頼み
僕は向こうの世界へとログインして、ヨツバ達が泊まっている部屋へと向かう。
「……よかった、戻ってきた。心配してたんだよ」
ノックするとヨツバが出てきて言われた。
「ごめん。人の目があってこっちに来られなかったんだ」
「クオンがいない間に色々あってね、来るのを待ってたんだよ。入って」
僕は言われるがまま部屋に入る。
「……神下さん?」
部屋にはなぜか神下さんがいた。
僕が来られない間にたまたまこの街に来てたのかな?
そんな偶然ありえるのか?
これもヨツバの幸運の効果なのかな?
「2人から聞いたのだけれど、クオンくんって呼んだ方がいいのよね?」
「あ、はい」
僕がいない間に色々と話をする時間はあったようだ。
「あまり時間がないの。余裕を持って来たはずなのに……。2人で話がしたいのだけれどいいかな?」
僕に用があって来たような言い方に聞こえる。
僕は怪しいと思い、神下さんにスキルを使う。
なんだか面倒なことになってるな……。2人は知ってるのかな?
「大丈夫だよ。それじゃあ僕が借りてる方の部屋に行こうか」
僕は神下さんと部屋を移動する。
「それで話って何?」
「クオンくん、堀田くんを殺したでしょ。他にも殺してるんだよね?」
なんでその事を知っているのだろうか?
もしかして見られてた?
「何のことかわからないけど……」
明らかにバレているようではあるけど、簡単に認めるわけにはいかないので、一応とぼけておく。
「本当に時間がないの」
何の時間だろうか?
「時間がないって言うけど、なんでそんなに急いでいるの?」
「もうすぐ話が出来なくなるからだよ。充分時間をとって来たのに、クオンくんが全然戻ってこないから」
元の世界に戻ってたことを知ってるのかな?
「2人から何か聞いた?」
「2人からはクオンくんの事は聞いてないわ。でもクオンくんと四葉ちゃんの会話は聞いてたから、元の世界に戻れることも知ってる」
2人は神下さんにも僕のスキルの事は秘密にしてくれたようだ。
ただ、ヨツバとの会話は聞かれていたらしい。
堀田くんを殺したところを見られていたのかもしれないけど、少なくても堀田くんを殺した云々の会話は聞いていたと思われる。
「本当に時間がないから用件だけ言うね。みんなを殺すのは待って。これは皆を殺してほしくないってことじゃなくて、私個人としての身勝手なお願いよ」
なんでそんな事言うんだろう?
殺してほしくないっていうことだけならわかるけど、神下さんの身勝手な理由がなければ殺すのは構わないと言うふうにも聞こえる。
「それは神下さんの種族に関係することなの?」
「な、なんで知ってるの!?」
「僕のスキルで種族はわかるんだよ。本当に神下さん本人なのかなって思ってスキルを使っただけなのに、違う意味でびっくりしたよ」
鑑定という対象の名前と種族しかわからないスキルを使ったからわかったことだ。
今後はスキルレベルを上げて、対象のレベルやスキルなどの詳細も見れるようにするつもりで獲得していただけのスキルだったけど、思わぬところで役に立った。
種族を確認したいのではなく、誰かが変装していたりしないのか心配だったから使っただけだったのに……
どういう過程を辿れば種族が天使になるのだろうか。
「……そうよ。だからわ――――」
神下さんは話している途中で急に消えてしまった。
いなくなったのか、見えなくなったのか。
時間がないってずっと言ってたし、スキルか何かの効果が切れたのかな?
…神下さんは個人的で身勝手な頼みで同級生を殺して欲しくないって言っていた。
天使ってことだからもしかして天国みたいなところであの神に会ったのかな?
それで死ねば元の世界に戻れることを知った?
いや、それなら殺すことを止めはしないか……。むしろ応援してくれそうなものだ。
いや、そもそも死んだら帰れることを知ってるなら自殺でもなんでもして、とっくに帰ってるのではないか……?どうしても帰りたくない理由がないなら、普通は帰るよなぁ。
身勝手なお願いで殺すのを待ってって言ったから、殺すことには賛成だけど、個人的に殺されるとマズい何かがあるってことなのかな?
情報が少なすぎて推測は出来ても答えは出ないな。
どうしようかな。
お願いされたし、誰かを見つけても殺すのをやめておくか……
それともお願いを無視して帰りたいのなら殺すか……
多分あの言い方だと、困るのは殺された人じゃなくて神下さんだと思うんだよね。
神下さん1人のために帰りたがっているみんなを帰らせないのもなぁ……。ただ、神下さんにとって致命的なことなのかもしれないし……。
もう少し時間があればその辺りもハッキリしたのかな?
「聞いてるかわからないけど、とりあえずこれから1ヶ月は誰も殺さないようにする。緊急を要する時以外は殺さないから、それまでにちゃんとした説明をするように。説明がないようなら再開します」
実際に聞いてるかわからないけど、姿が見えなくなっただけなら、まだ近くにいて僕の声を聞いている可能性は十分にある。
聞いてないならそれはそれで仕方ない。
それでも1ヶ月は待つのだから許して欲しい。
どうやったら元の世界に帰った人が僕に会いに来ないようにするか考えないといけなかったから、1ヶ月くらいはちょうどいい時間だったかもしれない。
僕はヨツバ達の部屋に行く
「神下さんは話している最中に急に消えちゃったよ」
「あ…うん。少ししか一緒にいられないって言ってたから、私達は知ってたよ。えるちゃんの話って私達は聞かない方が良いことなの?」
寂しそうにヨツバに言われる。
正直、ヨツバには話してもいい内容ではある。
イロハには聞かせることが出来ないけど……。
「そうだね。神下さんも2人に聞かせたくないから僕と2人で話したんだと思うし。……神下さんと会った経緯がよくわからないんだけど、何があったか教えてもらってもいい?神下さんからは時間がないってことで、その辺り聞いてないんだよ」
「朝食を食べた後、クオンが日本に戻るって言ったでしょ?クオンがこの部屋を出た後、ほとんど入れ替わりでえるちゃんが訪ねてきたの。それで話を聞いたらクオンに用があるって言ったからクオンの部屋に行ったんだけど、もうクオンはいなかったわ。日本に帰っていることは一応話してないけど、もしかしたら知ってたのかもしれない。その後はクオンが昼になっても帰ってこないから、えるちゃんと色々とお話してたんだよ。それでもう時間がないってえるちゃんが焦っている時にクオンが戻ってきたの」
「神下さんは僕が日本に帰れることは知ってたよ。どうやってかはわからないけど、前に僕とヨツバが話しているのを聞いてたみたい」
「……そうなんだ」
「2人は神下さんのことは聞いた?」
「何のこと?」
「体のこと……」
なんて言えばいいのかな?
「えるちゃん、どこか病気なの?」
イロハが心配そうに聞く。
この反応でわかった。2人には天使になってることを言ってないんだな。
「いや、そういうことではないよ。さっきの質問だけど、神下さんは2人に話してないみたいだから僕からは言わないことにするよ。僕も気づいてしまっただけで、教えられたことではないから言いふらされたくないことかもしれない」
「……わかった。えるちゃんが秘密にしたいかもしれないなら聞かないよ。病気とかじゃないならいい」
「神下さんは他に何か言ってた?」
「今まで何してたって話を大体してたかな。えるちゃんはあまり自分のことを教えてくれなかったけど、なんだか言いたくないっていうよりは、言えないって感じだったよ。だから何か問題に巻き込まれてるんじゃないかって心配だよ」
あの頼みからしても何か問題は抱えてそうだ。
言えない事情があるのか、それとも僕が神との話を話せないのと同じように声が出ないのかどっちだろう?
「そっか。今回は本当に僕に用があったってことだね」
「うん、そうだと思う。クオンはなんで時間になっても来なかったの?」
「戻ってるときに警察が訪ねて来てね。みんなが行方不明になっているのに僕が関わっているんじゃないかってことかな……話を聞かせて欲しいって。それで断ると余計怪しまれるし、警察署に行ってたんだ。それで夜まで話を聞かれてたんだよ。前にも話したけど、こっちの世界の事は向こうで話せないんだ。だから長引いて遅くなったよ」
「そっか。それなら仕方ないね」
「そのせいで神下さんの話が途中で終わってしまったから、結局神下さんが何をしに来たのかよくわからないんだよね」
「クオンもわかってないの?」
「頼み事をされたんだけど、なんでそれを頼んだのかがわからないんだ。だから頼みを聞くべきか、無視するか迷ってる。2人にはその頼みっていうのを話してないから何を言ってるのかわからないと思うけどね。神下さんのこと以外で何か変わったことはあった?」
「特にはないよ。昨日この街をいつ出るかって話をしたでしょ?いろはちゃんはいつでもいいって」
「そう。それなら明日だと急だし、明後日にしようか。僕は疲れたから部屋に戻って寝るね。おやすみ」
僕は部屋を出て、自分が借りている方の部屋へと入る。
来るかどうかわからなかったから、日本ではなく宿の部屋で寝ることにしたわけだけど、少ししてからヨツバが部屋を訪ねて来た。
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