第2話 空から美女が降って来た
俺は今、山間の森の中で『狩り』の真っ最中だ。全高5mを超える大猪を相手に大立ち回りを演じている。猪と言っているが普通の猪がこんなサイズの訳は無く、分類上は魔物になる。魔物と動物の最たる違いは体内に魔石を持つか否かである。又、魔物の肉は魔素に侵されており、そのまま食する事は出来ないが、専用の魔道具で『魔素払い』をしてやると、通常の動物より遥かに美味という特徴がある。その為、魔物狩りはその危険と引き換えにかなりの儲けが期待できるのだ。俺の様な魔物を専門に狩る者たちは『討伐者』と呼ばれていて、世界を又にかけた『討伐者ギルド』といった組織も存在する歴とした職業になる。
討伐者ギルドに属すると、特典として『BOX』なる一種の亜空間と接続した入れ物を支給され、狩った獲物をまとめて収納できる。BOXにはクラスがあり、S、A、B、C、D、E等級に分かれていて当然Sの容量が最大になり、Sまで来ると1km立方の容積で、Aで500m立方、Eだと10m立方と大分容積に差が出る。又、支給されるBOXは討伐者ランクと等しく、例えばAランクの俺のBOXはA等級であり大分使い勝手がいい、というか普通に使いきれない程だ。尚、BOX内の亜空間は時間も停止している為、中の物が腐る事はないが、命あるものは収納不可となっている。
そんな訳で俺は絶賛戦闘中な訳だが、魔獣は魔力を持っているので魔法を使ってくる事が多くその辺には注意が必要だ。ちなみに大猪の場合だと土魔法を使い、土槍や土壁、地割れ攻撃などを駆使しつつ、その巨体自体が武器という、割と厄介な魔獣で討伐ランクはBと認定されている。そうBランクなのだ。で、俺はAランクの討伐者。・・・いろいろ語ったが大猪ごとき俺の敵では無い!
大猪が、地面から土槍を連続で射出してくるのを、手に持つ太刀で両断しながら俺は突撃していく。魔法発動の予兆を見逃さなければこのくらいは余裕で出来る。
俺の接近を嫌った大猪が今度は土壁を生成して俺の進路を塞いで来た。馬鹿な奴だ。自分より素早い俺を視界から外すとは。所詮は獣ということだろう。俺は反り立つ土壁を足場に一気に大猪の頭上まで飛び上がる。飛び上がる際に、足裏に爆炎術式を発生させているのでその速度は凄まじいものになった。
一気に大猪の頭上10mの高さまで飛んだ俺は、今度は上下を反転させて爆炎術式を発動。そのままの勢いで大猪の首を一息に両断した。
もう5匹目なので今日の狩りは終了だ。狩り過ぎは良くない。特に人里離れたこの辺の場合、適度に残しておいて定期的に狩りをするのが一般的なのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇
狩りを終えた俺は、自宅近くにある滝壺で返り血のついた装備などを洗い、ついでに自分も滝壺で泳いだりして身体を冷ましてした。やはり戦闘後に川や滝壺で泳ぐのは気持ちいい。泳ぐついでに魚を数匹捕まえて焼いて昼飯にする、というのが俺の基本スタイルだ。
「やっぱここらの魚をうめぇな!」
もしゃもしゃと焼き魚を喰らいながら独り言を言う。俺はソロ専門なので仕事中はほぼ一人だ。まあ、家に帰ってもやっぱり一人なのだが・・・。そもそも俺の家は最寄りの街フリーラから30km以上離れた山間部にある掘っ建て小屋のような一軒家だ。当然近くには誰も住んでいない。街にいくのも食材や調味料、あとは獲物の換金などに月一二回くらいと、普段は人に接しない生活をしている。
もちろんそんな生活をしている訳があるのだが、別に俺は人嫌いでは無い。嫌いではなく怖いのだ、俺が周りの人達に危害を加えてしまわないかが。
この世界では15歳になると、最寄りの聖王教会で女神様から『職業スキル』を授かる『成人の儀』というものがある。俺も3年前に成人の儀を行い、スキルを授かったのだが、どう見ても真面な職業スキルでは無く且つ固有スキルだった。
その名の通り俺専用のスキルになるのだが、固有スキルは授かった本人にしか分からない隠蔽術式が掛けられており、俺が開示しない限り儀式を執り行う教会の神官さえも知り得ない。正直、知られていたら今頃俺は生きていないだろうと思う。で、スキルを開示しなければ当然スキル無し扱いされて『無能者』と言われて差別の対象になる。そうなると職探しから何から困難になり、実際俺も苦労した。
ここでは無い故郷の街でそんな目にあった俺は色々あってフリーラの街に流れ着き、そこで1年ほど剣術や魔導術の修行をすることで、刀剣術のスキルを得ることで職業:刀剣士になる事が出来た。実は自力でスキルを得られるのは稀な事で、適正が無いスキルは絶対に習得できないのに、肝心の適正の判別方法が無いのだ。
職業スキルとは解放する事でスキルに準じた職業になれる事からそう呼ばれており、俺の場合は、自力でスキルを取得して職業を得た訳だが、職業にも意味があり、職業に応じた補正値がプラスされるのだ。それゆえに無能者は他の者に劣る事になり差別対象になってしまう訳だ。
まあ、いろいろ語ったが俺の固有スキルは非常に危険を孕んだものである為、俺は基本的に人里に寄らない生活をしている訳だ。実際には他にもあるのだが、主な理由はそれである。
「でも・・・やっぱり一人だと寂しいよなぁ。いっそ空から美人のお姉さんとか降って来ないかな?ねぇ、女神様!俺に変なスキル寄越したんだから見返りで超絶美人さんとか落としてくれませんかー?」
などと戯言を言ったのがいけなかったのか?常時発動させている俺の索敵術式に突如反応があった。しかも上方に!?慌てて上を見上げた俺が目にしたのは物凄いスピードで落下してくる何かだった。
「!?あれは……人じゃねぇか!!!!」
あんな猛スピードで地面に叩き付けられれば人などトマトジュースになるしか無い!冗談ではない。兎に角落下前に受け止めてからなんとか勢いを殺すしかないと判断した俺は即座に爆裂術式を全開で足裏に発現させてこちらも猛スピードで自らを空に打ち出した。
方向を微調整しながらもスピードを落とさないまま、落下人?の直下まで到着した俺は、身体強化術式を全開で発動させて捕獲の準備を整えた。…それでも接触時の衝撃をうまく逃がさないとキャッチした瞬間にトマトジュースに成りかねないので細心の注意が必要だ。
「――――!! 南無三!!!!!!!!!!」
キャッチした瞬間、俺は衝撃を受け流すために空中で何度も回転をしながら高度を落としていく。しかし衝撃が強すぎて姿勢の制御もままならない。このまま地面に落ちるのは危険だと判断し、なんとか滝壺まで誘導しながら高速回転した状態のまま滝壺に突っ込んだ。当然俺が下になるように調整して。
滝壺の水深は10mを超える程だったのが幸いして水底への激突を回避できた俺はやっとの事で水面に顔を出す事が出来、そのまま岸まで移動して一息つくことが出来た。
「はあああああぁーーーマジで焦ったぁ!!!危うく二人揃ってペシャンコだぜ!!・・・おっと、大丈夫かな、この人?」
ようやく落ち着いた俺は、自分の腕に抱き締めた落下人の顔を拝んで見ることにした。
その顔を見て思わず茫然としてしまった。…その髪は白金ブロンド、白磁の様な肌色にすっきりと通った鼻梁に桜色の小ぶりな唇、その全てが絶妙に調和した美貌がそこにあった。正に絶世の美女としか言い様のない女性が俺の腕の中にいた。
「・・・ホントに空から美女が降って来たよ。」
この時、俺は初めて女神の存在を身近に感じたのだった。




