第15話 ミリアナの回想Ⅰ~罪人二人~
【SIDE:ミリアナ】
「あぁ、ああぁ・・・ごめん・・ごめんなさい、ごめんなさい、アリア・・・」
あたしは親友だったアリアに酷い裏切りをした。・・・あたしは彼女に薬を盛って、無力化して、勇者アシュレーに捧げてしまった。自分が仕出かした事への後悔が止まらない。何故あたしは大事な親友を裏切ったんだろう。・・・そうだ。アシュレーをあたしの一番大事な人を取られたくなかったんだ。・・・でも、そのアシュレーは今、アリアを抱いていて・・・。違う!こんな事があればアリアは立ち去る筈!だから・・・だから、あたしは!・・・でも、あたしの眼からは涙が流れ続けていて、身勝手にも胸が苦しくなって、あたしは部屋の片隅で膝を抱えて蹲っていた。
どのくらい時間が経ったのだろう?などとぼんやり考えていたら、突然、ドアが激しく押し開かれた。
「ミリアナ! アリアレーゼがどこ行ったか知らない!?」
酷く焦った様子であたしに尋ねてきたのは、同じ勇者パーティに所属している『弓聖』マリオン=アールブヘイムだ。彼女は森人族の王族の一人で、森人の特徴たる長い耳を持ち、豊かなウェーブのかかった薄緑色の長髪に真っ白な肌に、高くすっきりと通った鼻梁と切れ長の綺麗な碧眼を持つ凄い美人だ。胸も凄く大きい。更に言えば森人らしく非常に好色だ(元々森人は出生率が低く、その為か性交に積極的だ)。
そんな彼女が珍しく凄く慌てた様子でいる。・・・なにかあったのかな?・・・あぁ、そうか。。
「アリアレーゼが消えたんだ! ついさっき彼女が超長距離転移門を使ったのを、リリアが検知したんだが、行先が分からない! あの子がこんな夜中に何も言わずに居なくなるのは変だから、探してるんだけど、あんた何か知らないか!?・・・ん?何でそんなに泣いてるんだ?」
あたしの様子がおかしい事に気付いてマリオンが問い掛けて来た。ちなみにリリアというのは、『賢者』リリア=オーステナイトの事だ。彼女は、魔導国家『ソーサリア』の貴族令嬢であり、ストレートの黒髪を長く伸ばし、紫がかった神秘的な黒眼を持つ、これまた美人さんだ。でも胸はアリアと同じくらいで控えめだ(いうとキレられるので内緒だけど・・・)。ちなみにアリアは胸の事を言われてもさほど気にしない。寧ろデカいと武術の邪魔になるとか割と本気で言っていた。聖女なのに脳筋思考とか。・・・あぁ、あたし何アリアの事を親し気に思い出してるんだろ?あたしは酷い裏切者なのに。・・・そう思ったら、酷く苦しくなって、涙が溢れてきた。
「ど、どうした!?・・・・・・・あんた、何か知ってるんじゃないか? アリアレーゼに何かしたのか?」
「!!」
マリオンの指摘に思わず肩が震えてしまった。・・・もう堪えられないや。全部話そう。
あたしは自らの罪悪感から楽になりたくて、全部話してしまった。・・・最悪だ、あたし。
あたしの話を聞き終えたマリオンは、思い切りあたしを殴りつけた。・・・何度も何度も。
「なんて事したんだ、あんた達は!!! 自分が何やったか理解してるのか!!? アリアレーゼは、聖王国の『聖女』なんだぞ!? そんな馬鹿な真似した事が聖王国に知られたら、どうなると思ってるんだ!!!」
殴り疲れたのか、マリオンが荒い息を吐きながら、あたしの襟を持ち、あたしを引き上げて更に言う。
「・・・覚悟するんだな。お前も、アシュレーも。多分、アリアレーゼは聖王国に戻って事態を報告する為に転位したんだろう。・・・くそ!今がどういう状況か分かってないのか!?この激戦区で『聖女』無しでどうやって戦えってんだ!?・・・これだから色恋に狂った奴は―――――! 」
「ちょっと、マリオン、ミリアナ!!!! 大変よーーーーーー!!!!!! 早くアシュレーの部屋に来て!!!!!!!!」
その時、突然にリリアの声が響き渡った。・・・アシュレーに何かあった!? あたしは咄嗟にマリオンの手を打ち払ってリリアの下に駆け出した。
「あ、ちょっと待て! たくっ今度はなんなんだ!?」
続いて、マリオンも慌てて駆け出した。
アシュレーの部屋に辿り付いたあたし達を待っていたのは・・・正しく驚愕の光景だった。
「え?・・・どういう事?・・・アシュレー・・・なの?」
「おいおい、どうなってんだよ?・・リリア?」
マリオンに話を向けられたリリアがかろうじで返答する。
「私にも何がなんだか・・・私が部屋に来た時にはこうだったのよ・・・。ん?ちょっと、ミリアナちゃん? その傷はどうしたのよ?」
「・・・・・」
「あ、あ~~、それは私がやった。・・・訳は後で話すけど、目の前の状況と関係ある筈・・・。」
リリアがあたしの頬の傷に気付いて問い掛けて来たが、正直あたしはそれどころじゃなかった。どうなってるの?・・・一体何が起こったの?
部屋のベッドの上に座しているのは、確かにアシュレーだ。だけど、そこには、茫然とした表情で、・・・女性の身体になったアシュレーが裸のまま佇んでいた。
元々、勇者アシュレーの容姿は、空色の長髪にサファイヤの様な蒼色の眼をした、そこらの女性よりも遥かに美しい顔立ちをした美少年然としたものだったのだが、目の前の人物は、もはやどう見ても女性だった。
「おい、アシュレー?・・・あんた、何があったんだ?・・・その姿は一体どうした?」
マリオンの問いかけに、未だ茫然とした様子でアシュレーが答える。
「僕にも・・・何がなんだか分からない。・・・急に体中が痛く、熱くなって服も着てられなくなって・・・症状が収まったらこうなってた・・・。」
「・・・追加で質問だ。お前、アリアレーゼをレイプしたな? で、身体の変調もその後で起こったんだろ?」
「!!」
「えぇ!? どういう事!?」
マリオンの質問に体を跳ねさせるアシュレー。対して、事情を知らなかったリリアは驚愕の表情だ。・・・やはり、これは彼女の『呪い』によるものなの!?・・・そんな事が可能なの!?
マリオンがリリアにあたしから聞いた話を説明してやった。途端、リリアが憤怒の表情で、
「何て真似してくれたのよ!!!! あんないい子に何でそんな酷い事をーーーー!!!!!!!」
激昂したリリアがあたし達に魔導術で攻撃を仕掛けてこようとして来た。すかさずマリオンが止めに入る。
「やめろ、リリア!!・・・気持ちはわかるが落ち着け! 分かってるだろ。こいつらがどれだけ酷い事をしたとしても、人族にとっちゃ欠かせない最大戦力なんだよ。魔族との戦争には欠かせないんだよ。殺すのだけは無しだ。・・・・・・アリアレーゼも分かってるから耐えたんだろうさ。」
「~~~っ!」
マリオンに諭されて、歯を食い縛りながらも堪えるリリア。その間、あたしは訳が分からないアシュレーの変化の事を考えて混乱し続けていた。
「フゥーーーッ。・・・そうなると、これは間違いなくアリアちゃんが仕掛けた『呪い』でしょうね。でも・・・いくら彼女の施した呪術式だとしても、こんな効果まで引き出せるなんて・・・。」
リリアが自らの見解を述べる。・・・やはりこの事象自体はアリアの『呪い』なんだろうか?
「その辺はもういいんじゃないか?・・・それより早くブレイブヤード国王に報告しないとな。二人共、死ぬことだけは無いだろうが、覚悟しておけよ。・・・私達は一切弁護しないからな。」
次いで放たれたマリオンの突き放すような言葉に、アシュレーは何かを思い悩む様に俯いたまま、何も答えず、あたしもアシュレーの状態に混乱の極みにあったから、同じく無言のままでいた・・・。
そして翌日、アシュレーとあたしは魔族との戦場の最前線基地からブレイブヤード王国からの召喚命令により一時的に王国に戻ることになった。




