第4話 好きな人と話せた数分間
カクヨムでも連載中です。
そちらに追いつくまで、毎日3話投稿(17時~19時の1時間おき)で、追いついたら1日1話投稿(19時)になります。
大会が終わり、集合時間まで一哉と、数名の男子部員達と外で談笑していると、尿意が襲ってきたので会場内のトイレに駆け込んだ。
ハンカチで手を拭きながらトイレから出ると、側にあった自動販売機とにらめっこをしていた他校の女子生徒を見かける。
その女子生徒は、俺が見間違うはずもない憧れの人だった。
「さ、西蓮寺さん⁉︎」
突然目の前に現れた憧れの女の子に驚いて、俺はその人の名前を呼んだ。
「え?……中筋君?」
彼女の手にはミネラルウォーターが握られていた。
「うん。ひ、久しぶりだね」
俺のこと覚えていてくれたことに感動する。
「本当に。中学の卒業式以来だもんね」
「うん。それから、全国大会出場おめでとう」
「ありがとう」
やばい……。緊張と焦りで会話が続かない。
なんとか話題を見つけないと、と思い脳内で会話の引き出しを開けまくる俺。
「よ、良かったら、外まで一緒に行かない?」
咄嗟に外まで同行しようと尋ねてみた。
いやいや、中学時代ほとんど話した事がない相手の誘いを受けてくれるわけないやろ⁉︎
なんて、直前の自分が言った言葉に後悔していると西蓮寺さんは……。
「……いいよ」
と、笑顔で俺の誘いを快諾してくれた。
「っ!ありがとう。すぐそこだけど、じゃあ行こうか?」
まさかの了承をしてくれた西蓮寺さんの寛大さに心の中で何度もお礼と土下座をしながら、憧れの人を横に連れ、外に向けて歩き出した。
「それにしても、中筋君本当に痩せたよね!あまりにも体型が違いすぎるから最初別人かと思っちゃた」
「あ、ありがとう。うん、ダイエットを始めたのは中三の冬休みからだけど本格的に始めたのは受験が終わってからなんだ。そこから頑張ってなんとか今の体型にする事ができたんだ」
「そうなんだ。中筋君凄く頑張ったんだなってわかるよ。ダイエットを始めたのは何か心境の変化があったとか?」
「ま、まあね」
あなたが好きで、お近づきになりたくてダイエットを始めたなんて言えない。
「中筋君の中で何が変わったのかは分からないけど、やっぱり今の体型の方がいいと思うな。それに…………いし」
「え?」
最後の方は尻すぼみになってなんて言ったのか聞き取れなくて思わず西蓮寺さんの方を見たら、西蓮寺さんは俺がいる方とは反対の方を見ていた。
表情は読み取れないけど好感触っぽいし、外に出たら次またいつ会えるか分からないしダメ元で連絡先を聞いてみようかな?
幸いにも今はいつも一緒にいる宮原さんはいないし。
「あ、あのさ西蓮寺さん」
「ふぇ⁉︎な、何かな⁉︎」
俺の呼びかけに慌ててこっちを向いた西蓮寺さん。
ん?なんか顔が赤いような……暑さのせいかな?
いや、今はそれどころじゃない。
西蓮寺さんの連絡先を聞くんだ。緊張しすぎて喉がカラカラになり、拳を作っていた手には汗が滲んでいたが勇気を出して聞くんだ。
「よ、良かったらでいいんだけど、お、俺と……れん───」
「綾奈ー!もうすぐ帰りのバスが出るから早く戻るよ!」
声がする方を向く俺と西蓮寺さん。
するとそこには、こちらに走って向かってくる宮原千佳さんがいた。
おいぃぃぃぃぃ!後少しで連絡先を交換出来たかもだったのに、俺のなけなしの勇気を返してくれ。
「あれ?もしかして中筋?」
「う、うん。久しぶり宮原さん」
「うっそ、あんた激痩せじゃん!まじで最初誰かわかんなかったし」
そう言って俺の肩をバンバン叩いてくる宮原さん。
距離感近いなーなんて思っていたけど宮原さんの制服を見て俺の思考は機能停止する。
宮原さんは暑いのか、それとも普段からそんな感じなのか分からないが、制服のシャツのボタンを三つ外していて、そこから宮原さんのたわわに実った双丘から作り出す谷間が見えていた。
中学では女子はセーラー服だったので、それの大きさは知っていたが、谷間が俺たちクラスメイトの目に入ることはなかった。
「って、そんな話してる場合じゃなかった。まじでバスが出るみたいだから行くよ綾奈。じゃね、中筋」
「えっ!?う、うん。じゃあ中筋君、またね」
そう言って二人は走って会場を後にした。
俺はそんな二人の後ろ姿を眺めながら、初めて西蓮寺さんとまともに喋った感動や、連絡先を聞き損ねた後悔など、西蓮寺さんのことで、心の中は忙しなかった。
「西蓮寺さんと話をしたぁ⁉︎」
「声がでかい!」
帰りの電車内、俺はトイレに行ってから一哉達と合流するまでの出来事を話そうとしたのだが、俺が「西蓮寺さんと話してきた」と言ったらこの驚きようだ。
いやまぁ、今までほとんど話したことがないと知っている一哉からしたら当然の反応かもしれないが。
一哉の発した大声で周囲の部員や他の乗客が一斉にこちらを向く。やばいと思った俺たちはその人達に頭を下げて謝罪した。
「しかし、トイレから出てきたら自販機に西蓮寺さんがいたとか……凄い偶然だよな?」
「俺もそう思う。もしあの時催さなければ話どころか会えずに終わっていただろうな」
多少大袈裟かもしれないが、あの時トイレに行ったから俺の運命が変わり、僅かな時間ではあるが、西蓮寺さんと話をすることが出来たのは紛れもない事実だった。
「で?何の話をしたんだよ?」
半分面白がっているのか、一哉がニヤニヤしながら聞いてくる。
「別に。全国出場おめでとうって言ったり、痩せたねって言われたり。そんな当たり障りのない会話をしただけだよ」
「まぁ、時間なかったしそんなもんか。でも、初めてまともに喋ったんだから大進歩じゃないか!」
一哉は本当に感心したのか、賞賛の声を俺に向ける。そして、すぐさま真面目な表情になり……。
「それで?連絡先は聞いたのか?」
顔を近付けてきて聞いてきた。やっぱりそこは気になるよなぁ、と思い、俺は結果を正直に口にする。
「いやぁ、正直聞こうとは思ったんだけどね……聞く直前に宮原さんがやってきて「バスが出るから」って言ってそのまま西蓮寺さんの手を取って走っていったから聞けてないんだ」
「マジかぁ……。宮原さん、ある意味タイミング良いな。しかし、そうなると会う機会が遠のいてしまった感じがするな。次あるとすれば高崎の文化祭くらいか?」
「多分そうだろうな。はぁ……次会えるのは二ヶ月以上先か」
確か高崎高校の文化祭は毎年十月の後半に開催されていた記憶があったので、俺はため息混じりに言う。
「まぁ、そう悲観的になるなよ。会える機会があるって事は、それだけチャンスが巡って来るってことなんだから、ポジティブに考えようぜ」
「そうだな」
親友に慰めてもらいながら、俺は車窓から見える景色を見ながら気持ちを切り替えるよう努めることにした。
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