第21話 綾奈とのエアホッケー対決
今日の目的地であるゲーセンは、前回寄り道をした書店と同じアーケード内にある。
このアーケードにはその他にアパレルショップ、食事処や自営業の商店、今では年々数が少なくなってきているCDショップ等、規模はどれも大きくはないけれど、様々なお店があるので、この辺りに住んでいる人は老若男女問わず大体の人が利用している場所だ。
ゲーセンに入ると、色んなゲームの音が結構な音量で聞こえてきて、それに驚いた西蓮寺さんは目を見開き両耳を手で塞いだ。やっぱり来たことがない人にとっては、このけたたましい音はびっくりするのだろう。
「西蓮寺さん、大丈夫?」
そんな彼女の姿を見て、俺はたまらず声をかけた。
「大丈夫。音が大きくて少しびっくりしただけだから」
そう言って笑顔を向けてきてくれた。思ったより大丈夫そうでほっとする。だけど西蓮寺さんの笑顔を見た俺の心臓は早鐘を打っていて大丈夫ではなかった。西蓮寺さんの笑顔は可愛すぎて見る度にドキッとする。多分ずっとこんな感じな気がする。
そんなやり取りの後、俺達はゲーセンの奥へ進んでいく。
このゲーセンは規模はあまり大きくないけれど、定番のクレーンゲームやプリクラ、格闘ゲームの筐体やリズムゲーム等、様々なゲームが並んでいた。
店内を回りながら、俺達はどのゲームをプレイするか話していると、西蓮寺さんは立ち止まって、ある物を指さしてこう言ってきた。
「中筋君、あれやってみたい」
西蓮寺さんが指差す方を見ると、そこにはエアホッケーがあった。高校に入ってからはやってない事を思い出し、久しぶりにやりたいと思ったことろで俺は西蓮寺さんに思ったことを口にする。
「良いね。でも西蓮寺さん、エアホッケーやったことあるの?」
「実はあれを見て、小さい頃にデパートにあったのをお姉ちゃんと一緒にしたことを思い出して、懐かしくてまたやってみたくなっちゃった」
そう言って西蓮寺さんは俺に笑顔を向ける。
「西蓮寺さん、お姉さんいたんだ」
西蓮寺さんの笑顔にドキリとしながら、お姉さんがいた事に驚き聞き返していた。
「うん。歳が離れてるし、去年結婚したから一緒には住んでないんだけど、ちょくちょく会ってるから寂しくはないかな」
「西蓮寺さんはお姉さんの事が大好きなんだね」
「うん。小さい頃はいつもお姉ちゃんについて回ってたんだ。中筋君は兄弟いるの?」
「妹が一人いるよ」
「妹さんかぁ。仲良いの?」
「んー。俺が中学生の時はそこまでだったんだけど、高校に入ったぐらいからよく妹の方から話しかけてくるようになったかな」
妹の美奈との以前の関係は少しオブラートに包んだ。実は中学まではあまり良好な関係ではなかった。
もちろん初めからそうだった訳ではなく、美奈が小学校高学年になった頃だったか、急に俺に口出しするようになったのだ。
当時は何故そこまでキツく当たるのかと疑問だったのだけど、恐らく太っていて、家ではゴロゴロと自堕落な生活を送っていた事が目に余ったんだろう。
現に高校に入った今、ダイエットに成功し、今も体型維持の為、軽い運動や筋トレはやっているし、家事も少しだけど手伝うようになった。それを見た美奈は驚いていて、そこからよく話すようになり、今では良好な兄妹関係が築けている。
「まぁ、それは今は置いといて、そろそろやろうよ」
「うん」
俺は荷物を別の場所に移動するジェスチャーをしてから、改めて西蓮寺さんにエアホッケーをしようと促し、西蓮寺さんもそれに頷く。
お互いマレットと言う、パックを打つ道具を持ち、百円を入れると円形のパックが出てきた。
俺達は対面で向かい合って、いよいよゲームがスタートする。
俺もエアホッケーは久しぶりだけど、ブランクで言えば西蓮寺さんの方が圧倒的に長いはずと思った俺は、最初はゆっくりと西蓮寺さんの陣地にパックを打った。
パックが西蓮寺さんの陣地に行ったと同時に、西蓮寺さんが目を細める。
次の瞬間、西蓮寺さんはマレットを思い切り振り抜き、キンッ!と言う快音が響いたと思ったら、凄いスピードで壁にバウンドし、そのまま俺のゴールへパックが滑り込んだ。
「……は?」
何が起こったのかわからず、立ち尽くす俺。カラン言う音と共に、パックがテーブルの下、俺の陣地の排出口から落ちる。
西蓮寺さんを見ると笑みを浮かべている。
「言い忘れたけど、私、お姉ちゃんと小さい頃何度か対戦して一度も負けたことがないんだよ」
と言ってきた。よく見るとその笑顔はいつもの優しい微笑みではなく、不敵に俺に笑いかけていた。
西蓮寺さんのお姉さんがどのくらいの実力なのかはわからないけど、これは手加減出来る相手じゃないと理解した俺は、西蓮寺さんを見て同じく不敵に笑う。
「なら俺も本気で行くよ!」
お遊びで始めたエアホッケー対決は次第に熱を帯びていった。
エアホッケー対決が始まって数分が経過した。スコアは二対二のイーブン。時間的に次のポイントが決勝点になると思い、俺と西蓮寺さんはラリーを続ける。
西蓮寺さんは真剣に、時折笑みをこぼしながらエアホッケーを楽しんでいる。もちろん、不敵な笑みではなく心から楽しんでいるだろう笑みだ。
一方、俺も凄く楽しい。楽しいんだけれど、ある事が原因で集中しきれずにいた。
その理由と言うのが……。
キンッ!
西蓮寺さんが俺の陣地に向けて真っ直ぐパックを打ち返してきたのだが、これが俺が集中しきれない理由だ。
ゲーム好きのプライドから、負けたくないと思い、けっこうな前傾姿勢で打ち返しているのだが、俺のこの視線からだと、西蓮寺さんが真っ直ぐパックを打ち返そうと腕を伸ばすと、制服の袖の隙間から一瞬だけ、制服の中が見えてしまうのだ。
それにドキッとして集中力が散漫になってしまう。好きな人のだから、どうしても見てしまうのだ。
なら前傾姿勢をやめれば問題ないと思うのだけれど、こうも早いラリーの応酬が続いている状態で体制を変えると、西蓮寺さんの返しに反応しきれない恐れがあるから出来ずにいた。この時の俺は、西蓮寺さんに華を持たせると言った考えはなく、ただ勝ちたいとだけ思っていた。
そんな中、俺の視界にぼんやりと、一人の学生の姿が入る。
焦点はホッケーのパックに合わせているので誰かは認識できないけど、女子と言うことだけはわかった。
位置的には西蓮寺さんの真後ろ、少し離れた所から俺たちを見ている。
一体誰なんだと思い、打ち返したと同時にその女子をチラッと見る。これがいけなかった。
その女子の姿を見た瞬間、俺の動きは停止していた。
その隙を見逃さなかった西蓮寺さんはパックを思い切り打ち返し、綺麗に俺のゴールへと入っていった。
その瞬間ゲームが終わり勝者は西蓮寺さんになった。
嬉しそうな西蓮寺さん。だけど俺の意識は今だに西蓮寺さんの後ろにいる女子に向いていた。
その女子の正体は……。
「美奈!?」
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