模擬戦
領主の娘を助けてから2日後、依頼を終わらせて冒険者ギルドに報告の為に戻ると、僕達宛に伝言が届いていた。
内容は領主からで、先日の件でお礼をしたいので屋敷まで来て欲しいとのことだった。
領主からは明日か3日後が空いているとのことだ。
今日の夜に遣いの者がギルドに確認に来るらしいので、3日後に行くと伝えてもらうようにお願いする。
明日はアリオスさんの所に行く予定があるからだ。
さらに翌日、僕達はアリオスさんに会いに行くために詰所へと行く。
緊急の事件はなかったようで、アリオスさんは詰所に待機していた。
「待っていた。入ってくれ」
アリオスさんに詰所の中へと通される。
「まずはこれを受け取ってほしい。先日言っていたお礼だ」
アリオスさんから武器をもらった。
僕にはロングソード、ヨツバには刀身の細い両手剣、イロハには短剣だ。
どれも明らかに高そうではあるけど、なんで僕にロングソードなのだろうか?
ヨツバとイロハに関してはわかる。ヨツバの両手剣は今使っている武器と同じような形状だし、イロハの短剣は護身用だ。
あの時、僕は戦ってないから適当に選んだのかな?
「ありがとうございます」
僕はロングソードをストレージへと仕舞う。
アリオスさんにはアイテムボックスが使えるとバレているので、知られても問題ない。
「柄の所に家紋のようなものが彫られているだろう?私は貴族ではないから、実際には家紋ではないのだけれど、それを見せれば私の知り合いだということを証明してくれる。何か困ったことがあれば使ってくれて構わない」
「アリオスさんが後ろ盾になってくれるってことですか?」
「そういうことだ」
元王国騎士団長と繋がりが出来てしまった。
本当にヤバい時には遠慮せずに使わせてもらうことにしよう。
「困ったことがあれば使わせていただきます。ありがとうございます。それで僕に聞きたいことってなんですか?」
「まず聞きたいんだが、君はEランクの冒険者だと言っただろ?それは本当か?」
「本当ですよ」
「冒険者になる前は何をしていた?」
本当のことをいうなら、ひきこもり。嘘を言うなら学生だ。
どちらとも言うつもりはないけど……
「辺境の村で暮らしてました」
この答えは事前に考えてあるので、すっと口から出る。
「その村で日頃から魔物と戦っていたのか?」
アリオスさんはなんでそんなことを聞くのだろうか?
「いえ、そんなことはありません。近くにはスライムとたまにゴブリンが出るくらいの平和な村でした」
「それが本当だとしたら信じられない才能だな。君の動きはベテラン冒険者だと勘違いする程に洗練されている」
「僕、アリオスさんの前で戦ったりしてませんよね?」
戦ったのはヨツバだけだ。僕はヨツバに助けを求めただけである。
「戦いだけが力を測る全てではない。君はあの酒場で常にいつ戦闘になってもいいように気を張っていた。しかも冷静にだ。彼女が地下室に落とされなかったのは、君があそこから離れているように耳打ちしたからだろう?それに咄嗟に丸太を取り出して、結界が発動するのを封じた。新人の冒険者が出来ることではない。本当はいけないことだが、君がどうするのか確認するために私は何もしなかった」
やっぱり、アリオスさんは対処法を持っているのに傍観していたようだ。
「買い被り過ぎてはいませんか?そんな賞賛されるほどの実力はありませんよ」
そろそろDランクの昇格試験を受けてもいいかなって考えているくらいだ。
「そんなことはない。君の間合いに不用意に入りでもしたら、一刀両断にされるのではと思ってしまうほどだ」
「自分の力はわかっているつもりですが、アリオスさんに斬りかかろうものなら一瞬で殺されるのは僕の方ですよ。何も出来ずに……」
「私も実際に斬られるとは思っていない。そう感じるものがあったというだけだ」
「それを聞きたかったということですか?」
「そうなんだが、私と模擬戦をしてくれないか?君の力を見せてほしい」
「え?実力が違いすぎますよ。何も出来ずに終わると思いますけど……」
「模擬戦といっても私は攻撃しない。好きなように攻撃してくれればいい」
まあ、別に構わないか。何が目的かはよくわからないけど、アリオスさんの頼みを聞いておいて損はないはずだ。
「わかりました。そういうことなら」
僕達はアリオスさんと訓練場へと移動する。
「さあ、どこからでも攻撃してきてくれて構わない」
アリオスさんは剣を構えて、いつでもいいと言う。
僕はストレージから剣を取り出して構える。
さっきもらったロングソードではなく、普段から使っている片手剣だ。
「待て。君の武器はそれなのか?」
「はい。今回はアリオスさんが攻撃しないということなので、なくても構いませんが一応構えました」
「君はロングソードのような両手剣を使うのではないのか?」
「アリオスさんは何か勘違いしているみたいですけど、僕は魔法使いですよ。片手剣を構えたのは、接近された時用です」
「何か隠してるのか?君の間合いの取り方は明らかに戦士だ。しかも一撃を重視するタイプのな。それが魔法使いなどとは笑えない」
アリオスさんが勘違いしている理由がわかった。
僕の動きはゲームの時の戦士のクラスに引っ張られている。
頭では魔法使いとして間合いをとろうとしているが、無意識下では戦士だったゲームの癖が出てしまっているのだろう。
「実は昔はロングソードを使っていました。アリオスさんはその時の……、間合い等の癖が残っているのを言っているのだと思います。でも僕は魔法使いをやりたいんです。獲得しているスキルも魔法使い寄りですし」
「戦士としてのスキルに恵まれずに魔法使いの道を志したのだろうが、スキルが無くても戦士としてやっていけるものが君にはあると思う」
「アリオスさんは勘違いしています。僕は戦士として戦えないと思ったから魔法使いになったわけではありません。魔法使いになりたかったから、魔法使いになったんです」
そもそも戦士をやっていたのはゲームの話だ。
間合いとかは感覚として覚えているのかもしれないけど、僕が戦士として戦えるわけではない。
「そうか。君の選んだ選択だから私が言うことではないかもしれないが、もったいないな」
「どうしますか?ロングソードで戦って欲しいのであれば、ロングソードを使いますけど……」
別に殺し合いではないので、アリオスさんが僕に魔法ではなく、ロングソードを使った近距離戦を望むなら、僕は戦士として戦ってもいい。
「2回戦ってもらってもいいか?」
「構いませんよ」
「それなら、まずは戦士として頼む」
「わかりました」
僕は片手剣をしまい、さっきもらったロングソードを取り出す。
ロングソードを構えて、アリオスさんとの間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。
仕方ないけど、ゲームとは違うので体はイメージ通りには動かない。
アリオスさんに軽く避けられた。
その後も何回か攻撃を仕掛けるけど、軽くあしらわれてしまう。
「体が思考に追いついていないようだな」
アリオスさんに言われるけど、その通りである。
ロングソードを振るにはステータスが足りないので、振るたびに体を持ってかれてしまう。
それから、ゲームで動かしていたのは当然自分の体ではないので、こう動きたいと思っても実際に自分の体でそれが再現できるわけではない。
「そうですね。思ったようには体が動きません」
「すごくアンバランスだな。どういう生活をしていたら君のようになるんだ?」
ゲームで長い時間、擬似体験していたからこうなったのだろうけど、そんなことは言えない。
「自分ではわかりません」
「そうか。本当は魔法使いなんだったな。次はそっちで頼む」
僕はロングソードを仕舞い、片手剣を取り出す。
前衛がいない時点で、出来る事は遠距離から魔法を放つしかない。
この為に新しいスキルを取得するつもりはないので、細かい戦略なんてものはない。
ただ、少し前に取得したスキルを試すにはアリオスさんはちょうどいい相手だと思った。
「ウォーターボール!」
僕はアリオスさんにウォーターボールを放つ。火魔法を使わなかったのは、万が一にも焼かない為だ。
アリオスさんは剣でウォーターボールを斬る。
掛かった。アリオスさんならそうすると思った。
斬ったはずのウォーターボールがアリオスさんを直撃する。
ダメージは無さそうだな。体を濡らしただけだ。
「今、何をした?」
「切り札ですから秘密です」
僕は[幻影]のスキルを使用していた。
幻影のスキルは相手に幻覚を見せる魔法スキルである。
僕は本物のウォーターボールの前に幻影のウォーターボールを作っておいた。
アリオスさんが斬ったのは幻影のウォーターボールで、本物のウォーターボールは斬っていないので直撃したわけである。
「ウォーターボールを2発放っておいて、1つは見えないように配置していたのか?いや、それにしては気配が1つしかなかった。うーん」
アリオスさんは悩んでいるようだ。
幻影のスキルを取得した目的は別にあるけど、取得しておいたおかげでアリオスさんに一泡吹かせることが出来た。
アリオスさん本人が言っているように、ウォーターボールを2つ重ねただけではバレると思った。
だからウォーターボール自体は1つにして、幻影でもう1つを作ることにした。
常人が相手ならここまで考える必要はなかったけど……
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