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第16話 ミリアナの回想Ⅱ~暴かれた真実~

 最前線から呼び戻されたあたし達は今、ブレイブヤード王国の王宮内謁見の間にて、国王陛下に今回の件について一通りの報告を行い、その場に跪いたまま沙汰を待っていた。


「貴様らも既に知っているだろうが、今朝方、聖王国の大聖母殿より直々に貴様ら両名への告発があった。証拠の品も添えられてな・・・。もはや、貴様らに相応の罰を与えるしか無い。・・・全く、何故あのような愚かな事を・・・・・まあ、今更か。 

 我が王国の勇者アシュレー=レイソードよ。改めて聞くぞ。何故、あのような事をしたのだ。貴様が剣聖ミリアナと恋仲にあるにも関わらず、複数の女性と関係を持っていた事は存じている。だが、それらはあくまで()()だったろう?相手に無理強いする事も無く、ミリアナも咎め立てする事も無かった。遊びだったが故にな。

 何故だ!?何故、あの『聖女』殿だけにあのような真似をした!?アリアレーゼ殿は余から見ても善性の体現者とも言える者であった!そのような者に対して、何故あのように傷付ける真似をしたのだ!?」


 陛下の詰問を受けたアシュレーは、それまで伏せていた顔を上げて答える。


「・・・彼女が完璧だったからです。彼女は私には眩し過ぎました。私のような穢れた者には・・・。でも、それでも、彼女が私の誘いに乗ってくれれば・・・いえ、違いますね。きっと私は彼女を自分と『同じ場所』に落としたかった。故に彼女に激しく欲情してしまった。・・・それが、理由だと・・・記憶しています。・・・正直、この身が変化したせいなのか、今話した内容も確かにこれまで抱いていた感情である筈なのに、実感が持てずにいます。・・・私は怖い!これまでの人生で感じて来た想いが全てがまるで他人事になっていくようで!・・・でも、これが彼女の『呪い』であるなら私は、・・・受け入れるしか・・・!」


 アシュレーの告白を聞いて、あたしは愕然となった。どういう事?アシュレーが穢れているって?それに自分のこれまでの想いに実感が持てないって・・・それって、()()()()()もなの?


「貴様が穢れて?・・そうか・・・。あれは誠の事であったか。・・で、あれば余は貴様に詫びねばならぬな。貴様が此度の過ちを犯す前に、どうにかすべきであった。だが、あの者が余の為に尽くしてくれたのも事実なれば、これまで判断できなんだ。合い分かった。貴様の父の件は余が処断しよう。無論家を潰す様な事にはせぬ。」


 陛下の言葉を聞いたアシュレーの表情が一変する。どこか茫としていた貌から怯えを含んだ青い顔で、


「陛下はもしやご存じなのですか!?父と私の―――――!」



「噂程度だったんですけどね。今日までは。流石に確たる証拠無しにはなかなか動けませんよ?」


 突然、聞いた事の無い声が響き渡った。誰!?・・・気配が急に沸いた?これまで隠蔽していた?一体どういう事なのだろう。


「失礼。驚かせてしまい申し訳ありません。私はミドランド聖王国に昨夜を持って『聖者』に認定されました、第14代聖者カイル=マクシミリアン、と言います。以後、お見知りおきを。」


 言葉と共に優雅にお辞儀をしてきた男は、藍色の髪を長く伸ばし、緩く三つ編みに纏めており、その瞳は珍しい金眼、すっきりとした鼻筋は高く、相当な美青年だった。・・・この男が聖王国の『聖者』?


「これは、カイル殿。・・・如何なされた?彼らを貴殿に引き渡すのはこの後であった筈だが?」


 陛下の声に若干硬さが籠る。・・・引き渡す?あたし達を?・・・一体どういう事?


「いえねぇ。ほら、剣聖殿が話に付いていけてないなぁと思いまして。僭越ながら私から簡単に説明させて頂こうかと。」


「!!――――お、お待ちください!それはーーー!!!!」


「残念ながら待てませんね、アシュレー殿。貴方方への()()は既に始まっていますから。私はですね。聖王国から派遣された()()()()()の立場なのですよ。もちろん、その後には、アリアレーゼ様の後任として勇者パーティに合流予定ですが。


 ここまで言えば分かりますかね?・・・私が此処にいる時点で、お二人を私が断罪する事を、国王陛下がお認めになった、という事です。それが、わが国から今後も回復術士を()()に派遣する条件でもあります。」



 あたし達は黙るしかなかった。あたし達の犯した罪はあらゆる意味で重い。特に回復術士の派遣を打ち切られてしまえば魔族との戦争など継続不可能になってしまう。それに・・・あたし自身は、アリアを裏切ってしまった事への後悔から、早く裁いて欲しいと願ってさえいた。・・・・・この時は、まだ。


「では、お分かり頂けた所で、早速、アシュレー殿が長年に渡り、恋人のミリアナ殿に隠して内容をお教えしましょう。・・・何、時間はかかりません。一言で済む内容ですから。


 貴方の彼氏さんはね、貴方に会うずっと前から、実の父親に凌辱され続けていたんですよ。 」


「―――え?」


 聖者の言葉を受けて、私の隣でアシュレーが肩を震わせて俯いている。あたしは言われた内容の意味が一瞬分からず、思わず聞き直してしまった。


「さらに言えば、お二人のなれそめについてですが、貴方は元は孤児院育ちだったのを、その才を認められ、貴族の養子に迎えられましたよね。そこで、騎士学校に通う事になり、当時1つ上の先輩としてアシュレー殿と出会う。・・・だが、貴方は()()()()()()()()()されていた。で、その事に耐えきれず、当時良くしてくれていたアシュレー殿に打ち明け、結果、アシュレー殿が養父を断罪した。本来であればこの時点でお家断絶ですが、何故かそうはならず、貴方は無事騎士学校を卒業して今に至っている訳です。


 では、何故断絶を回避できたのか?・・・アシュレー殿が父親に嘆願したのですよ。今後は、父親の求めに素直に応じる、と取引してね。彼は文字通り身を捨てて貴方を守った訳です。()()()ですねぇ。


 ですが、いくら覚悟したとしても実父からの凌辱など、ストレスにしかなりません。そのストレスのはけ口も最初は貴方だけで済んでいたものが、段々とエスカレートして行き、最終的に暴走した。と、いうのが此度の真相と私は考えています。」


 次々に語られるあたしの知らないアシュレーの真実。あたしは全然知らなかった。アシュレーが日々どんな気持ちでいたのか。・・・アシュレーは心をすり減らしてあたしを守ってくれてたのにあたしは彼を助ける所か醜い嫉妬心と独占欲で、アシュレーの暴走の後押しをしてしまった。本当は、あたしが止めてやらなければいけなかったのに、失うのが怖かったから!最低だ!あたしは最低だ!!死んでしまいたい!!!!



「あ、ああああああああああああああああああああぁ~~~!!」



 あたしは自分の愚かさに堪えられなくなり、大声で泣き叫んでいた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。・・・・


「違う!僕が、僕が勝手にやったんだ、全部!!だから、ミリアナが気に病む事じゃない!!!今度の件だって、全部僕が悪いんだ。僕の醜く歪んだ心が――――!!」


 と、その時、パンッと手を叩く音が突然響き渡った。


「ハイハイ~。さて、これからが()()()()()になりますからね。 

 今から絶望するのは、まだ早いですよ~。・・・・・・・覚悟するんですね、我が敬愛するアリアレーゼ様を穢した罰を。」




 聖者カイルは、楽し気な口調で語りながら、最後の台詞だけは凍り付く様な声音で呟いた。


 




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