負けてたまるか!!
バスケの話ではありません(笑)
「涼子、パス!」
体育館に響くシューズの音。そして、弾むボールの微かな揺れ。
そして、ゴールにぶつかる勝利の歓声。
中学1年の涼子はバスケ部の期待のルーキーとして1年ながらも先輩たちに混ざり、大会にスタメン出場していた。
彼女は今、実に充実している。流れ出る汗さえもそれを表しているかのようだった。
「涼子、アンタなかなかいいパス回すじゃない」
先輩が自分を褒めてくれる。
ゴールをあまり決められなかったのは残念だったが、先輩達をアシストして勝利の立役者として認められたのだ。部活をやっていてこんなにうれしいことはない。
「先輩、次の試合もどんどん決めていきますからね!!」
「おぅ頼んだ」
そんな試合があった日の翌日。
この日は普通に部活が入っていた。今度は試合ではなく肩を楽にしてバスケができた。
部活も終わり今日も自分はよく動いていたと思った矢先―
「涼子、危ない!!」
突然、涼子めがけてトラックがコッチに向かってきたのだ。
あまりにも刹那の出来事だったので彼女自身も気づきもしない。
だだ、横たわった彼女の姿がそこにあるだけだった。
「りょうこ!!りょうこ!!」
誰かがアタシを呼んでる・・・・誰だろう。
朦朧とする意識の中で目を開いた瞬間だった
「痛い、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あまりの激痛に涼子は我を失い、叫びながら転げた。
「あっ・・・ぁぁぁぁぁ痛い、痛い、足がぁぁ」
そのまま意識は無くなった。
何時経っただろうか。気づいた時には右足が包帯で巻かれ足が吊り上げられていた。
その時、事故にあった直後のことを思い出す。思い出した瞬間足が疼いた。
「もう、気がついたみたいだね」
部屋に入ってきたのは白衣を着た男だった。
「とりあえず、自己紹介からだね。私はキミの主治医の野中というものだ。よろしく」
「はい・・・」
涼子は元気の無い声で返事をする。
だが、彼女にとって本当に辛いのはここからだった。
野中はすぐに事情を説明してこう言った。
「右足が完全に骨折している。正直、キミはもうバスケはできないんだよ」
涼子は驚きと悲しみで胸がいっぱいになった。
どう捉えていいか分からなかった。
「お母様から聞いてる。キミはバスケ部にいたそうだね。このまま退院してもバスケのような激しい運動はできないこともないが・・・・キミの未来のためにやらないほうがいい」
「も、もしそれでも続けたらどうなるんですか」
無理だと思っていてもとりあえずは聞かずにはいられなくなった。
「ヘタをしたら歩けなくなる。それこそ一生車椅子だ」
「そんな・・・・」
涼子は涙をポロポロと流す。
野中もそれをまじまじと見ているしかなかった。
「それにキミは本当に運がいい。本来ならば、命すら危うかったかもしれなかった」
「どういうことですか」
「背負っていたリュックがいい緩衝材のなったみたいだね」
全くフォローになっていないが、そうでも言っとか無いと医者としても気がすまないのが現状だった。
「それじゃ、僕はもう行くから。少し独りで考えてみるといい」
そういうと医者は病室から出て行った。
涼子はあれから1人で考えた。
部屋に誰も通さず、面会はすべて拒否した。それが例え自分の親であっても。
次の日、決心をした。
やっぱり、バスケは止められない。でも、ちゃんと普通の生活に戻りたい。
自分の足ぐらい、自分でどうにかしてやる!!
涼子は先生を呼んでこういった。
「バスケをさせてください」
「どうしてもかい?」
「はい。何よりも、自分に負けたくないから」
「だったら、リハビリを重ねるしかない」
「リハビリですか」
「ああ、すぐには難しいがちゃんと回数を重ねれば・・・体が思うようになる」
「本当ですか!!」
「今はそう・・・がんばるしかないんだ」
それから涼子は独りリハビリに励んだ。
最初は全く体が思うように動かず、苛立ちがつのるばっかりだったが
少しづつ自分の体が動きに慣れているのに気づいた。
毎日朝からずっとリハビリを続ける彼女、それはただひたすらにボールに触れたい、バスケがしたいという思いの表れだった。
いずれ時が経ち、彼女の体も彼女の思いを汲み取ったようで、生活できる範囲内では体が思うようになった。
だが、このままではバスケのような激しい運動はできない。
まだ足りないのだ。
涼子自身ももう中学2年生になってしまった。
2年は部活の主要である。
3年は夏で全てを終えなくてはいけないのだ。
ここで自分が努力した記録を残さなきゃならない。
「来年は無いっ、今がんばらなきゃ」
学校に来てからも涼子は練習を忘れなかった。
ちゃんとストレッチをして、まずは軽い運動から始める。
そして体が温まってきた頃を見計らって、ドリブルや3on3などをする。
じっくりやってきたので夏の大会には間に合わなかったが、まだ冬の大会でスタメン指名されるチャンスがあった。
そして、来たる11月大会のメンバー指名の日。
「それじゃ、冬の大会の面子を発表するぞ」
「PG、沖野」
「は、はい!!」
「SG、高田」
「はい」
そして、次は涼子のポジションであるSFの発表だった。
「SF・・・・」
誰もが固唾を呑んだ。
「SF、大多」
「は、はいっ!!」
その瞬間体育館がざわめく。
選ばれたのは2年生の自分でなく、1年の大多という小柄な女の子だった。
「・・・・・」
涼子はその場で黙り込む。
まだメンバーの発表は続いたが聞こえなかった。
そんなとき、あの大多が後ろから声をかけてくれた。
「なんというか・・・すいません!!」
突然謝るや、ペコペコと頭を下げていた。
だけど自然と嫌味は感じない。
それどころか、なんだかとても可愛げのある姿だった。
「はぁ・・別にいいよ、そんなこと」
「へっ?」
「何か気が抜けちゃった。私の分までがんばってね」
そういうと涼子は静かに体育館から出て行った。
悔しかったが、でもなんだか心地がいい。
あの子ならきっといいプレーが出来ると思ったのだろう。
その日涙は出なかった。
そして時間は思ったより早く進んだ。
気づいた頃にはもう大会だった。
プレイが始まるや否や涼子はずっと大多を見ていた。
「やっぱり・・・すごい」
魅入ってしまうほどの洗練された動き。
相手の動きをけん制しつつも、積極的にボールを拾いに行く様は素晴らしいプレーの連続と言わざるをえなかった。
今の自分にあんな動きが出来るだろうか―
そう思うと凄く自分が小さい存在だと気づかされた。
そんなときだった。
「タイムアウト!!」
突然のタイムアウト。いったい何があったのだろう。
顧問と審判が話し合っている。
選手の交代だろうか。
「選手交代、水橋お前だ」
「へっ、私ですか?」
「そうだ、きっちり決めて来い」
「は、はい!!」
なんと試合途中で涼子が出ることになった。
いつものポジショニングでは無いものの、試合に出れる嬉しさは言葉で表せなかった。
そして、ホイッスルが鳴る―
涼子はガードとして敵に一切のシュートを許すことなく、それをチャンスに繋げた。
涼子が拾い、大多がシュートする。
2人の息ピッタリのプレーに会場が湧いた。
「ピピーッ!!」
試合終了のホイッスルが鳴る。
結果は圧勝だった。
相手のチームからも賞賛の声が上がる。
「やりましたね、先輩」
横で大多が呟く。
「ああ、でも少し疲れたかも」
「そうですね」
「さぁ、みんなのところに戻ろう、表彰式始まるよ」
「はいっ!!」
なんであんなによく動けたかは自分自身よくは分からない。
けど、何かに熱中するということはそういうことなんだと思う。
その日2人でMVPを取ったのは涼子の最高の思い出になった。
〔完〕
初めての短編です。
イヤ〜疲れた。