第34話 地下神殿攻略②
・・・時は少しだけ遡る。
【SIDE:ミリアナ】
巨大な竜型機獣が光線による絨毯爆撃を行う中、レオが上空に素早く退避して、『黒炎翼』による高速機動戦をし始めた。あの技、もうあそこ迄仕上げたんだ。あたしとの訓練中は制御に失敗して近くの木に激突してたのに。
あたしとレオは共に剣士職(得物は違うけど)なので、ファイーアまでの道中などで幾度か一緒に訓練したり模擬戦をやったりしていた。その中で、「俺は空中機動戦をやれるようになる!」と豪語して練習し始めたのが最初になる。初めて聞いた時は、「羽も無いのにそんなの無理でしょ?」と思ってたけど、彼は何度も墜落したりしながらもどんどん上達していった。しかし『黒炎で翼を生やして推進力にも利用する』なんて突飛な事をよく思いつくなって感心したものだ。本人曰く、どういう訳か黒炎が術者にダメージを加えないのに気付いたのが切っ掛けらしいが、どうしてそこから空を飛ぶ発想になるのだろうか。
あたしがそんな事を考えながら戦闘の様子を眺めていると、マリオンちゃんが興奮した様な歓声を上げた。
「何あれ~~!? お兄さん、翼生やして空飛んでる!!しかも超速くてわたしじゃほとんど目が追いつかないよ!!」
「そうですね・・・。以前から足裏に爆炎術式を発生させて疑似的な空中機動戦はやっていましたが、まさかあんな方法でやるとは。やっぱりレオさん、流石ですね!」
さっきまでは一撃を貰ったレオを見てハラハラしていた新旧『聖女』様は、現在有利に進めているレオの様子見てすっかり観戦モードになっている。それに付加系のスキルも発動させてからは相手の再生能力を封じられた様であたしから見ても危なげな様子が無い。・・・アリアの鑑定だと脅威度:SS級だったようだが、それほどか?とも思ってしまいそうだ。だが、実際には唯でさえ硬質な装甲にあの巨体、しかも超速再生持ちで絨毯爆撃紛いの攻撃まであるのなら確かにSS級だろう。特に超速再生と巨体の組み合わせが凶悪だ。本来なら超火力による殲滅くらいしか倒す方法が無いし、巨体だと一撃で殲滅し切れない可能性が高いからだ。レオが再生不可にできるスキルを発現していたのは幸いだった。
「それにしても速いわねぇ。『限界機動』のスキルを使ってるのでしょうけど、あれなら『アモン』の鎧無しでも全然大丈夫そうね。」
『・・・・・・・』
リラさんも安心したように観戦している中、ヴォルカン様だけが何も言わずに黙って戦闘を見つめている。・・・なにかあるのだろうか?
程なくして、レオの勝利で戦いが終わった。相手は、手足も頸も切断されてスクラップ状態だ。金属製だしスクラップでいいよね?それにしてもSS級相手に実質圧勝するとかやっぱりレオは強い。あたしが同じ様に圧倒できるかと言われればちょっと難しいと思う。『精霊深化』をやった上で奥の手を使えばなんとかなるかも知れないが。
なんにせよ、決着がついたと安堵していたら、突然、くずおれた機獣から赤光が立ち昇り、同時に押し潰されるような『圧』が発生した。
「!? 何!?」 「これは!?」 「キャッ!?」 「この感じは!」 『・・・・・』
この場にいる5人がそれぞれ反応する。これは不味い!間違いなく強敵の気配!
あたしが突然の『圧』に警戒している間に、真っ赤な鎧を纏った人型の敵が咆哮を上げた。その途端にレオの身体が一瞬硬直したように見えた。スタン効果!?そして次の瞬間にはコマ送りでもしたかのようにレオの眼前で長槍を振り下ろしており、レオが左手を犠牲にしてなんとか攻撃を逸らした所だった。
(速い!速度特化型!? だとするとレオと同タイプだから、速度で負けると打つ手が無くなる!?)
「あれは!?・・・あの敵は脅威度:超級です!! 直ぐに助けに行かないと!!!」
そう言いながら飛び出そうとするアリアをあたしは羽交い絞めにして押さえ付けた。
「ミリアナ!? 何故止めるのです!?」
「これがレオの為の試練だって忘れたの!?相手が超級だからって諦める様じゃ位階なんて上がらない!だから、もう少し様子を見ようよ?」
あたしの説得に納得いかないのかアリアがあたしを振りほどこうとするが、あたしは離してやらない。だって、レオの戦意は全く衰えてないんだから。ここは信じてやらないと!
「・・・・分かりました。もう少し様子を見ましょう。」
なんとか落ち着きを取り戻したアリアを解放する。・・・なんかアリアってもっと冷静なタイプだったはずなんだけど、やっぱり大事な旦那さん相手だと勝手が違うみたいね。
レオが黒炎翼を展開して横方向に離脱するのを同じく背中から翼を生やして追従し始める敵。どうやら二人は空中戦で勝負を付ける気のようだ。
(でも、それだとレオが不利かもしれない。人族の武技は空中戦を想定してない!!)
そして、あたしの懸念は暫く後に現実になった。あたし達の見ている前で、レオが全身を切り刻まれた挙句に地面にたたき落されたのだ。
でも、まだあたしは助けにはいかない。だって彼は立ち上がって剣を構えたのだから。まだ戦意を失っていないのだから!
再び飛び出そうとするアリアを引き止めながら、レオを見詰めるあたしは彼を信じると決めて、でも万が一に備えていつでも飛び出せるように準備をすることにした。
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奴と空中戦を繰り広げた結果は、一言でいうなら俺の惨敗だ。何故なら、俺は奴に全身をあちこち桐木裂かれ、左肩には長槍の一突きを貰ってしまい、左腕も使えない。で、先程空中から地面に叩き付けられて全身が超痛い。『神鋼』の軽鎧を身に着けて無ければ背骨が折れてた所だ。
やっぱり急造の翼での空中戦は不味ったか。・・・と、いうより、俺がこれまで修練してきた剣技に空中戦が無いのが原因かもしれない。その辺は今後の課題とするにしても、今は現状をどう乗り切るかだろう。あまり情けない姿を見せてるとアリア達が参戦して来てしまう。
「・・・こうなりゃ、奴にも『地上戦』を強要するしかないか。。」
腹を決めた俺は、大太刀を右手一本で構える。片手だとやや重いので肩に担ぐ構えだ。
すると、上空から『赤竜騎士』が急降下しながら長槍で突きを打って来た。俺はそれを身体を捻りながら、肩に担いだままの大太刀を槍の穂先の側面に添わせる事で受け流しながら、一気に奴の片翼を切り裂いた。当然『獄炎付加』を発動させているので再生は封じている。
『グガァ!?』
空中戦では小細工無しに速度まかせの戦いしかしてなかったので奴も対処が遅れたようだ。ざまあみろ。どうやらこいつはミリアナの様な達人級の武技は持っていないようだ。単純に身体能力特化なのだろう。・・・だったらまだ勝機はありそうだ。
「第1ラウンドはお前の勝ちだが、第2ラウンドはこっちの土俵でやらせてもらうぜ!!!」
片翼を失い、地面に墜落してきた赤竜騎士に、大太刀による打ち下ろしを見舞ってやる。正直、片手しか使えないので細かい操作は厳しいが、そんな事は言ってられない。
俺の一太刀は体勢を崩していた奴の肩口を切り裂いた。流石に機獣だけあって痛覚とは無縁なのか、切り裂かれてもひるまずに応戦してくる。しかもその槍による刺突が途轍も無く速い。速いのだが、動き出しの挙動を隠す事をしてこないので、何とか見切る事ができる。その後も連続で刺突を繰り出して来るので槍が何十本にもなったかのように見えるが、実際は一本なので慌てる事無く体裁きで躱していく。身体はボロボロなのだが、どういう訳か前より良く動けるようだ。・・・どうやら、ようやく『限界機動』による強化に慣れて来たようだ。
身体の制御が完璧になった俺は、奴の槍による猛攻を悉く躱しながら、時折、大太刀で斬りつけることで、相手の傷を増やしていく。・・・そろそろこっちの体力もヤバくなりそうだからそろそろ決めるか。
と、いっても『核石』が何処にあるかは俺には分からない訳で、今は回避優先で捌けているが、攻撃に集中したら何発か貰いかねないし、一発貰ったら最悪即死しかねない。やっぱりサブノックス戦で使ったアレをやるかぁ。『アモン』が無いし、片手だが・・・・・・やるぞ!!!!
「アーカイン流奥義『無限斬』ーーーーー!!!!!!!!!!!!」
アーカイン流とは、以前姉さんに聞いたのだが、親父の親父、つまり俺の爺さんが起こした剣術それも刀に特化した流派らしい。だが、親父は戦闘職を授からなかった為、流派は実質途絶えてしまったのだが、爺さんが残した秘伝書は大事に保管されていたのだ。爺さんの使っていた刀と共に。あの日、姉さんは俺の元を去る際に、その秘伝書と一振りの刀を俺に残してくれていた。実を言えば、俺が刀剣士になろうとしたのも、この秘伝書にある技を習得する為だった。秘伝書には、刀の基本的な扱い方や基本の型、それといくつかの『奥義』が記されていた。
この『無限斬』もその一つで、一言でいうと、ひたすら高速で斬撃を繰り出すのだが、しいて特徴をいうなら『三角の軌跡』を少しずつずらしながら描くように繰り出す所だな。更に『闘気』(体外に放出出来るほど濃密な魂魄力の事)を攻撃対象の周囲に円弧上に張り巡らせ、その闘気で刃を勢いを損ねない様に軌道をずらしてやる事で、繰り出すごとに剣速が高まる斬撃を可能としている訳だ。ちょっと違う気もするが、相手を闘気の結界で囲って、その内壁で刃の軌跡を弾きながら斬撃を繰り出すような感じだろうか。通常の普人族だった爺さんでもこれで数十の斬撃を繰り出せたのだから、色々強化された俺の場合はその比ではない。『アモン』の鎧があれば、それこそ相手は塵になるくらいなので、そこまではいかなくとも結果は推して知るべし、だろう。
『――――――!!!』
俺の高速斬撃によって『赤竜騎士』は木っ端みじんになり、ちゃんと『核石』もバラバラに切り裂く事が出来たようだ。但し、本来両手でやる奥義を片手で無理やった代償として、俺の右腕もあちこちの筋が断裂して、指も数本へし折れてしまったが、まあ、なんとか勝てたようだ。俺はそのまま仰向けに倒れ込んだ。
流石に疲れた。左肩には大穴空いてるし、ちょっとヤバい状態だが、まあ大丈夫だ。愛する俺の奥さんは元『聖女』様で回復術士の頂点にいた人なんだから。・・・超痛いんで早めに治療お願いします!!
「『暗黒最上位回復術式』ーーーー!!!!!!!!」
一騎打ちの勝負がついたので、速攻で回復術式が飛んで来た。お陰で俺の傷があっという間に回復した。俺は魔人族なので、例の副作用も無い。更にそれとは別に力が漲るのを感じていた。どうやら『魂の位階』が上がったらしい。まだ肝心の『神殿』に足を踏み入れる前なのに死にかけたか甲斐があったというものだ。
「レオさんーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
アリアが文字通り俺の元まで飛んで来た。彼女くらい飛翔術式が使えればもう少し楽に立ち回れたのかもしれないな。まあ、無理だけど。
アリアが倒れた俺を抱き起しながら、身体のあちこちを触って怪我の有無を確認している。もうアリアの術式で傷は完治してるんだから心配いらないのに。でも、頬にあたる柔らかい膨らみの感触を楽しむ為、ぐったりしたままでいよう。
「大丈夫ですか!?どこか痛むところはありませんか!?」
俺がぐったりしたままでいる為か、しきりに心配してくるアリア。・・・そろそろ起きないとかな。
「レオ!いつまでぐったりしてるフリをしてるの!?アリアが余計な心配しちゃうでしょ!!」
そこに追いついて来たミリアナが、あっけなく俺の偽装を見破り声を掛けてきた。やめろよ!指摘するんじゃない!どこも痛くないけど疲れてはいるんだぞ!!
「え?・・フリ、なんですか?」
「そうだよ。確かに消耗はしてるけど、そこまでぐったりする程じゃない。・・・どうせアリアのおっぱいの感触を楽しんでるだけだよ。」
「ええぇ!? そ、それは、まあ、私は全然構わないのですけど・・・」
ミリアナの指摘で恥ずかしくなったのか頬を紅くするアリア。薄目を開けてそんな様子を楽しんでいた俺にミリアナが蹴りを入れてきた。お陰でアリアのふかふかから転げ落ちてしまった。
「いてっ!?」
「いいかげん起きなさい! まだ『神殿』に入ってもいないんだから!」
まあ、最もな言い分なので渋々起き上がる。まぁ、いいさ。アリアには後で甘えればいいし!
「それにしても、途中ハラハラさせられたけど、なんとかなって良かったね。見事だったよ!」
「お、おう。サンキューな。」
ミリアナが満面の笑みで俺を称えてきた。普段見せないそんな笑みを見たせいか、ドキドキしてしまう。・・・やっぱりこの子には笑顔が似合うよな。
「でも、空中戦はしばらくやらない方がいいよ? 空中戦に特化した武技なりを習得するまでは。」
「・・・そうだな。俺もそう思った。その辺は今後の課題として、後で相談に乗ってくれるか?」
「うん。もちろん。でも、わたしも空中戦ができる様になったほうがいいよね。・・・空を飛べるタイプの精霊獣と契約できればいいんだけど。。」
「まあ、その辺も追々だな。縁があれば見つかるだろう。」
ミリアナは同じ剣士系の職だし、こういった相談事が出来るのが有り難い。それに一見感情的にも見られがちだが彼女は実の所、結構理性的な戦い方をする。どちらかと言えば戦い方に関してはアリアの方が直感的というか脳筋思考な気がする。・・・本人には言わないが。
又、リリーナさんも勇者で剣を使うから彼女共いろいろ相談できるのも有り難い。流石にスポット参加だろうから、そう長くは居てくれないかもしれないが。
「ハッハッハッ! 流石だね、レオ様!見事な勝利だった!レオ様の勇猛な戦いを見ていたら、下腹部が熱くなってしまって、もう、此処で抱いて欲しい!と、つい思ってしまったよ!」
流石のリリーナクオリティ。ホントに公女様なのか?普通に下ネタブッコんでくるよな・・・。
「流石に勘弁してくれよ。それより、今後、空中戦で使える剣技とかを習得していきたくてさ、リリーナさんとも相談したいんだが」
「もちろん相談に乗るぞ! と、いっても私自身も現状どうすればいいのか分からないのだが。」
そりゃそうだ。剣術を編み出した奴が空飛べないんだからな。でも、今後を考えれば無駄にはなるまい。三次元的な戦闘を自在に熟せれば戦力アップできるからな。
「おめでとうございます!見た感じ位階も上がったみたいだね!」
「お疲れ様。全く、脅威度:超級がこんな所で出てくるなんてね。随分ハラハラされられたわ。」
今度はマリオンちゃんとリラさんに声を掛けられる。リラさんからすればそうだろうな。自身も超級の魔獣に苦労させられた訳だし。・・・それにしても、マリオンちゃんも鑑定持ってるのだろうか?
「わたしは鑑定眼は持ってないよ。どっちかというとヴォルカン様の眼のほうが近いかな?」
!!、龍眼持ちだっていうのか!?・・・人族で龍眼持ちなんてあり得るのか?ヴォル婆の事を考えると結構とんでもない能力の筈だけど。。
「非常に稀なことじゃが、過去に数例はあった事じゃの。・・・まあ、まだ使い方は未熟に尽きるがの。」
「ぶーーーーー!! じゃあ、使い方を教えてくださいよぉ。・・・国内じゃ他に誰も使い手いないから、相談も出来ないし・・・」
乞われたヴォル婆はしばらく思案顔だったが、やがてニヤリを笑いながら答えた。
「・・・まあ、多少は制御出来ないと辛かろうからの。いいじゃろう。基礎的な事くらいは教えてやるわい。」
「ホント!? やったぁ! ありがとーー!」
過去を見通す龍眼か。確かに使い熟せないと辛いかもな。見たくも無い過去までふとした弾みで視えてしまうだろうし。・・・・だからこの子はあえて明るく振る舞っているのだろうか?それとも素なのかな?まあ、いいか。
そんなこんなで何とか『門番』を撃破した俺達は、いよいよ『地下神殿』攻略の為、神殿内部に入っていったのだった。




