第3話 なんと彼女は聖女だった!
その後、俺は空から降って来た美女を自宅まで運んで来た。滝壺に落ちたせいでびしょ濡れだったので仕方なく、そう!仕方なく服を着替えさせてベッドに横たえてある。着替えさせる際、不可抗力的に彼女の裸身を見る事になってしまったが、それはもう眼福というか見事なまでに美しかった。おっぱいこそ小ぶりであるものの、艶やかな肌にはシミ一つ無く小ぶりな先端部も綺麗なピンク色と・・・まあ、不可抗力ながらじっくり観察してしまったのだが仕方無いよね?だってすんごい美人さんだし。それは兎も角未だ意識を取り戻さない彼女に俺は困ってしまっていた。
「どうすればいいんだろうか?呼吸は安定してるから大丈夫だと思うけど・・・」
俺は医療の事は分からないので彼女の状態に不安を覚えてしまう。折角助けたのにその後の処置でしくじって何かあれば悔やむに悔やみきれない。…ここはやはり回復薬で強引にでも回復したほうがいいよな?でも、意識を失った彼女にどうやってポーションを飲ませるか。誠に不本意ながらここは口移しで行くしかないな。うん、そうだ、それしかない!
「そ、そういう訳だから、怒んないでね・・・」
言葉とは裏腹にがっつき気味に小ぶりで艶やかな唇に口移しでポーションを飲ませてみた。効果てきめんだったようで、
「あっ…きゃあ!」
次の瞬間、彼女の右フックが俺の顔面を捉えた。ドゴンッ!って音と共に俺は数メートル吹き飛ばされた。ていうか、ドゴンッって何!?咄嗟に身体強化術発動しなかったら俺死んでるぞ!凄まじい威力だ。
「オ、オゴゴッ!?・・・・・・超痛い。」
「え? あれ?・・・どういう状況?・・・ここは何処なの?――――!!そこの貴方!どうしましたか!?」
「…‥‥どうしたもこうしたも、あんたを介抱してたらぶん殴られたのだが?」
「えぇ!?ご、ごめんなさい!!――――最高位回復術式改!」
技名発声だけで最高位術式だって!?何者だ、この人!?…俺が内心驚愕している間にも術式は効果を発揮して俺から一切のダメージを取り払った。それどころか魔力まで回復している!?どうなっている?そんな術式聞いた事もないんだけど?
「あの・・・大丈夫ですか? 治療は上手くいったと思うのですが・・・。」
「あ、ああ!大丈夫!…もう大丈夫だ」
俺はすぐに立ち上がり回復をアピールする。てか、いろいろ疑問が沸きまくっているので色々確認させて欲しいと思った。この女、どう考えても普通じゃない。そもそも何で空から降って来たんだ?
取りあえず、俺はベッド上で上体を起こした彼女に正対するように近くの椅子に腰かけた。
「そちらもどうやら大丈夫そうだな(いい右フックだった)。……で、いろいろと確認させて欲しいんだがいいかな? あぁ俺は、レオニス=アーカインだ。まあ、好きに呼んでくれ」
「私は…アリアレーゼ=オニキスです。先程は誠に済みません。吃驚してしまって。この度はお救い頂き有難う御座いました。あ、私の事はアリアとお呼びください。…それで、確認したい事とは?」
「ああ、その、アリアさん。何で空から降って来たのとか?そもそも何者なの?とか色々あるんだけど、話してもらえるかな?」
早速問いかけると、アリアは暫く視線を下げたまま沈黙した。どこから話すべきか考えているのか。それとも話せない内容なのか?考えが纏まったのか視線をこちらに真っ直ぐ向けた彼女が言い出したのが、
「…それでは、一通り説明させて頂きます。
私はそれまで第13代聖女として勇者率いる討伐者パーティで3年間活動してきたのですが、昨夜、不覚にも友人と信じていた女剣聖に薬を盛られて無力化され、勇者に暴行されました。その後、直ちに故郷の聖王国に戻り、大聖母様に聖女位の返上及び件の加害者の告発をお願いし、超長距離転位門術式を座標指定無しで発動、結果、ここの上空に転位された事で落下し、貴方に救われてここに至っている次第です。」
一息に説明を終えた彼女は何の動揺も見せず静かに俺を見詰めている。・・・ちょっと待って!?この子は聖女なのか?いや、それよりパーティの仲間に薬盛られた挙句にっ!?・・・その上、自殺紛いの転位術式でここの上空から降って来たってのか!?マジでどうなってんだ?
俺は与えられた情報が衝撃的で無残過ぎる事に絶句していた。・・・いや、それにしても・・・。
「一気に話してしまいましたがご理解頂けたでしょうか?意図せぬ事とはいえ、貴方には大変ご迷惑お掛けした事お詫び致します。」
「いや、それはいいんだ。いいんだけど・・・なあ、あんた、なんでそんなに冷静でいられるんだ?昨晩の出来事だろ!?・・・なんでそんなに―――――!!、術式破壊!!!!」
彼女の不自然なまでの平静さの原因に思い至った俺は、咄嗟に術式破壊を唱えていた。間違いない。彼女は精神制御術式で無理やり心を抑え込んでいる。この術式は本来戦闘時の過度な興奮や恐怖を抑えるものであって、心が壊れかねない状態に使ってはいけないものだ。そういった感情は辛くても吐き出さないと本当に壊れてしまうからだ。案の上、彼女の状態は激変した。
「――!!?、な、何を!?・・・ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアァ――――!!!!??」
予想通り、これまで抑え込んでいた感情が解放された衝撃でアリアが絶叫を発しながら暴れ始めた。俺は咄嗟に彼女を抱き締めて彼女が暴れない様に押さえ付ける。
「は、離して!!、いや、いやだぁ!!なんで、なんで私がーーー!!何故、何故!私を騙したの!?ミリアナ!!!、いや、やめて、アシュレー!!私に触らないで!!!そんな汚らわしいものを!!、いや、いやあぁぁーーーーーーーー!!!!!――!!、そうだ精神制御を掛けなければ!このままじゃ駄目になる!精神制―――」
「駄目だ!!! 術式破壊!!!!」
「―――!!? なんで!?なんで邪魔するのよ!!!やめて、くるしいのよ!ほっといてよ!!!!」
「苦しいのは分かってる!…でも絶対だめだ!!あんたを姉さんと同じ目にはさせない!!!!!」
狂乱し暴れる彼女を抑えながら俺は必死で言葉を投げかけていた。苦しむ彼女を気の毒に思いながらもどうしても精神制御をさせる訳にはいかない。この子は姉さんの様にはさせない!!その一心でとにかく彼女を無我夢中で押さえ付ける。暴れる彼女の爪が俺の背中に深く食い込み背中が血だらけになる。それでもかまわず俺は彼女を強く抱き締め拘束し続けた。どうしても許せなかった。彼女が姉さんみたいになってしまうのを見ているのがどうしても許せなかったんだ。
どれだけそうしていたのか。気が付いた時にはアリアは暴れることも喚くこともやめて静かに泣き続けるだけになっていた。俺は俺で過去を思い出してしまったのか涙が止まらずに唯彼女を抱き締め続けていた。
「あの・・・もう大丈夫です。もう暴れませんから離してもらえますか?」
控えめに問い掛けるアリアの声に、夢中で彼女を抱き締めていた俺は、おずおずと手を解いた。
「先程は済みませんでした。…昨夜はすぐに精神制御術式を使ってしまったので自分の状態も分かっていなくて。……貴方の言う通り、無理に心を押さえ付けるのは駄目ですね。ここまで取り乱すとは思っていませんでした。」
「いや。あれだけ酷い目に遭ったんだ。取り乱すのは当然だよ。兎に角正気に戻れたようで良かった。精神制御術式で無理をするのはホントに危険だからさ。だけど、本当にごめん。あんたが苦しむのは分かっていたけど、どうしても俺は・・・」
「貴方は何も悪くありません。寧ろ感謝しております。仰る通りあのまま精神制御術式に頼っていたら私の精神は崩壊していたと思います。……あっ、その背中の傷は!…すぐに治療します。回復術式」
アリアの詠唱無し技名発声のみのヒールで俺の背中の傷は完治した。聖女…いや元聖女様か。流石の回復効果である。俺は回復術式系は全く使えないので正直羨ましいな。
「ありがとう。すっかり良くなったよ。・・・それでだ、あんたも色々あって疲れただろ?良かったら裏庭に露天風呂があるんだが浸かってきたらどうかな?温泉引いてるから効能もバッチリだぜ?」
「温泉!凄いですね!・・・ご自分で掘り当てたのですか?」
「ああ。と、いうよりこんな山中に住んでる理由の大部分がここで温泉が湧いたからだしな。」
「そうなんですか。私も温泉は大好きなので、できれば浸からせて頂きたいと思いますが、・・・その、あの・・・何と言いますか、 」
急にモジモジしながら俺をチラチラと見始めたアリアを見て遅まきながら俺も気付いた。あぁ、そうだよな。男の俺がいる前で風呂に入るとか抵抗あるか。ましてあんな酷い目に遭ったばかりだし男への拒否感は強いよな。…‥やっぱり言うしかないか。正直言いたくないのだが、これを言えば多少は安心材料になるだろうし。でも言いたく無いなぁ・・・。
「あーそのな、俺はあんたにとってきっと無害だと思うぞ?……俺のは役立たず、所謂EDなんだよ、俺。」
恥を忍んで、俺は彼女に3年以上患っている自身の病を告白したのだった。




