ちゃんと、その綾奈ちゃんの婚約者っつーヤローだけだぞ?」
「っ!」
お、俺のことまで知ってるー!?
あの美人姉妹だけじゃなくて、俺のことまで知ってるなんて……この人たち、こっちの事情に詳しすぎるだろ!
次の瞬間、ドゥー・ボヌールの扉が勢いよく開かれ、中からある人物が出てきた。




