第32話 新米聖女マリオン
「しかし、アリアに『剣聖』ミリアナ殿に加え『弓聖王』リラ殿に『勇者』リリーナ殿までいるとは、レオニス殿のパーティはほんに豪華じゃのう。これほどの美女に囲まれるとは男冥利につきるじゃろう?」
「いやいやいや、別に全員が俺のって訳じゃないよ? 戦力的に豪華なのは認めるけど。」
「しかしレオ坊よ、今のままではお主は折角の戦力を生かしきれんぞ?」
俺と大聖母様の会話にヴォル婆が加わって来た。しかも何気に俺、ディスられてない?
「そりゃ、どういう意味だよ? これでも仲間を蔑ろにはしてないつもりなんだが?」
「いや、そういう話では無いのじゃよ。端的に言って、『アモン』の鎧が強力過ぎるのが問題なのじゃ。」
え?どういう事だ?『アモン』の鎧は途轍も無く強力で、皆を守れる力を俺に与えてくれる便利な鎧なんだが。魂魄力の消費以外にデメリットも無いし。
「どうせお主は、魂魄力消費しかデメリットは無いとか思っとるんじゃろうが、そうではないぞ。本質は、その鎧が強力過ぎる事なんじゃ。・・・実際お主は今後の課題として、魂魄力の増大、即ち魂の位階を上げる事を考えている筈じゃ。だがの、魂の位階は普通の鍛錬では上がったりはせぬ。絶体絶命の死地を超えてこそ上がるものじゃ。だが、『アモン』を纏ったお主はどこで命の危機に遭遇する?上位の魔王すら単独で圧倒したお主の前にどれほどの脅威が転がっておるのじゃ? それにお主が一人で敵を圧倒し続けるなら、いつ仲間との連携を学ぶ?それに、お主は『アモン』を使い熟せておらん。寧ろ武具に使われておる。
それに、万が一『アモン』を封じられたらお主はどう戦うのじゃ?・・・こんな風に。」
次の瞬間には、ヴォル婆の唇が俺の唇を塞いでいた。しかも舌まで入れて来やがった! いつも間に!?・・・それにちょっと気持ち良くなって・・・だぁああああ!!!ち、違うだろ!!!!俺は少女趣味じゃない!!!!!! 誤解されたらどうすんだ!!!???
「あっ!?」「えぇ!!?」「ハイッ!!?」「あら?」
女性陣からそれぞれ驚きの声が上がる。ち、違うぞ!俺は悪くないよな!?
「な、な、何しやがる!!? このロリババァが!!!」
「ん?お主の『アモン』召喚を封じただけじゃが?」
・・・・は?『アモン』を封じたって? 今のキスで!? そんな事可能なのか!?
「ほ、本当に封印されています。・・・信じられません。あの一瞬で・・・」
アリアが俺を『鑑定』したらしい。どうやらあの一瞬で俺の切り札が封印されてしまったらしい。
召喚:魔神鎧装『アモン』…封印中:しばらくは使用禁止じゃ! 使ったら、メッ!だよ♡
しかも、舐め腐ったコメント付きでだ。封印はともかくなんなんだ、このコメントは?勝手に書き換えたり出来るものなのか?
「わしクラスに成れば、条件が揃えば余裕じゃの。・・・条件とは魂の繋がりを得る事。お主、さっきのチューで気持ち良くなったじゃろ?そのタイミングで書き換えたのじゃ。・・・まあ、封印だけなら触れる必要は無いんじゃがな。」
「!!――――――レ、レオさん、まさか少女趣味が・・・?」
「そ、そうなの!?・・・で、でも少女専門じゃないよね?・・あたしにもちゃんと出来てたし。」
「あわわ・・どうすればいいのだ!? 私には容姿からして少女風には出来ないのに!!?」
アリア、ミリアナ、リリーナさんがそれぞれ勝手な妄想をしていらっしゃる。違うからな!俺に少女趣味は無いぞ!! そもそもヴォル婆の正体はとんでも無い高齢者だぞ!見た目に騙されちゃダメだ!!!
「断じて違うぞ!! 誤解するんじゃ無い! そもそもこいつの正体は超ババァ―――うぎゃ!?」
釈明の途中で、ヴォル婆に張り飛ばされてひっくり返ってしまった。・・・なんなんだ?ヴォル婆呼びはいいのにババァ呼びでキレるとか。
「ヴォル婆は愛称のようにも感じるから良いのじゃ。そんな呼び方する奴もおらんかったから新鮮じゃしの。だ!、が! ババァ呼びは許さんぞ!!悪意を感じるからの!!」
なるほど。そうはそうかもな。・・・こいつを怒らせるとホントに死んじゃいそうだし今後は気を付けよう。・・・でも、そもそもお前のせいじゃないか? しなくてもいいキスしてくるから!
「まあ何事も経験じゃ! それよりお主に施した封印は、お主自身が一定以上の成長をせぬ限り解ける事は無いぞ。ちなみにわしにも解けんからの。そういう術式にしたのじゃ。・・・まあ、過剰な力は無くなり、等身大の自分に立ち戻ったということで、今後は一層精進するんじゃな。仲間と力を合わせてな。」
まあ、もう封印されたのなら仕方ないだろう。元々位階を上げる事は考えていたし、そう考えれば都合がいいかもな。・・・そもそも魔人化する前は、それこそ必死にスキルを覚えたんだし。
「まあ、丁度いいかもしれないわね。折角パーティを組んだのだからパーティとしての地力を上げる機会と考えればね。レオニス、貴方がパーティに選んだメンバーは全員が特級戦力を有しているのよ?貴方だけで全員を守る必要なんてないわ。仲間を信じて、そして自らを高めなさい、昔の様にね。」
「・・・そうだな。そうしよう! そういう訳で大分弱体化しちまったから、迷惑かけるかもしれんがいいかな?」
「はい!お任せください!」
「うん!任せてよ!これでも『剣聖』だからね! あ、今は『魔剣聖』だけど・・」
「もちろんだ!それに私だって新しく得た力を振るいたいしな!」
そんな感じで、自分を高める為にも『地下神殿』攻略への意欲を高めていると、執務室の扉が勢いよくバンッと開かれた。
「ハァハァ、あっ!本当にアリアレーゼ様だ!!」
開け放たれた扉から一人の少女が飛び出してきてアリアに抱き着いてきた。・・・誰だ?この子?
「わっ!?・・・・・・貴方、もしかしてマリオンですか!?」
「はい!お久しぶりです!お帰りなさい、アリアレーゼ様!!」
・・・どうやらアリアの知り合いの子らしい。何となく太陽のような子だな。軽くウェーブのかかった明るい金髪にアメジストのような紫の瞳、背丈はヴォル婆と同じくらいだから12、3歳か?・・・それにしては、年不相応に一部分だけ成長著しいが。なんだあのけしからん程のたわわさは!?正直魔人化前のアリアを余裕で超えてるんだが!?
「・・・・レオさん?」
ハッ!やばい!アリアに気取られたか!?アリアがジト目で俺を睨んでるじゃないか。
「全く。・・・それで、どうしてマリオンが此処に? えっと、今は重要なお話をしているのだけど・・」
「そうなんですか? でもわたし、大聖母様に呼ばれたって、あ母さんから聞いたから来たんですよ?」
「え?・・・じゃあ、新しい聖女って、貴方なの!?」
「そうですよ!へっへー凄いでしょ!歴代最年少12歳の聖女なんだよ!」
どうやらこの賑やかな女の子が新聖女らしい。落ち着いた感じのアリアとは真逆な印象だな。
などと、新旧聖女の二人を眺めてると、執務室の扉が再度開かれた。
「も、申し訳ありません! 遅くなりました!」
と、医務長官イリアさんが戻ってきた。新聖女マリオンちゃんが戻ってきた彼女の方を見て、
「お母さん、遅いよ~! もう歳なんじゃない?」
「失礼ね!私はまだ35よ!」
え?35歳?正直20代前半に見えたんだが。親子ってより歳の離れた姉妹みたいだが。
そんなことを考えながら、つい医務長官殿を見ていると、俺の視線に気づいたのか、
「あの・・どうかなさいましたか?」
と聞かれてしまった。慌てた俺は思った事をそのまま口に出してしまった。
「ああ、いや、親子ってより姉妹の様に見えるなぁって思って。イリアさん若く見えるから。」
「まぁ! ほほほ、そのように煽てても何も出ませんよ?」
と、言いつつ若干口元がによによしており満更でも無さそうだ。まあ、思ったまま言っただけなのだが。
「あ~~!お母さん、そんな嬉しそうにしてるとお父さんに言っちゃうよ?」
「な、なにを言ってるの!この子は! そ、そんなんじゃありません!」
なんだか親子仲が良さそうで何よりだ。・・・いきなりミリアナを張り飛ばしたからもっと怖い人かと思ったがそうでも無さそうだ。だが、そうすると・・・、いや、それだけアリアを大事に想ってくれてたってことだろう。
「ねぇ、お兄さん! お兄さんが魔王サブノックスをタイマンでやっつけたんでしょ?わたし、その事を昨日知ったときはホントにビックリしちゃったよ!しかもこんなにイケメンとかマジ凄すぎだよ!」
「そ、そうか?」
なんというか本当に元気な子だな。・・・ホントに『聖女』なんだろうか?
「ね、ね! それで、エッチの時ってアリアレーゼ様ってどんな感じなの?いっぱいシてるんでしょ?」
「ハァ!?」
「な、何を聞いてるんですか!!? 子供はどういう事気にしなくていいんです!!」
「え~~、だって気になるんだもん!ねっ!ちょっとだけ教えてよ!」
「まあ、一言で言って『最高』だな。」
「キャー!『最高』なんだぁ!」
「ちょっ、レオさん!?」
ハハハッ。中々ぶっ飛んだ子だなぁ。アリアは既に茹蛸みたいに真っ赤な顔になってるし。それに話の感じだと俺達、この子連れて『地下迷宮』攻略すんだよな?・・・大丈夫か?
「あ!『剣聖』ミリアナ様だ!」
「え?えぇ!?」
今度はミリアナに突撃を掛ける『聖女』マリオンちゃん。そのままミリアナに抱き着いた。ミリアナは突然の事にどうして良いのか分からずワタワタしている。・・・あいつのああいう所はなんか可愛らしいな。
「こんにちわ!聖王国にようこそ、ミリアナ様!」
「う、うん。・・ありがとう。」
ミリアナを抱き締めたまま、顔だけ上げてミリアナを見つめるマリオンちゃん。
「ミリアナ様、ごめんね。お母さんにぶたれたんでしょ?・・お母さん、アリアレーゼ様が大好きだから、ついカッとなっちゃんだよ。でも、ホントは分かってるんだよ。ミリアナ様もつらかったんだって。」
言いながら、マリオンちゃんがそっと手をミリアナの少し腫れた頬に宛がう。一瞬だけ温かな光が輝き、その後にはすっかり傷が完治していた。 完全無詠唱での術式発動!・・・技名発声すらせずに発動するなんて初めて見た。なかなかとんでも無い子だな。
「え?・・ありがと。」
ミリアナが治療の礼を述べると、マリオンちゃんは「うぅん」と首を振ってから再度ミリアナを抱き締める。
「・・・ミリアナ様は、すっごく強くって、優しくて、それでいて心が繊細で、ちょっと臆病だから、怖くなっちゃったんだね。・・・・・・でもね、ちゃんと言葉にして、何が怖いのか、どうして欲しいのか、伝えれば絶対手を貸してくれる人がいるから、勇気を出して言葉にしてね。そうすれば貴方の心を救ってくれる人が応えてくれるよ。」
「!ッ・・・・うん。わかったよ、ありがとね。」
そういってミリアナもマリオンちゃんを抱き締めた。
さっきまでは聖女っぽくないと思っていたが、幼くても『聖女』様って事なんだろうか。いや、単純にこの子が凄いんだな。・・・俺もミリアナに何かしてやれないかな。過去はどうあれ今の彼女は仲間なんだから。それにあれだけの美人が憂い顔のままじゃ勿体ないしな!
暫くミリアナと抱き合っていたマリオンちゃんが、今度はリリーナさんの前に移動してきた。
「こんにちわ!貴方が『勇者』リリーナ=メルフィス様ですね。魔王サブノックス討伐、本当にお疲れ様でした。・・・この度は、うちの神官がも迷惑お掛けしてしまいごめんなさい!まさか戦闘中につわりとか、エッチの時はちゃんと避妊術式使わないと!」
「いやぁ、どうか彼女を責めないでやって欲しい。ずっと我々を支えてくれた大切な仲間だし、元々、婚姻を控えていたからね。懐妊自体は喜ばしいと思っているんだ。それに、結果的には犠牲無く済んだしね。それもレオ様のお陰だけどね。・・・それはそうと、君のような少女があまり生々しい事は言わない方がいいと思うのだけど?」
「アハハッ、よく言われます! でも、ついつい言っちゃうんですよね。そもそもわたし、聖女認定されるまでは、普通に『魔導士』だったから、高潔さとか無いんです。」
なんと!マリオンちゃんは『神官』じゃなくて『魔導士』なのか。そういうケースってあるのか?
「その子が言っているのは、誠の事じゃ。神官職以外から『聖人』が選定されたのは、歴史上初の事じゃ。・・・正直儂にも原因が分からんのだが、なってしまった以上、頑張ってもらうしかない。
とはいえ、いくら素養があっても子供じゃからの。実戦経験を積ませたいと思っていた所で、其方らが『地下神殿』攻略を望むという。丁度いいから、この子も同行させて欲しいというのが『条件』になるのぅ。」
「それが『条件』なら俺達としては受け入れるだけだが・・マリオンちゃんはそれでいいのか?」
「もちろん!だってこんな豪華メンバーに一緒に行ってもらえるなんて、またとない機会ですから!それに、わたしだって早々足手まといにはならないつもりです!」
「わかった。じゃあ、よろしくなマリオンちゃん。」
「はい!」
こうして、俺達のパーティに新聖女マリオンちゃんを加えて、聖王教会が秘匿管理している『地下神殿』攻略を進める事になったのだった。




