短編 「私が姉の番だと気づいたのだが…。」
私の姉は、小さい頃から、とても優秀な令嬢だ。
わずか、四歳で我が国ウェンレス帝国共通語、固有語、伝統語(設定(ウェンレス帝国の伝統行事などに使われる特別な言葉))を読み書きでき、さらに魔法術でコップ一杯水を満杯(設定(魔力成長期がまだ来ていない幼子では魔力は使えるが魔法術は使えない))にできたり神童と呼ばれる類の人だった。
…それに比べ私は平凡だった。
私も小さい頃から、どうにか姉に追いつきたいと思い、努力をしてきた毎日朝から晩まで、少しの時間でも本を読み、手が限界まで動かなくなるまで文字を書き、魔法術が使えないなら魔力のコントロールの練習をし、けれど姉には決して追いつかなかった。姉の方が先に産まれたから差がでるのは当然だが、それでも何一つ追いつけなかった。姉はいつでも、私の二歩も三歩も先へ行く。
父や母は、姉と私を比べようとせず、平等に接してくれる、それはありがたいと同時に胸を締め付けられるほど苦しい。私と姉を比べてくれたら、姉の方を優先していたら、憎めていたのに、怒りをぶつけることができたのに…。
…いつしか私は諦めた。
姉に追いつくことはできない、私は所詮姉の下位互換いや、それ以下だ。
周りは神童の姉と平凡の私そのどちらにつくかは当たり前だった。
屋敷には、いつも姉への来客ばかりだった。
社交界では、私は親しい者ができると思っていたが、寄ってくるのは、いつも姉に取り入ろうとする輩だった。
そして、私は外との交流を断った王都から領地へ本邸から別邸へ。使用人も誰一人連れず…。
________________
今日は、数年ぶりに領地の外へ行く日だ。
領地の外へ行く理由は、学園都市のウェンレス帝国国立学園に入るからだ。ウェンレス帝国では、十三歳から十八歳までの国民は必ず、ウェンレス帝国国立学園に入らなければならない。平民でも貴族でも必ず。この学園は貴族の義務を忘れないために平民と分けていない。完全に実力主義だ。
「父上、母上。お久しぶりでございます。」
数か月ぶりに父と会った…手紙では毎月やり取りをしているが。父は皇帝の側近であるため、領地へはまったく帰ってこない。
母は、引きこもりになった私を心配しほぼ毎日と言っていいほど別邸に突げkゴホッゴホッ…訪れてくれる。
姉は、次期ヴォ―バロス公爵家当主であるため、社交界シーズンになると、王都へ行くが普段は領地で過ごしている。
私の家は、建国当時からウェンレス帝国を支えている伝統ある公爵家だ。それこそ、建国以前から色々と有名な一族だ。
「ああ。久しぶりだな。アル。どうだ?寂しい父に免じて王都へ来ないか?」
「もう、あなた。可愛いかっこいいアルちゃんをあんなところに行かせようとするなんてひどいじゃないいですかっ」
「うっだって、寂しいから。」
「父上。せっかくのお誘い申し訳ありませんが、私はこちらでやることがございますので。」
「うう。わかった。お前の好きなようにしなさい。」
「ありがとうございます。」
父は、子頭脳なのかいつも手紙でも会うたびにも言ってくる。
父に近況報告をしていると、こちらに歩いてくる音がした。使用人が学園都市への移動の準備をしているから聞こえるのは当たり前だが、この歩き方は私達一族特有のものだ。この屋敷に父や母以外の他一人だけしかいない。
「あら、良く似合っているじゃない。ユウちゃん、綺麗よっ。流石愛娘。」
「久しぶりだな。ユウ。寂しい…割愛…。」
「ふふっありがとうございますわ。父上、母上。あら、アルはどこにいるのですか?」
「あら、どこに行ったのかしら?さっきまで話していたのに。」
________________
「はぁっはぁっはぁっ」
ま、まずいっ気を抜いていたっまずいっまずいまずいっばれていないかっなんで、あの人が、姉が、私の…________________
________________
どうにか、おさまった。あんなのは、もう懲り懲りだ。
私は、あの後、どうにか抑え込み、封印して、姉とは違う馬車に乗って学園都市へ出発した。けれど、長くはもたない。応急処置だ。練度を上げなければっ。
ウェンレス帝国国立学園は、二つの科がある。この科は、魔法術科や剣術科(全生徒平等に学ぶから大々的な二つの科とは違って部活みたいなもの)と違って、大々的なものだ。簡単にいえば、一つ目は学園に普段から通う者。二つ目は、実績、結果を出す代わり通うのを免除するというものだ。この二つを、通常科と実績科という。
私は、実績科で、姉に会う確率は低い。
実績科は、毎年人が入るか入らないかなくらいの科だ。平民は貴族と違って家庭教師などがつかないから、幼いころから何か学ぶ機会が少ない。そのため、実績科に入る人は通常いない。貴族で入る者が少ない理由は簡単だ。派閥や社交のためだ。だから、入る人は平民に比べれば確率は高いが、やはり少ない。
「ん?ついたのか?」
本を読んで暇をつぶしていたら、馬車が止まった。外を見ると、立派な要塞が見えた。
馬車を降り、検問をして再び、馬車に乗りこみ、学園に向かった。
父や母、姉とは別行動だ。通常科とは違い、実績科は事前に説明を受け、説明を受けたその日から寮へ入ることができるからだ。
学園へ着くと、さっそく案内された。
「やあ、初めまして、私はこのウェンレス帝国国立学園の学園長を務めている。ラウンド・ジャンロという。」
「こちらこそ、初めまして、私は、アルーシェと申します。家名は、名乗らなくてもよいとのことなので省かせていただきます。それに、すでにご存じだと思いますので。」
「ああ。知っているよ。さて、さっそくだけど、実績科について、説明させていただくね。」
学園長からの説明では、すでに知っていることばかりだったのですんなり、覚えられた。
「これが、君の部屋のキーだよ。なくさないでね。今年からよろしくね。」
「はい。ありがとうございました。今年からよろしくおねがいします。」
学園長室を出ると、自室へ向かった。
________________
キーを頼りに自室へ向かうと、なにもなかった。実績科の生徒の部屋は、研究成果などを奪われないために、キーがないと、部屋そのものがわからないようになっている。
キーに魔力を流し、壁に掲げると、霧が晴れるように、扉が現れた。この技術は、現代では再現不可能で、古代技術の一つとされている。
部屋の中に入ると、さっそく魔道具袋から、荷物を取り出し、なるべく、領の自室と同じように設置していく。この魔道具袋は、私が改良して、作ったものだ。魔道具袋は、通常、小物しか入らないが、改良に改良を重ね、いくらでもとは言えないが、本来の二倍から五倍は、入るようにできた。これは、実績科でさっそく発表しようと思う。魔法技術(設定(魔法技術は、簡単に言うと魔道具などをつくるための技術などをいう。魔法技術建築や魔法技術薬などに使われる))は、私がようやく姉に追いつく、いや、それ以上の特技だ。そう、自負している。
________________
私は、学園についてから、発表する資料や魔道具などの整理をしている。もちろん、父や母への手紙もしっかりと書いている。あと、姉への手紙もだ。今までは、父への手紙などと一緒に書いていたが、学園に入ると、親の介入がほとんどできないため、姉への手紙という名の学園内の情報を送っている。貴族社会では、情報は命と同等ですから。
それはそれとして、今日は、入学式だ。何千万という十三歳の子供が学園に今日から通う。
通常科は、行事大会場にいるが、実績科は、部屋の中からモニターという古代技術の魔道具水晶からでてきた長方形の薄い板から見る。事前に学園長に聞いていたが、今年度を含めて実績科に在籍しているのは、私含めて、五人らしい。これでも多い方らしい。まあ、学園行事の時に会うか会わないかくらいだから、気にしなくても大丈夫だ。因みに、今年実績科に入学してきたのは、私だけだ。
モニターから生徒会や学園長の挨拶や学園紹介、最後に新入生代表の挨拶だ。途中途中、先輩方の芸や魔術などを挟んでいるから、あきない。これは、この学園の入学式の伝統だ。
入学式が開会してから、二時間。ようやく終わった。
モニターを切り、さっそく魔道具の制作に取り掛かる。私は、これでも公爵令嬢で、本当なら、生徒会や学園内のカーストなどを調整しなければならないが、幸い、皇帝から許可されているし、第三皇子やほかの公爵令嬢令息が数人、入ってきているから大丈夫だ。
________________
学園が始まってから、数か月が過ぎた。もうすぐ、文化祭だ。今頃、通常科の生徒たちは、いそいそと準備しているだろう。まあ、実績科も準備をしなければならないが、もうすでに決まっていて、先輩方も私もその制作に取り掛かっている。もう数日すれば、完成するだろう。楽しみだ。
〝テンテレテッテテンテレテッテッ〟
「ん?」
キーから呼び出し音が鳴っている。
キーは、黒い長方形の形をしていて、呼び出しによっていつもなら金色をしている線の色が変わる。学園長なら黒、先輩方なら、それぞれの色。生徒なら青だ。そして、線は、青色に変わっている。そして、キーには、生徒は姉しか許可を出していない。何かあったのだろうか?えーと、呼び出し場所は、食堂?
この数か月、応急処置の封印を完全にしたから、何も起きないはずだ。
食堂なら、生徒が多いだろうから、しっかりと、見た目を整えて、行く。
すぐに、着替え、食堂に行くと、姉がいた。
「姉様、何か御用ですか?」
姉の評価に傷をつけないために、少し威厳を持った、表情にする。久しぶりだから、うまくできているかわからないが。
「アルーシェ、久しぶりですね。」
「お久しぶりです。」
簡単な挨拶を交わし、姉に席に促されたので座る。
「それで、何か御用ですか?」
「あら、妹を食事に誘うのに用なんて、必要かしら?」
「え?あっえっと?どういうことでしょうか?」
ん?今まで、こんなことはなかったのだが?どう反応していいのかわからない。
「ふふっ戸惑うアルをみるのは、久しぶりですね。あなた、しっかり食事を摂っていないでしょう。知っているんですのよ。ちゃんと、父上と母上に言われたでしょう。」
「うっ」
確かに言われた、数年前、ろくに食事を摂らず、研究に没頭していたら、倒れて、それ以降必ず、本邸で皆と食事を摂るよう約束させられた。
「一応、気にかけておいていたから、良かったものの、また倒れたらどうしますの?」
「ご、ごめんなさい。」
「…よろしい。約束通り、これからは、私と一緒に食事を摂ること、よろしいですね?」
「…はい。」
実績科に入る条件で食事を忘れたら、姉と食事をすることを約束された。
「あ、あの姉様、いいのですか?ご友人方は?」
「今日は、あなたが緊張するからと、他の方と食べていただいているけれど、次からは、一緒ですわよ。あなたも、強制はしないけれど、少しは、慣れておかないと。」
「はい。」
この後、数か月ぶりに温かいご飯を食べたことがばれ、文化祭を一緒に回る約束を取り付けられた。…解せぬ。
________________
その後の、学園は、結構楽しんだと思う。
文化祭で、毎年恒例の実績科による文化災をやり、お祭り騒ぎになったり、体育祭で、欠席しようとしたら、学園長もグルで、姉に無理やり参加させられ、魔法術威力計測機を粉々どころか、塵に変えたり、学園祭で、文化災ならぬ、学園災をし、さらに、私個人で過去の文献頼りに開発した、魔法技術プラネタリウムを披露し、皇帝にまで呼び出され、絶賛され、なんかの褒章を貰い、先輩達からは、麒麟児、破天荒、学園祭りの災の申し子と呼ばれた。ウェンレス帝国国立学園都市建立記念祭では、皇帝本人から、個人的に頼まれ、もちろん記念災をしたが、その個人依頼を成し遂げ、先輩達だけだった学園祭りの災の申し子という二つ名が皇帝からも国民全員から呼ばれるようになった。解せぬ。
色々あり、入学してから、二年が経った。
本当に色々あり、忘れていたが、このウェンレス帝国では、番という概念がある。それは、異種族混合国家という点もあるが、ウェンレス帝国、皇族や公爵家には、必ず、番がいるからだ。種族的なもので国民や皇族や公爵家以外の貴族にも番がいるものがいるが、皇族、公爵家には、絶対にいる。そのため、番を探すため、学園卒業時、皇族や公爵家は、特定式という恒例行事を行う。特定式というのは、その名の通り、番を特定するための儀式だ。皇族や公爵家の子供は、生まれてくるときに体の何処かに花の印がついている。この花の印は、特定式のときに、番の体に現れるという。姉は、左の鎖骨あたりに百合の花がある。私は…なかった。稀に、印を持たぬものが生まれてくると言われていて、その者は、花無き者と呼ばれ、色々と名を残している。いい意味でも悪い意味でも。早死にが多いと言われている。そして、災いの種とも。詩にも王城の文献にも記されている。「花無き者。絶望になりし、時、災いが降りかかるだろう。」と。そのため、私が引きこもりになった時、皇帝や皇王妃から直々に手紙をもらったぐらい、大事になったらしい。
そんなことは、今は置いておいて、このままでは、まずいのだ、姉は、今年で卒業。そして、今がその時だ。特定式は皇帝、皇王妃自ら行う。だから、容易に欠席できない。どうしよう?
「これよりっ!特定式を行うっ!ユウシェリナ・ハルカ・ヴォ―バロス公爵令嬢っ前へっ!」
姉が前へ向かうと共に、周りが声援で包まれる。まずいっ
姉が階段を上り、上り切った。私の全身が冷や汗であふれる。まずいっ
姉が皇帝から、聖水の杯を受け取る。まずいっ!
姉が皇王妃から、聖水の杯に聖水を注がれる。まずいっ!!
姉が聖水の杯を皆の前へ掲げた。まずいっ!!!
そして、姉が聖水の杯を飲んだ。まずいっ!?!?
姉の白装束から百合の花が浮き出る。そして、光りだした。
そして、その光は、アルーシェへ向かって降り注いだ。
アルーシェは、パニックになり、今までのポーカーフェイスを崩し、必死な顔になり、逃げた。ユウシェリナが歩いてきた赤い道を走り、会場の外へ向かって、誰が止めようとしても、アルーシェは、逃げた。
逃げて、逃げて、逃げて、今までが、スローモーションのようだった。これが、火事場の馬鹿力というものか。そして、会場の扉の前まで、逃げてきた。
そして、居てほしくなかった、止めてほしくなかった、人が、待ち受けていた。
「何故、逃げるのですか?」
〝ドクンッ〟
「何故、言ってくれなっかたのですか?」
〝ズキンッ〟
「何故、ですか?」
〝バキンッ〟
「あ、あああああああああああああっ!何故っ!何故っ!それは、こちらのセリフだっ!!何故あなたがっ!!何故っ!私のっ番なのですかっ!!何故っ!ほかの者じゃないんですかっ!私は、今まで、ずっと耐えてきたっ!あなたの、妹としてっ!スペアとしてっ!都合のいい存在としてっ!!必死だったっ!!あなたに認めてもらおうとっ!!あなたを超えることができないのならっ追いつこうとっ!!そして、いつか知った。あなたが、番だとっ!!その時は、どうにか抑え込みっ!耐えたっ!!そして、もう一度、あなたに追いつこうと、さらに、頑張ったっ!!朝昼晩、毎日っ欠かさずっ!!けれど、あなたは、あなたは、いつも私の先を行く…。こんな、私は、あなたに相応しくないっ!!不釣り合いだっ!だから、だからっ!!!」
〝パァンッ〟
「…え?」
「言いたいのは、それだけですか?」
「っ!」
アルーシェは、段々と冷静になってきた。そして、自分がどれほどの失言をしたのかを悟った。倒れこむように片膝をつき恐る恐る、ユウシェリナを見た。
その姿は、今までで、見たことないくらいの傷ついた顔をしていた。
「やっと、冷静になりましたか。」
アルーシェは、頷く。
「…いつ私が、あなたを不釣り合いだと言いましたか。それとも、周りの誰かに言われたのですか?」
「え?」
アルーシェは、姉の今までに聞いたことのないくらいの低い声を聞いた。その声だけで、会場全体が凍った。アルーシェは、びっくりして顔を上げようとすると、ユウシェリナに抱き着かれた。そして、耳をふさがれて、先程より強く抱かれた。とっさの事でアルーシェは、固まっている。そのあいだ、ユウシェリナが、皆へ放った言葉によって数名ご退場になった。
しばらくして、動き出したアルーシェの言葉によって、一旦、断罪大kげふんげふん…チクリ大会は終わった。
「アル、あなたは、私の妹であり、番です。それに、不釣り合いだなんだと、関係ありません。私は、私なりにあなたを愛していました。けれど、それは、妹に対してだけだった。それが、いけなかったのね。もっとはやくあなたが番だと気づいていたら、こんなことにはならなっかったですね。」
「そ、そんなことっ…わ、私がっ」
「でも、今からでも、間に合うわね。」
「え?」
アルーシェは、下を向いていたのが急に天井が見えて、横を見るとそこには、すっきりとした顔をした、姉がいた。おそらく、お姫様抱っこをされているのだろう。
そして、次の瞬間唇に何かが触れた感覚がした。何が起きたのかわからないでいると、周りが騒がしくなり、気づく。
「なっ!」
アルーシェの顔は、みるみるうちに赤くなっていく。
そして、隠すために姉の胸元に顔を埋め、さらに、周りが騒がしくなった。
一時は、どうなるかと、思っていた周りが、最終的にいい感じになったので、騒ぎ出した。
「うむっ!今日、無事、とは言い難いが、幸せとなったアルーシェ・ハルカ・ヴォ―バロス公爵令嬢、ユウシェリナ・ハルカ・ヴォ―バロス公爵令嬢を祝して、乾杯っ」
皇帝が、そう宣言したと同時に皆がグラスを上に掲げた。
後に、このことは、詩に記され、劇にもなった。そして、学園卒業後数々の魔道具などを発明し歴史に名を記した、稀代の天才魔法技術者アルーシェのおもしろ物語や、意外な事として、「天才だって、完璧じゃない」というある意味、勉強になるとして、広く語り継がれたり、幼子に読み聞かせる絵本としても、定番になった。
そして、花無き者について調べていた者達によって、新たに、詩や王城の文献にも記された。
「花無き者。幸せになりし、時、幸福が降りかかるだろう」と。
最後までお読みいただきありがとうございます。