第36話 地下神殿攻略④
今日で『地下神殿』の探索を始めてから三日目になる。外から見ると一階建ての大きなだけの神殿に見えたのだが、実際には地下に広大な空間が広がっており、更にそれが何層にも連なる構造だったのだ。まあ、入り口近くに凡その構造図が描かれていたので分かっていたのだが、地下10層になっているようだった。構造図では出入り口などの記載迄は無い為、そこは自力で探す必要があり、しかも各層が本当に地下なのか?と思ってしまう程に広大だったり、層によっては全体が迷路のように壁で仕切られていたりと探索に大層な時間を費やす事になった。
しかも当然の如く守護機獣や魔獣も数多く現れる為、それらの討伐を行いながらの探索になる為、パーティメンバーの疲労も徐々に増していった。更に各階層の下に抜ける出口付近には、守護者の様に強力な機獣が配置されており、それらの討伐にも時間を取られる事になった。
俺としてはそいつら共一騎打ちをしたいと申し出たのだが、他メンバーから「焦り過ぎ」と駄目だしをされてしまい、結局全員で対処する事になった。でも結果的にはそれで良かった。だって奴ら『門番』と違ってすぐに眷属を何十体と呼び寄せて集団戦を挑んで来たからな。あれは流石に一人じゃ無理だわ。
そんな感じで、なんとか現在は5層目まで来ている。更に下に向かう階段の位置が絞れたのでそこに向かっている最中である。
「それにしてもマリオンちゃん、ちゃんと戦闘熟せるんだな!」
「はい!攻撃術式には自信あるんです!元大魔導士ですから!寧ろ回復術式の方が覚えたてなので苦手です!」
「ハハハッ、回復苦手な聖女様かぁ。まあ、成りたてだからしょうがないか。」
「ですがマリオン。今回の探索中に最低でも『蘇生術式』くらいは使える様にならないと示しがつきませんよ?」
「ブーーー!、簡単に言いますけど、最上位術式じゃないですか、それ!厳しすぎです、アリアレーゼ様!」
「アリアは自分にもt他人にも厳しいとこあるからねぇ。まあ、頑張るしかないよ?」
丁度、一通りの敵を殲滅した後なので、自然と和やかな雰囲気になっている。と、いっても警戒を怠っている訳ではない。現在はリラさんがメインで索敵をしてくれている。
「なあ、今度の階層主(仮でこう呼んでる)は、一度俺に任せて・・」
「駄目です。」
「何言ってんの?駄目よ!」
「いくらレオ様の頼みでもそれは聞けないな。」
最後まで言わせてもくれないとは・・・。はぁ、まあ、しょうがないか。一度どんな奴かやり合いたかったんだがな。で、ヤバそうなら皆にも手伝ってもらえばいいかなと。
「最初の一撃で死んでしまったらどうするのですか?・・・早く位階を上げたい気持ちも分かりますが、死んでしまっては意味がありません。最悪、回復阻害を掛けられれば『蘇生術式』も通用せず、そのまま死ぬ事になるのですよ?」
「そうだよ!『門番』も脅威度:特級だったけど、正直、レオのスキルと相性が良かったから、あたしは静観してたんだ。ここまで、階層主は特級クラスばかり、しかも必ずしもレオと相性がいいとも言えない敵もいたんだから、パーティ全員であたるべきだよ!」
「私もミリアナ殿に同意見だぞ?それに私との間に子を作る前に死なれては困るしな。」
「ちょ、ちょっと待ってください!レオさんの赤ちゃんなら当然私が最初です!」
・・・リリーナさんはブレないなぁ。しかしそうだな。『門番』との一戦で二つも位階が上がったから欲が出てしまったな。しかし、そうか。アリアは赤ちゃんが欲しいか。でも、今はいろいろ調べる事が多いから、もう少し落ち着くまでは待って欲しい所だ。まだ、新婚ほやほやだしな。あと数年は・・・。
「全くいい気なものねぇ。年長者に索敵押し付けて自分たちは惚気話でもするつもりかしら?」
「あ!、申し訳ありません、リラさん!・・・リリーナ様が変な事いうから、つい・・」
「変な事を言ったつもりは無いのだが・・。大公家の女としては強者の子を産むのは義務とも言える訳で、更に怨敵を屠ったレオ様の子となれば、国を挙げて歓迎される事だしな。」
「・・・割とドライな感じなんだね?リリーナ様は。」
「まあ、私自身、本来なら他国の王家なり有力貴族なりの元に嫁がねばならなかった身なのでな。それが、惚れた男と子を為せる可能性があるだけで幸運極まりないのだよ!」
なるほど。王侯貴族ってのそういうしがらみがあるんだな。他人事では無いのだが・・・リリーナさんは、発言が少々ぶっ飛んでいるが魅力的な女性なのは確かだ。・・・味わい深い良い身体だったし。でも、偉い人と妙な繋がりを持つのには抵抗がある。申し訳無いが今は先送りさせて頂こう。
「そろそろ、5層の階層主の所に到着ですね!今回も全力でぶっ倒しましょう!!」
マリオンちゃんがやる気満々だ。確かに彼女の攻撃術式は正しく大魔導士レベルで強力だが、君、回復術式の習熟の為に来たんじゃないの?
「だってお兄さんが怪我すると、アリアレーゼ様が速攻で治すし、他の方々は大して怪我もしないしで使いどころが無いんですよ!」
まあ、確かに。・・・さて、いよいよ折り返しの5層目の階層主戦か。気合いを入れて行こうか!
各階層共同じだったのだが、階層主のいるエリアは広大な広場になっており、基本遮蔽物などは無い。又、これまで階層主がこの広場から外に出て来た事も無かった為、一旦俺達は広場の入り口前に陣取る事にした。広場の中央には人型と思われる階層主が佇んでいた。
「さて、此処で準備を万端にし・・」
次の瞬間、階層主の姿が掻き消えた。俺は咄嗟に『神断の大太刀』を構えると、突如眼前に現れた階層主が手に持つ大剣を振り下ろして来たので、大太刀で受け止めるが相手の膂力に力負けしてしまい、一気に押し込まれた。完全に油断した。まさかこれまでのセオリー無視で襲い掛かってくるとは。
「こいつ!『精霊深化』!!!!!!!!」
ミリアナが『精霊深化』で自らを強化して階層主に打ちかかってくれたので、なんとか距離を取る事が出来た。俺も『限界機動』を波動させて迎撃をする。
「レオさん!、ミリアナ! 『身体強化術式』!!!」
すかさずアリアが強化術式を掛けてくれる。俺とミリアナはなんとか他のメンバーから階層主を引き離すべく、二人で連携しながら斬りつけていく。だが、この階層主はこれまでの奴とどうにも違う。これまでの階層主は何れも金属質の装甲に覆われたタイプの機獣だったが、こいつの身体は生物のようだ。と、いうかこいつは機獣じゃないのか?
俺が敵の前で攻撃を仕掛ける間に、ミリアナが素早く背後を取って斬りつけようとした。その時、なんの予兆も無く、階層主の背中から新たな一対の腕が生えてミリアナの斬撃を受け止めた。いつ手にしたのかその手には大剣が握られている。どんな手品なんだよ?
「!、何、こいつ!気持ち悪い!」
ミリアナが悪態をついて、『精霊深化』の影響で頭部に生えた獣耳をぴくぴくさせる。なんとも萌えるなぁ・・・って、そんな場合じゃない!!階層主は腕だけでなく、その貌も後頭部から新たに生やして来た。背後の死角を無くしたってか?
「シッ!」
今度はリラさんの神弓『シャランガ』から炎の魔導矢を放つ。相手の身体が生物だから炎を選択したのだろう。しかし、階層主は2mを超えるその巨体とは裏腹な速度で回避してしまう。
「ならば!」
今度はアリアが無詠唱で雷撃を放った。威力よりも展開速度を優先した術式も階層主は巧みに回避していく。気がつけば脚まで四本になっていた。その姿は二人の人を背中合わせにくっ付けたみたいになっている。端的に気持ち悪い。
「な、なんなのこいつ!マジでキモい!!」
マリオンちゃんも俺と同意見の様で、のけ反るように慄いている。慄きつつも攻撃術式を放つあたりは大したものだ。だがそれも二対の脚を上手く使い回避する。回避能力が高い!どうにか脚を止めないと!
「うおおらあああああぁ!!!!!!!!!」
俺は大太刀を上段から力一杯に叩き付けた。その結果、鍔迫り合いに持ち込み、なんとか奴の足を止める事に成功する。奴の背面側にいたミリアナも同様に魔剣『グラム』を叩き付ける事で、階層主をサンドイッチする形でその動きを抑え込んだ。ただ、長くは持たない。奴の膂力が尋常じゃ無い!
「任せろ!『魔雷剛力』!!!!!!!」
そこに既に『聖雷纏速』による加速をしたリリーナさんが、新たに得た『魔雷剛力』で全身に聖雷と黒雷を交互に纏った状態で奴を斬りつけた!二色の雷を纏った聖魔剣『デュランダル』は階層主の肩口から下腹部までを一気に切り裂きながらその身を焼き焦がす。
『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!』
溜まらず悲鳴を上げる階層主。同時に前後を抑える俺とミリアナを弾き飛ばして後方に大きく距離を取った。
「逃がさない!ここで決める!!!」
奴に近かったミリアナが一気に追撃を仕掛ける。魔剣にめい一杯闘気を込めた状態で。
「くたばれ――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ミリアナが大音声と共に階層主を一刀両断し、同時に階層主の身体がミリアナの魔剣に込められた闘気が弾けるのと同時に木っ端みじんに吹き飛んだ。
「フゥゥーーー。」
階層主を倒しきったミリアナが大きく息を吐く。どうやら再生とかは無さそうだ。ここまで粉々にされて復活されても困るけど。流石にこれだけの戦力で袋叩き状態だと階層主といえどいかんともし難かったようだ。
「お疲れ、ミリアナ! 凄い一撃だったな。文字通り木っ端みじんだ!」
「フフッ、ありがと。まあ、あたしも『魔剣聖』だからね。これぐらいは・・」
と、その時、ミリアナの周囲の地面から光が立ち昇った。
「え!?なにこれ!?」
「!、いけません!そこから離れてミリアナ!! 転送トラップです!!!」
そう叫んだアリア。見る間にミリアナを囲む様に『紋章陣』が描かれる。どこかに強制転送させる気か!?
「くそ!!!」
咄嗟に俺は飛び出して、ミリアナの腕を捕まえてこちらに引っ張ろうとしたのだが、逆に紋章陣に吸い寄せられてしまう。なんだこれ!?
そして、紋章陣が一際大きく輝いた。
光が収まった後には、俺とミリアナはその場から消えていたのだった。




