合致
桜井君は信用出来ると判断したわけだけど、桜井君の恩人という人が信用出来るのかは別なので、桜井君には付いてきた理由を言わずに馬車で目的地に向かう。
馬車に揺られ続けること数日、僕は桜井君に聞かなければいけないことが出来てしまったので、意を決して聞くことにする。
「聞いてなかったけど、どこに向かってるの?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。ザングという街だ。そこに恩人とお世話になった兵長がいる」
「……そうなんだ」
あぁ、やっぱりだ。
マップを見たら、行ったことのある街に向かってこの馬車は進んでいた。
先に確認しておけばよかった。
1つの街に衛兵隊が2つもあるとは思えないので、世話になったという兵長はアリオスさんのことで、恩人というのはハロルドさんのことだろう。
桜井君の話を聞いた時にハロルドさんのことが浮かんだけど、間違ってなかったようだ。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ」
……なるようになるだろう。
これならついて来なければよかった。
今からでも馬車から降りるのもありかな……。
ファストトラベルで魔法学院にはすぐに戻れるし。
そんな事を考えながらも、今更やめるとは言えず、ズルズルと時間は過ぎていき、目的地へと到着してしまった。
「先にお見舞いに行ってくる」
桜井君は街に着いてすぐにハロルドさんの所に行くそうだ。
桜井君に付いていき、着いたのはやはりハロルドさんの家だった。
実は違ったりしないかなと期待してみたけど、そんな事はなかった。
ガンガン!
僕がどうしようか迷っていたら、桜井君がノッカーを鳴らしてしまった。
「……あ、ハルトおじちゃん。それから、あの時のお兄ちゃん」
中からハロルドさんの子供が出てくる。
「……桜井君、おじちゃんって呼ばれてるんだね」
僕はこちらを見ている桜井君に言ってみる。
「いや、そんなことよりも、なんでクオンのことをこの子が知ってるんだ?」
話が逸れてくれないかなと思ったけど、そんな事はないようだ。
「……まあ、実は僕もこの街に来たことがあるんだよ。その時に会ったことがあるよ」
「……何を隠してるのか知らないけど、とりあえず見舞いをしてくる。後で聞かせてもらうからな」
「う、うん」
「ハロルドさんに会いに来たんだ。入れてくれるかな」
「パパならお仕事に行ったよ」
休みじゃないなら、昼間だし仕事中だろう。
「え……、仕事中?外で?」
「うん。ハルトおじちゃんはパパの病気が治ったのを知らないの?」
「治ったのか?」
「うん。そこのお兄ちゃんが治してくれたよ」
あぁ、言ってしまった。
この子には口止めしてないから仕方ない。
まだ小さい子だし責めるわけにもいかない。
「あれからパパは元気かな?」
僕はこちらを見る桜井君を無視して聞く。
「元気だよ。この前パパとボール遊びした」
「それは良かったね」
「うん」
「ハロルドさんは留守みたいだし、出直そうか」
僕は桜井君に聞く。
「あ、ああ」
「ちゃんと説明してくれるんだろ?」
少しハロルドさんの家から離れた後、桜井君に怖い顔で言われた。
「……とりあえず詰所に行こうか。その方が話がスムーズに進む気がする」
実際には桜井君と1対1で気まずい話をしたくないだけだけど……。
「……ああ」
桜井君と詰所に行く。
「お久しぶりです。兵長はいますか?」
桜井君が詰所に待機していた人に話しかける。
「ハルト!久しぶりだな。元気にしてたか?」
「おかげさまで元気にしてます」
「ハロルドにはもう会ったのか?」
「まだ会ってません。治ったとは聞きましたけど……」
「全員諦めてたんだが、自然治癒したみたいだ。こんなことあるんだな」
ハロルドさんはちゃんと約束を守って自然に治ったことにしてくれているようだ。
「え?ああ、そうなんですね。治ったとしか聞いてなかったので」
「兵長だったな。ハロルドもちょうどいるから会っていけ」
「そうさせてもらいます」
「兵長、お久しぶりです。無事魔法を習得して戻ってきました」
桜井君がアリオスさんのいる部屋に入り挨拶する。
「よく無事に戻ってきた。それでなんでハルトがクオンと一緒に戻ってきたんだ?もしかして知り合いだったのか?」
「魔法学院で再会しました。俺が魔法を習得した後、ここに帰還すると言ったらクオンが付いてきました。兵長とクオンが知り合いだったことも知りませんでした」
「魔法学院の推薦状は結局使わせて頂きました。ありがとうございます。今回は、ハルト君のお世話になった兵長と恩人というのが、アリオスさんとハロルドさんだったとは知らず、ハルト君の恩人が怪我で動けなくなっているという話を聞いたので治してあげようと付いてきたわけですけど、必要ありませんでした。まだハルト君にあの時の話はしていないので、ハロルドさんも含めて話をしようかと思ってます」
僕はアリオスさんに説明する。
「それでハルトがずっと困惑しているんだな」
「そうですね。ハルト君からお世話になった恩人の話は聞いてまして、名前を言っていなかったのでハロルドさんのこととは知らなかったんですが、動けなくなったハロルドさんの意思を継ぐようなことを言っていたので、もう治ってるよとは言い出せませんでした。僕が気づいたのはこの街に向かっている馬車の中です。先に気づいていれば付いてきませんでした」
「……とりあえずハロルドを呼んで話をしようか。あいつもハルトを心配していた。事情はどうあれ、再会を楽しみにしているはずだ」
アリオスさんがハロルドさんを呼びにいき、部屋には僕と桜井君だけになる。
「黙っててごめん。まさか桜井君の恩人がハロルドさんとは思わなかったんだよ」
僕は桜井君に謝り、言い訳をする。
「困惑しているだけで怒ってない。斉藤がハロルドさんの足を直してくれたってことでいいのか?」
「そうだね」
「治してくれてありがとう」
桜井君の内心はわからないけど、お礼を言われる。
「成り行きで治しただけだから気にしないでいいよ。その辺りの経緯はアリオスさんから説明してもらった方が分かると思う」
「理由はなんだったとしても感謝しかない」
なんでも言うことを聞くという貸しを付けるのを条件に治したとは言いにくいな。
「待たせた」
僕が言おうか言うまいか考えていたらアリオスさんがハロルドさんを連れて戻ってきてしまった。
「ハロルドさん、元気になられてよかったです」
「ハルトも元気そうでなによりだ。兵長から話は聞いたが、ハルトがあの時の少年と知り合いだったとは驚いた。偶然ではなく、運命だったのかもな」
「アリオスさんからハルト君に経緯を説明してもらってもいいですか?アリオスさんの知っている事は全て隠さずに話してもらって構いません」
僕はアリオスさんに説明を任せる。
「全て話していいのか?約束のこととか、領主の事もか?」
「構いません。ハロルドさんの怪我も自然治癒したということにちゃんとなっているようですし、ハロルドさんの前で話してしまっても大丈夫です。僕から話をするよりも、アリオスさんから話してもらった方が正しく伝わると思うので」
本当は貸しを付けた話とかして欲しくないけど、なんで僕がハロルドさんを治したのか、それを説明しないとうまく説明出来ないだろう。
アリオスさんから、イロハを助けに行った所から、領主の娘を治し、模擬戦をして、貸しを付けてハロルドさんを治したことまでの説明をしてもらう。
話していないのはあの地下室で何かヤバイものを見つけたことくらいだろうか。
あれに関しては、僕が見つけたというだけなので、桜井君に説明する必要はないと判断したのだろう。
「……教えていただきありがとうございます」
桜井君がアリオスさんにお礼を言う。
「あれから体調はどうですか?」
僕はハロルドさんに聞く。
「おかげさまで、この通り衛兵の仕事に戻ることが出来ている」
「それは良かったです。ハルト君はこれからどうするの?」
僕は桜井君のこれからについて聞くことにする。
桜井君はハロルドさんの意思を継いで衛兵になるようなことを言っていた。
衛兵になりたいわけではないのだ。
元々はお金を貯めるのが目的だったみたいだし、ハロルドさんが普通に衛兵を続けられている以上、意思を継ぐもなにもない。
「……頭が追いついてない」
「ハルト、今日は俺の家に泊まっていけ。色々と話を聞きたい。クオンさんも宜しければどうですか?」
ハロルドさんに誘われる。
「いえ、僕は遠慮しておきます。積もる話もあるでしょうから」
「そうですか」
「ハロルド、今日はもう帰っていい」
アリオスさんがハロルドさんに言う。
「……いいのですか?」
「こういう時くらいは気にするな」
「ありがとうございます」
「僕はアリオスさんに別件で聞きたいことがあるから、ハルト君はハロルドさんと一緒に行っていいよ」
「クオンはどこに泊まるんだ?」
「適当に宿を探すよ。とりあえず、明日の昼過ぎに冒険者ギルドに集まろうか。その時に考えがまとまってたら教えて」
実際には家に帰るけど、桜井君には教えてないのでこう答えておく。
「わかった」
「あとこれ。夕食で食べて。お祝いみたいなものだよ」
僕は桜井君にパンと肉と果物を3人分渡す。
「悪いな」
桜井君はハロルドさんと部屋を出て行った。
「それで、私に聞きたいこととは何かな?」
僕はアリオスさんに騎士団のことを詳しく聞くことにする。
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