11.時には百合も咲きます
部屋に入ってきたのは、朽葉色のふわりとした髪を肩口で綺麗に切りそろえた糸目の女子と、同じく真っ直ぐな黒髪を上品に分けた、真面目そうな眼鏡男子だった。
「ごめんなさいね。あたし達のクラス、終礼が長引いちゃって」
「別に、それくらい構やしねぇよ」
ガルツが手を振れば、リシュリーは安堵の息をつき微笑んだ。
スフィアやアルティナ程の派手さはないが、清廉で研ぎ澄まされた雰囲気を纏うリシュリー。掴んだら折れてしまいそうな長い手足と、スラリとした長身。両手を前で結び真っ直ぐに佇む姿は、まるで凜とした一輪のユリのようだ。清楚が服を着ていると言っても過言ではない。男よりも女にモテそうである。
そんなことを思いながら眺めていると、リシュリーがその視線に気付いた。
次の瞬間、リシュリーの眉は下がり瞳は濡れ、口は喜色を表わすように半月に開く。
「ススッ! ス、スフィアさんっ!? 是非一度お話ししたいと思っていたのよ! まさか一緒に生徒会のお仕事を出来るなんて光栄だわ!」
「あ、ありがとぅ――――っぎゃあ!?」
突然、圧倒する程の熱量を持ってスフィアに突っ込んだリシュリー。まさかユリが突っ込んでくると思っていなかったスフィアは、その全力の圧をまともに受け止め、令嬢らしからぬ叫声をあげた。リシュリーに押し倒される格好で床に転がる。
――この流れ、どこかで見覚えがあるわ。
くしくもそれは、いつもスフィアがアルティナにやっている事であった。
――ごめんなさい、お姉様。今度からは気持ちスピード落としますね。
それにしても、アルティナはよく毎度の渾身の突進に耐えられたものだ。しかも彼女の足元はいつもピンヒール。敬服に値する。
――さすが私の愛するお姉様! きっと私の全力の愛を漏らさず受け止めるために耐えてらっしゃるんだわ。素敵! これだから推しを圧して押し倒すのはやめられないわ!
スフィアが、またもや勝手にアルティナへの想いを増幅させていると、不意に身体の上にあった重みが消える。と、思った次の瞬間、スフィアの身体を浮遊感が襲った。
「ったく、何やってんだお前ら」
「リシュリー、気持ちは分かりますが、落ち着いてください」
スフィアの身体はガルツの手によって持ち上げられ、対し、リシュリーも同じようにカドーレに抱き起こされていた。
「あ、ありがとうございます、ガルツ」
軽々持ち上げられたことに少々驚いてしまったスフィア。礼を述べると、ガルツは「おう」とぶっきら棒に返し、スフィアから手を離す。その離された手の大きさと力強さに、改めてスフィアは、成長したのは自分だけではないのだと自覚する。
会長席に戻るガルツの広くなった背中を見送っていると、カドーレが慌てた声でスフィアに頭を下げた。
「すみません、スフィア嬢。リシュリーは前々からスフィア嬢のファンでして……」
「ファファファ……ファンンン!?」




