第977話 翌朝のT字路で
翌日の七月八日土曜日。
いつもの待ち合わせ場所のT字路に到着したが、まだ綾奈は来ていないようだ。大体が俺の方が遅くやって来るからちょっと珍しい。
でもそれで良かった。この炎天下で綾奈を待たせたくはなかったし。
来週からは気持ち早く出ようかな? そうしたらちょうど同じタイミングで綾奈と千佳さんと合流できるかもしれないし……あ。
「まさと~!」
俺を見つけたピンクのTシャツと白のハーフパンツ姿の綾奈が、手を振りながら走ってやってきた。
俺も綾奈へと駆け寄り、俺たちは抱きしめ合う。
「おはよう綾奈」
「えへへ、おはよう真人」
息は切らしてないみたいだけど、汗が心配だな。
あ、でもタオルを首に巻いてるから汗をかいても拭けるから大丈夫そうだ。
どちらともなく離れると、さっきは気づかなかったけど、綾奈はドリンクホルダーを腰に巻き付けていて、そこからペットボトルを取り出して水を飲んだ。
「はぁ~美味しい。……ま、真人も飲む?」
「う、うん。……いただこうかな」
俺も飲み物は持ってきているが、綾奈の気持ちを無下になんてできないので、綾奈からペットボトルを貰って、中に入っている水を一口飲んだ。
「……うん。美味しい。ありがとう綾奈」
突然の間接キスにドキドキしながらも、俺は綾奈にペットボトルを返すと、綾奈はまた水を飲んだ。
……多分、綾奈は喉が渇いていたんじゃなくて、自分も間接キスがしたかったんだろうな。
そんな可愛くもいじらしいお嫁さんを見ては、間接じゃ満足できなくなってしまい、俺は周りをキョロキョロと見渡す。
幸いにも近くに人も車もいない。今がチャンスだ。
「あのさ……綾奈」
「なぁに真人?」
「……キス、したいのですが……」
「っ! ……うん。いいよ」
俺たちはまた抱きしめ合って、短い口付けを交わした。
「あ、そうだ真人」
駅に向かい出してから少しして、綾奈が俺を呼んだ。その顔はどことなく嬉しそうに見える。
「どうしたの綾奈?」
「えっとね、今朝お母さんから聞いたんだけど、お姉ちゃんがしばらくうちに帰ってくるみたいだよ」
「あ、そうなの?」
麻里姉ぇが実家に戻るということは、やっぱり妊娠がきっかけなんだろうな。
「うん。お義兄さんはお仕事してて、お姉ちゃんのサポートをしながらお店もとなると大変だからって」
ドゥー・ボヌールの二階で生活していると、当然だけど麻里姉ぇが家のことをしなければならなくなる。安定期にも入ってない状態で家事をするのはかなりの神経を使いそうだ。
それにさっき綾奈が言ったように、翔太さんはお店のこともあるから麻里姉ぇにつきっきりということもできないし、翔太さんにも負担になってしまうかもしれないからか。
麻里姉ぇが実家に帰るのなら、しばらくは家のことも全部翔太さんがしないといけないけど、翔太さんなら普通にこなせそうだよな。
というか翔太さんが困ったり慌てたりする姿が想像できない。
「実家にいれば、明奈さんもいるし、綾奈や俺も……」
麻里姉ぇが実家に戻ること、それを深く考えてなかったけど、俺はようやくある重大なことに気がついた。
「あのさ、綾奈」
「なぁに真人?」
「俺、綾奈の家に泊まってる間はどこで寝ればいいの?」
そう、それは俺の寝床問題だ。綾奈の家にお泊まりしている時は、俺は麻里姉ぇの部屋を使わせてもらっている。だけど麻里姉ぇが実家で生活するとなると、当然ながら俺は麻里姉ぇの部屋は使えない。
となると、俺は一体どこで寝ればいいのか……。
「えへへ~」
俺の質問に、なぜか綾奈は顔を赤くし、ふにゃっとした笑みを見せた。まるで待ってましたと言わんばかりのようだ。
「あ、綾奈?」
「お姉ちゃんが帰ってきている間は、真人は私のベッドで一緒に寝てもらうことになるよ」




