存在価値
堀田くんも加えて4人で夕食を食べることになった。
「堀田くんに先に言っておくね。僕はクオンって偽名を使っているから、2人は僕のことをクオンって呼ぶからね。堀田くんも僕のことはクオンでよろしく」
とりあえず、偽名の件だけ先に言っておく。
「あ、ああ、わかった」
「堀田くんはいつもここで食べてるの?」
僕はわかっていることを聞く。
「え、いつもは自分で作っている。作っていると言ってもほとんど出来ているものを買ってきて少し手を加えているだけだけど……」
昨日見てたから知ってる。
実は昨日の夜に尾行していたことをヨツバ達に隠すのと、この気まずい空気をどうにかしたかったから話題振りに聞いただけだ。
堀田くんはヨツバと僕のことをさっきからチラチラとずっと見ている。
見ている理由に予想はつくけど、僕の方から言うことでもないし、堀田くんも聞いてこないので無視していたら変な空気になってしまった。
「堀田くんは今までどうしてたの?昼間に見たから温泉を掘り当てようとしてるのは知ってるけど」
僕は気にしないことに決めた。めんどくさい
「見てたのか。そのままだよ。この街に来て仕事を探していたらあの仕事を見つけたんだ。そっちは何してたんだ?」
ずっと穴を掘り続けていたようだ。
「僕とヨツバは一緒に冒険者をしているよ。イロハとは最近合流したんだよ」
「……よつば?一緒に?」
堀田くんがボソッと言う。
あー、下の名前で呼んでいることがショックのようだ。
イロハに対しても同じなんだけど、堀田くんは全然諦めてないんだな。
「この街にいるのって堀田くんだけなの?誰か他の人とは会った?」
「会ってない。俺は同じ辺りにしかいなかったからな。温泉宿の近くにいないなら、いたとしても気づかないと思う」
「そうなんだね」
この街にずっと滞在しているなら堀田くんの存在には気づくと思う。
この街は他の街に比べて小さいし、堀田くんのやっている仕事と立場から見掛ける可能性は高い。
この街に誰か他にいるなら、その人は堀田くんのことを無視しているということだと思われる。
実際に僕達はこの街に来てすぐに堀田くんを見つけたわけだし。
「仕事している時すごく楽しそうだったよね?堀田くんって穴掘るのが好きなの?楽しい仕事には思えないんだけど……」
「……楽しいっていうか、誰かに頼られるってのが嬉しいって感じかな」
「まあ、頼られるのは嬉しいかもね。それでもあの仕事をあんな顔でやれる程ではない気がするけど……それは人それぞれなのかな」
「……まあね」
「それじゃあ堀田くんはこの世界での生活が充実してるってことだね?」
「そう…だね。元の世界で誰かに頼られるなんてことはなかったからな。それに比べるとここでの生活は楽しいよ。それに俺ってなんていうかな、存在が薄い気がするんだよ。友達がいないわけではないけど、特段仲のいい誰かがいるわけでもないし、俺がいてもいなくても誰も気づかないんじゃないかって思う時があるんだ」
堀田くんはこの世界にいたいっていうよりは、元の世界での生活に思うところがあるようだ。
それなら堀田くんはこのまま放置でいいかな。
「それなら堀田くんは元の世界に帰りたいわけではないんだね」
一応聞いておく。
「そんなわけないだろ。帰れるなら帰りたいさ」
帰りたいようだ。
「そうなの?なんだか元の世界よりもこの世界にいたいように聞こえたけど」
「そう聞こえることは言ったけど、家族もいるし帰れるなら帰りたいだろう。お前は違うのか?」
そうか。この世界がどれだけ楽しかろうと普通は帰りたいか……。
「……まあ、そうだよね」
僕はいつでも帰れるのでとても答えにくい。
それに家族と離れたいわけではないけど、最初に知らずにログアウトした時、戻ってきてしまったことにショックを受けたことを考えると、実際に帰れないとなった時に本気で帰る方法を探そうとするかは微妙なところだ。
少なくともある程度満足してから帰ろうとはすると思う。
とりあえず堀田くんは帰りたいみたいだから、色々と準備しないといけないな。
僕の知りたいことは聞けたけど、この場をどうしようかな。
他の同級生がいないことも聞けたし、堀田くんに関しては僕が殺したら向こうに戻って終わりだ。
どうやって殺すかということはあるけど、今はとりあえずもういいや。
よし、帰ろう!
「堀田くんが、元気にしてるのは確認できたし解散しようか」
「ちょっと待ってくれ。お前らは何しに俺のところに来たんだ?」
そういえば、その辺りの説明をしていなかった。
「神から与えられた所持金ってすごく少なかったでしょ?獲得したスキルや環境によっては生活するのも厳しいんじゃないかと思って、困ってたら手を貸してるんだよ。堀田くんの場合は必要なさそうだね」
「そうか。そういったところで差が出るのかな……」
もう、ヨツバが堀田くんと話してくれないかなって思う。
堀田くんもそこまで、ポロポロと言ってしまうならもう1度ヨツバに思いを伝えればいいのに。
結果は予想がつくけど……
「2人はなにか堀田くんに話はないの?」
めんどくさくなってきた僕は2人に話を振ることにする。
さっきからイロハは少し距離を置いている感じだし、ヨツバは挙動不審だ。
堀田くんもそわそわしているし、要件がないならもう解散した方がいいと思うんだけど。
「さっきクオンくんが手を貸すためにって言ったけど、私は少し前に2人に助けてもらったからそんな立派な考えも出来てないし、今日も2人についてきただけだよ」
イロハが堀田くんに言う。
気を使った言い方をしているけど、言い方を変えると話すことは特にないということだ。
「私も他に話すことはないかな。堀田くんが楽しそうでよかったよ」
イロハが気を使っているのに、ヨツバは私“も”と言った。
そしてヒドい。
「ヨツバ、ちょっと」
流石に堀田くんがかわいそうになってきたのでヨツバを呼んで席を離れる。
「なに?」
「ヨツバ、あれは堀田くんが流石に可哀想だよ」
「なんのこと?」
「……本気で言ってるの?」
「クオンが何を言いたいのかわからないんだけど……?」
「ごめん、ならいいや」
ヨツバは鈍感なようだ。
僕が鈴原さんを殺した後に嘘をつこうとした時は鋭いと思ったのに、自分のことに関しては鈍いようだ。
イロハが言ってた自己評価が低いっていうのはこういうことなんだと実感する。
多分ヨツバは、自分が告られてから結構時間が経ってるし、まだ私のことを好きだなんて考えもしてないのだろう。
僕達は席に戻る。
「ごめん、お待たせ。それじゃあ解散でいいかな?」
僕は堀田くんに聞く。
「あ……ああ、他の誰かに会ったら俺はこの街にいるって伝えといてくれ」
「わかったよ」
解散して、僕達は宿屋に戻る。
結局堀田くんはヨツバに関することを何も言わなかったな。
ずっと気になってる様子だったのに……
少しでも面白いと思って頂けましたらぜひ下部より★の評価をお願いします。




