第1000話 義妹に全力
パックが下に落ちた音が聞こえたあと、美奈ちゃんはゆっくりと、壊れかけのおもちゃみたいにギギギ……とこちらを見てきたので、私は満面の笑みを義妹に見せる。
そしてマレットを自分の胸にだくようにして持ちながらこう言った。
「……美奈ちゃん。ダメだよそんな手を使っちゃ。真人を利用したのもね……」
「お、お義姉ちゃん……おお、怒ってる?」
「……そうだね。どちらかと言えば……ちょっと怒ってるかな」
私はそう言って構えると、美奈ちゃんは「あわわわわ……」と言って震えだした。
「あ、あんな作戦を使ったから……?」
「それもあるけど、やっぱり真人を利用したのが一番かな」
「だ、だけどお義姉ちゃんにはそれが一番効果的だと思ったから……」
「確かに効果的だったよ。だけど私は、美奈ちゃんには正々堂々と向かってきてほしかったな」
私は卑怯な手を使うのは好きじゃない。真人の影響じゃなくて、元から。
勝てなくても最後まで正々堂々と戦いたいというのが私のスタンスで、どんな勝負事でも絶対にまっすぐにぶつかりたい。
……言ってて、真人と初めてお家デートをした時、真人とゲームで対決をして、負けそうだった私は咄嗟に真人の頬にキスをして真人の集中力を鈍らせて、手元を狂わせたことがあるのを思い出した。
棚上げになっちゃうかもだけど、アレは誰も嫌な気分にはなっていなかったから、ナシよりのアリ……って思うようにしよう。
妨害もそれ一回だけで、それ以外は正々堂々と勝負してるし、真人とのエアホッケー対決も、勝てなかった時はちょっと悔しいけど、それでも全力を出して負けたから、すぐに楽しかったという気持ちに変わる。
……マコちゃんと対決したあのゲームでは実力差がありすぎて、しばらくは放心状態で、その後も悔しい気持ちさえ湧かなかったけど。
「ご、ごめんなさいお義姉ちゃん! もうしないから許して!」
美奈ちゃんが怯えながら必死に許しを乞いているけど、私は許す許さない以前に、もう美奈ちゃんを咎めるつもりはない。
「大丈夫だよ美奈ちゃん。ちゃんと反省してくれているからもう言わないよ」
「お、お義姉ちゃん……!」
美奈ちゃんから怯えが消えて、私を見る表情がパァッと明るくなった。やっぱり笑った顔がかわいくて良く似合う。
「じゃあ、次からは卑怯な手は使わずに全力で来てね? 私も手加減しないから」
「……さっきみたいなのがポンポン飛んでくるの、受け切れる気がしないんだけど」
「でも美奈ちゃん。さっきはうまく処理できてたから大丈夫だと思うよ」
「なにが大丈夫なの!?」
そこから試合は再開。一対一のイーブンから再スタートした試合は美奈ちゃんが懸念したワンサイドゲーム……になったりはしなくて、三対二で辛くも私が勝ちを収めた。
「楽しかったね美奈ちゃん」
「た、楽しかったけど、つ、疲れた……」
そう言う美奈ちゃんは、本当にちょっと疲れたようで、肩を落として腕をダラーンさせていた。
「エアホッケーってあんなに体力使うものだっけ?」
「美奈ちゃんは久しぶりって言ってたからじゃないかな?」
暑い時期なのもあるかもだけど、真人とエアホッケーをしたあとはじんわりと汗が滲む時があるし、遊びだけど割と体力を使うイメージがある。
「絶対お義姉ちゃんとやったからだよ」
「へ?」
「お義姉ちゃんのスピードについていくのがどれだけ大変だったか……」
「そ、そんなに!?」
確かに途中から全力を出したけど、わ、私のパックを打つスピードってそんなに速いのかな……?
「うん。しばらくお義姉ちゃんとエアホッケーするのは遠慮したいと思うくらい」
「そ、そんな……」
真人はいつも、勝っても負けても「すごく楽しい」って言ってくれるのに……。
「そんなショックを受けないでよお義姉ちゃん。冗談だから」
「……じ、冗談?」
「うん。疲れたけど楽しかったのは本当だから、またやろうね」
「美奈ちゃん……うん!」
気をつかわせてしまったかなと思ったけど、この笑顔は本心からそう思ってくれていると確信して、私も嬉しくなって笑顔で返した。
「今度はみんなで来て、トーナメントみたいなのをしてみたいな」
「お兄ちゃんかお義姉ちゃんが優勝しそうな気がするけど、私も負けないようにマコちゃんと練習でもしようかな?」
どうやら美奈ちゃんのエアホッケーに対する姿勢が変わったみたい。
マコちゃんもゲームは本当に上手だから、もしかしたら私たち夫婦にとって協力なライバルになるのかも……。
そんな未来が来ることを心のどこかで望みながら美奈ちゃんとのゲームセンターデートを楽しんでいると、真人から【麻里姉ぇと一緒に綾奈の家に行くよ】とメッセージが来て、お昼も過ぎていたので、私も美奈ちゃんを連れて家に帰ることにした。
950話目でお知らせした通り、こちらのサイトでの投稿をこの1000話目で終了とさせていただきます。
勝手な判断と重々承知しておりますが、ここまで読んでいただいた全ての皆様に感謝申し上げます。
ありがとうございました。




