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夜会で倒れた翌々日。まさかの王妃様が襲来(使○か)と我が家はお迎え準備に朝からバタバタしております。
あらゆる事態に対応出来るよう準備万端で迎えた午後、ダッシュで寝台に滑り込んだのは絶賛息切れ中わたくしヴィーことヴィクトーリア·フォン·シュナウザーでございます。
シュナウザー侯爵家の一人娘で特有の銀髪ストレートにアメジストのアーモンドアイと整った顔立ち、抜群のスタイルでどこから見てもやんごとなき令嬢なのですが先日煌めく夜会会場を見て前世が日本人だった事を思い出しました。
暗闇で第1王子に襲われるも即オチくんで失神させ事なきを得て王城から逃亡。
そのままばっくれる(あらやだ前世の言葉が)予定でしたのに、王妃様今週の公務をわざわざ変更されて今日来られる事になりました。
そうそうこちらの暦は年間は日本とほぼ同じで、季節の呼び方が違います。
日本の四季に近く、12·1·2月にあたる月が氷、3·4·5月が花、6·7·8月が火、9·10·11月が風の季節になります。今日は火の季節3月目第4週目になります。
ちなみに来週、風の1月目1週目に王立ヴィルム魔法学園の入学園式が行われます。
母上がわたくしがふせってる事を理由にやんわりお断り誘導するも「お見舞いも兼ねてね」と強行されて当日を迎えましたの。
メインはハンナのマッサージ、そして母とのアフタヌーンティーですしね。
さて、先程まで岩盤浴で温められた身体は熱がこもったままで身体中から汗がじんわりと出て火照っています。
そうだ薬湯飲んでおかねば…。
寝台の横の台に用意してある薬湯。
熱出し設定の為洗面器に冷たい水を張り濡れタオルまで用意されてるのは流石セバスじいの采配です。
嫌だけど、ムクリと起き上がり寝台から降ります。
身体の弱かった幼少期以来の薬湯…早朝に続いて2杯目、この表現し難い色と味をしたコップをじっと見つめ…てても仕方ない。
反対の手を腰に当てグイと一気飲み!!うっ激マズで美味しくないですわ…。
この手のモノはゆっくりだと飲み込めないのです(涙目)会わないのに母上ここまでしなければいけないのですか?
薬湯の横に置いてある水も飲み干します。喉がイガイガしてえづきそうなのが少し収まりました。
匂いと…後味の悪さで気分悪くなり、もそもそと寝台に上がりシーツに潜り込んだところでにわかに騒がしくなりました。
どうやら絶妙なタイミングで王妃様一行が到着されたようです。
今日のスケジュールでは先ずハンナのマッサージを受けてその後母上とのアフタヌーンティーの予定なので、様子はその都度侍女に知らせて貰うようにしています。
寝台で横になって目を瞑ってると自分の熱で温かく眠くなりウトウトしかけてるとバタバタと音がしてます。
ガチャガチャガチャ、バン!!!バタバタバタ!!
「ヴィー様大変です!!!」
「騒がしいわねラウラ。そんなに慌ててどうしたの?」
ハンナの従姉妹のラウラ(23才)ハンナ出産休暇時の時からわたくしの側付き侍女になりました。
身長155cmと小柄でハンナと似ているふわふわ茶髪をシニヨンで纏め優しいタレ目の茶眼に愛らしいソバカスがチャームポイント、侍女としては少し雑なのが玉にキズですの。
…ですが見守りくん部隊モードに切り替わると完璧になり思わず二重人格疑います。
「王妃様と共に王族専用侍医が来ていて間もなくこちらに来られます」
思わずガバッと起き上がり
「はぁ!?何故王族専用侍医が来てるの!?」
…つい淑女にあるまじき間抜けな反応してしまいました。
力を抜いてボスっと枕に収まります。
嫌な予感ビンゴですわ。母上の『演技は完璧に』の言葉が脳内リフレインします。
「それが取り敢えずその事だけお知らせしときなさいとセバスティアン様から言われてて…」
「わかったわ。王妃様の様子とか後で詳しく教えてちょうだいね」
「はい、ヴィー様」
「私は病気。私は女優…」
ブツブツと呟き、シーツをかぶり渾身の演技スタートです。
「ハッ…ハッ…」
目を瞑り、眉間にシワを寄せて時々苦しげに唸っていると先ふれににセバスじいがやって来ました。
コンコン。
「セバスです」
「どうぞ鍵は開けてあります」とラウラ。
ガチャ、スタスタスタ。
「間もなくこちらに王城からの侍医が来ます。王妃様主催の夜会で倒れられたので心配され王家筆頭侍医と助手2名連れてきたそうです。筆頭侍医のクリストフですが実は希少薬草をわたくしめが融通したり…とか懇意にしている者でして、悪友でもあります。ヴィー様ファイトですぞ」
簡潔に知りたい情報述べてくれます。…とかの内容が気になりますわね。お気づきかと思いますが、先々代の聖女様が日本人のJKだったようで現代日本語が普通に根付いていますの。
クリストフ·カウザー(?才)噂では代々王家に仕えている侍医一族の中でも天才と誉れ高く最近筆頭侍医になられた方ですわね。(ヴィー豆知識)
演技中なので薄目開けてコクリとうなずくだけにしておきます。
侍女が先導していてるようで、話し声が聞こえてきました。
「こちらがヴィクトーリア様のお部屋です。どうぞお入り下さい」
「あぁ案内ありがとう。おやセバスここにいたのか」
「お静かに。この奥の部屋です。ヴィクトーリア様は薬湯で少し落ち着き先程漸く眠られたようです」
「そうか。どれ患者はどんな感じだったのかい?」
セバスじいが簡潔に夜会後からの様子を伝えます。
流石に普通に元気でしたとは言えない…ですわね(苦笑)
「そうか、じゃあ少し触らせて貰うね」
額にそっと手をのせられました。来るとわかっていてもヒヤリした感触にピクリと反応してしまいます。
「……」
起きるべきか起きない方が良いのか判断迫られます。
額に乗せられた掌、指先から魔力を感じます。これ仮病バレてんじゃないのかしら…?
ボロが出ないよう寝ておいた方が良さそうなのでタヌキ寝入り続行チョイス。
「熱がまだあるようだね…だけど触った感じだと落ち着いてきてるし今する事はないかな。」
「先生、かなり苦しそうですが大丈夫なのですか?」
えっ!?助手の人の声!何でここにリヴァルド様来てんのよ。
王位継承者がうつるかもしれない重病患者の元に来るとか…じゃない、何しれっと婚約者のいない未婚の乙女の部屋に入って来てますの!!!信じられないですわ。
こっそり薄目開けたいけどタヌキがバレるので我慢我慢。
「うん。例の薬湯を後2回飲めば治るよ。処方しとくから後で城に取りに来てセバス」
「承知しました」
「固いなーセバス。いつもの話し方でいいんだよ?」
「職務中ですので」
早く終わらないかなーとやっぱり我慢出来ず寝返りをうちつつこっそり薄目開けて見てみると、なんとクリストフ先生とバッチリ目が合ってピシリと固まってしまいました。
よく見るとウインクしてるので仮病バレてますわね…。
そっ閉じ、もう目は開けませんよ?
「それじゃお大事に」
ゾロゾロと人が出ていく気配がしてもそのままタヌキ寝入りしていたら、気が抜けたせいか本当に眠くなりそのまま寝てしまいました。
宜しくお願いします。