第12話 アカシックレコード
「本当なのか?・・・本当に姉さんがここに?」
俺は声が震えるのを抑える事も出来ないまま、ヴォルカンに問うた。
『あぁ、確かにのう。・・・あれは、なんとも美しくも哀し気な様子で。・・・黒き翼に褐色の肌、瞳も髪も紅色をした目の冴える様な美しき娘じゃった。
その娘は、わしに言った。ある者への言伝をお願いしたいとな。わしはなんとも興味をそそられての、聞き届けてやる事にした。ちなみにある者とは・・・今から3年後に此処に訪れる魔人だといっとった。
言伝の内容は、こんな感じじゃ。
ひとつ、此処に至った時、隣にいる女を必ず守り抜け。それこそが貴方の道を開く事になる。
ひとつ、守り抜く為にも仲間を増やせ。前に進み続ける事で必ず現れる。
ひとつ、神の企みを暴け。その上で、自らの望みを決めよ。いずれ神の前に立つ時が来る。
ざっくりとこんな内容じゃったのう。・・・伝えてほしいと頼まれたのは此処までじゃが・・・わしは、こちらの言葉も伝えようと思う。
あの娘は深く悔やんでいた。お主を深く傷つけてしまったと。誰よりも大事で本当に守りたかったのに、その自分が傷つけてしまったと。自らの欲に負けてしまったと。本当にごめんなさい。こんな酷いお姉ちゃんでごめんね、と。それでも・・・愛している、止められないのだと、それでも幸せを願っているんだと泣きながら言っておったよ。何度も、何度もな。
・・・全く哀れな娘じゃ。その想いを抱く限り、苦しみから抜けられぬと分かっておろうに、なんとも因果な事じゃな。』
あぁ、姉さん。どうして、どうして俺をそこまで愛せる!?だって俺は、軽率な事をして姉さんを苦しめたのに!それなのに!・・・改めて姉さんの想いに触れた俺は、情けなくも溢れる涙を止められずにいた。
「レオさん・・・。ね!私が言った通りでしょ?お姉さんは貴方を恨んだり、見限ったりしてないって!」
「あぁ、あぁ。そうだな。・・・そうなんだな。 俺は、姉さんに伝えたい。もう謝らないでって。俺は今、幸せを手にできたよって。・・・今でも姉として愛しているって。」
「はい!きっと伝えましょう!私もご一緒しますね。ちゃんとご挨拶しないとですし、私がレオさんを幸せにしますって宣言するんです!・・・大丈夫ですよ。お姉さんの願いはレオさんの幸せ。だからその象徴である私になにかする筈ありませんから!」
「ハハッ。君はホント強いよな。」
アリアのおかげで幾分落ち着けた俺は、改めて姉さんの言伝について考えてみる。
初めの一つは、アリアと共にあれ、という事だと思う。だったら既定路線だ。今の想いと相違ない。
二つ目は、仲間を増やせ。・・・ここでいう仲間ってのが何を示すのか?俺的には俺と同じ魔人の仲間なんじゃないかと思うのだが、それだと全く当てが無くて困るが、言伝通りなら自然に集まりそうな気もするな。
で、いよいよ訳が分からんのが、三つ目だ。いきなり神の企みとか、俺が神と対面するとか、全然訳が分からない。・・・これは、教会とか知ってそうな人にでも話を聞いてみるしか無いのだろうか?少なくともこの地に留まっていては駄目なんだろうな。
てか、なんで姉さんはこんな予言めいた事を言えたのだろう?俺が此処に来る事も、アリアと一緒だという事も当ててきたよな?どういうことなんだ?
「なあ、ヴォルカンさんよ。なんで姉さんはこんな予言者みたいな事が出来たんだ?唯の偶然、とは思えないんだけど?」
『おお、それな。それはじゃな。・・・わしの龍眼同様、魔眼のひとつである『未来眼』によるものじゃ。龍眼は使いようによっては過去、未来を覗く事ができるんじゃが、未来眼は未来に特化して覗ける魔眼でな。どちらも『世界記録図書館』に深くリンクしているからこそ可能なんじゃよ』
「?あかしっく・・・なに?」
「世界記録図書館!!!・・実在するのですか!!?」
ちんぷんかんぷんの俺に代わってアリアがガブッっと喰い付いた。なんだ?凄い事なのか?
「はい!アカシックレコードとは、この世界の過去、現在、未来、全ての出来事、事象が記録されていると言われる所謂、伝説や神話で実在が語られて来たものなのですが、実証のしようにも雲を掴む様な話ですので、これまで存在を疑問視されて来ていたのです。
唯、否定もできない理由があるんです。・・・それは、私たちのステータス、です。おかしいとは思いませんでしたか?何故、私たちは鑑定術式を使う事で、様々な情報をステータスとして閲覧できるのか?書物に纏めた情報であれば見れるのも当然ですが、実際そのような事をしなくても鑑定術式でステータスが閲覧できてしまう。・・・この事実がアカシックレコードの存在を現しているとされてきたのです。
それが!ここで実在を確信できるお話を聞けたのです!!これは凄いことですよ、レオさん!!」
一気に捲し立てるアリアの勢いに押されてタジタジとなってしまった俺は、ヴォルカンに話題を振る事で話を進めることにした。
「で、その未来眼とやらを姉さんは持っていて、そこから色々と言伝の内容を決めたって事か?」
『左様。我らの龍眼による未来視は全く制御できない代物でな。ある時、突然見えるとかなんじゃ。過去は確定している為か、割と簡単に覗けるのじゃが。・・・対して未来眼が凄いのはある程度制御した上で未来を覗ける点なんじゃ。もちろん、未来とは未確定のものであり、ひとつしか無いという事はないんじゃが、発生確率というか、実現しやすいものとしにくい未来があっての。未来眼はその確率も含めた形である程度絞ってみる事ができる、ある意味反則級の魔眼なんじゃ。
わしも実際持っているのを見たのはあの娘だけじゃったしの。じゃが・・・強力故に危険視される事が多い能力じゃからよからぬ輩に狙われる危険も高いんじゃ。・・・で、かの娘もその事は承知での。暫く力を養う為の地を教えて欲しいと言われてのぅ。・・・教えてやったぞ、『時元峡』の場所をな。』
ハイまた来ました。意味不明な単語が! 俺はもう解説担当?のアリアに丸投げしようと決めた。
対して、アリアは・・・
「時元峡!!・・・書物でしか知りませんでしたが、やはり実在するのですね?あの時の狂った峡谷が」
流石!マジでこれも知っているとは・・・。俺の彼女マジで凄い。彼女どころか結婚寸前なんですけど。夢じゃないよね?
『うむ。と、いっても人族の生活領域には存在せん。あれは我ら真龍族の領域にあるでの。
あの峡谷の中と外では時間の流れが大きく違う。その為、我ら真龍族も時折修行の為に入る事があるのじゃ。・・・あの峡谷はの。入ってしまえば誰とも出会う事は皆無。入った者専用の時間軸空間に閉じ込められるのじゃ。あとは峡谷の何処から侵入するかで外との時間の差が大きく変わってくるのでな、過去の使用者が立札を立てて、どこそこでは時間落差10倍、とか分かるようになっておる。・・・ちなみに彼の娘は、20年コースに入ったの。これは外での1年が峡谷内の20年になるコースでの、外時間で1年経つまでは絶対に脱出できず、誰にも会わない、という訳じゃ。』
俺とアリアは揃って「おお~。」などと歓声を上げてしまった。なんだか凄い場所があるもんだ。しかし、20年間たった一人で修行か・・・。姉さんは大丈夫なんだろうか?
『ちなみにあの娘は既に峡谷での修行を終えて、どこぞに行ってしまったのう。一度挨拶には来てくれたんじゃが、行き先は教えてくれんかった。』
「そっか。・・・でも、いろいろ姉さんの助けになってくれてありがとうな。」
姉さんの為にいろいろ手を貸してくれたヴォルカンに礼をいう。行先は分からなくても、きっと何時か会える気がしてたので、俺の気分は極めて前向きだ。修行して強くなったのなら命の危険も少ないだろう。
『気にするな。好きでやった事じゃし、大した事もしとらんて』
カカッと笑いながらヴォルカンはなんでも無い事だと手を振って答えた。でも俺からしたら何処で何をしてるのかも分からなかった姉さんの消息が多少でも知れたので嬉しい気持ちで一杯だ。全く違う目的で来たのに、過去の実在した魔人、姉さん、そして伝説の真龍族に出会う事になるとは、人生は何があるか分からないな。
「ところでヴォルカン様、ひとつお願いがあるのですが、レオさんのお姉さんのお姿を私も見させて頂きたいのです。可能であれば念像投影で見せて頂けませんか?」
と、アリアがリクエストをしていた。そうか、アリアは確かに姉さんの姿は知らないよな。
『おお、可能じゃぞ!・・・どれ、早速映して進ぜよう。』
と、言ってヴォルカンが右手を前方に翳すとなにやら立体像が現れた。確かに姉さんの姿だ。紅蓮の長髪を靡かせて潤んだ金眼でこちらを見つめている。そしてその褐色の肌を惜しげも無く晒し、・・って俺とヤッテる時のやつじゃねーか!!!な、なんてものを映してんだ!!?
「はぅ!!?な、ななななななんですか!?何を映してるのですか!!!!!!!???」
『ん?ご要望通り、坊主の姉じゃな。どうじゃなかなか美しいじゃろ?』
「じゃろ?じぇねぇーーーーーー!!!! さっさと消さんか、このババァ!!!!」
思わず俺が怒鳴りつけると、ヴォルカンは『なんじゃ、折角映してやったのに』とぶつくさ言いながら映像を消した。いきなりの衝撃映像にアリアは、若干青褪めた表情のまま下を向いて、
「何てこと。まさかあそこ迄の美貌に肢体、しかも圧倒的なエロさ・・・不味い。私に勝てる要素が・・・せめてこのお胸がもう少し大きければ!・・・大丈夫よ、大丈夫。・・・私だって伸び代はある筈!・・・そうよ。技を磨けばいいのだわ!・・・そうとなったら特訓ですね・・・早速今夜から・・」
などと小声でブツブツとつぶやき続けていた。うぉーーーー!!なんかヤバい感じになっちゃってるよ!?心配いらないんだよ!?俺にはアリアが一番なんだから!!だから妙な事考えないで!!
「それはそうと、レオさん!・・・なに前屈みになっているのですか!?」
と、今の俺の状態を的確に表す鋭い指摘が飛んできた。いや、まあ、あんな映像見せられたら、ねぇ。そもそも当事者だし・・・。
「い、いけません!あれは禁断の映像ですよ!すぐに忘れてください!若しくは先程の私との交わりを思い出してください!!」
「ば、馬鹿!そんなの思い出したら更に大変な事になるわ!!」
アリアが動転したのかとんでもない提案をしてきたが却下だ!!・・・冷静になれ、兎に角冷静になるんだ。じゃないとこの混沌な状況を打破できない!・・・暫くして、ようやく体の一部が落ち着いてきたので改めてロリババァすなわちヴォルカンにリクエストをする。
「どうせなら、姉さん以外の魔人達も見せてくれねぇか?もちろん、姉さんは服着てる奴で頼む。」
『なんじゃい、全く。折角最高のドキドキ映像を見せてやったというに。・・・まあ、ええじゃろ』
やっぱ、このババァ狙ってやりやがったな!!悪ふざけが過ぎんだよ!と心の中で悪態を付いている間にも3人の人物の立体映像が現れた。
「・・・これが先程お話に出て来た魔人達ですか・・・。皆、美男美女ですが、さほど容姿に似た所は見られないので、血縁等の繋がりは薄そうですね。あと、翼持ちはお姉さんだけですか。他の方は見た目は普人族と差異が無さそうです。・・・100年前は兎も角50年前に現れた蒼髪の女性ならもしかしたらご存命かもしれませんね。・・・ヴォルカン様、この女性が当時どこに向かうとか言ってたりしませんでしたか?」
『・・・残念ながら、特に聞いてないのう。・・・それより、一緒に食事しないか?他の人の食事は久しぶりじゃ!のう、どうじゃ!こう見えて食材は豊富に持っとるんじゃよ!』
「本当ですか!? でしたら、料理は私がやります。こうみえて料理は得意ですから。」
なんか、気付いたら一緒に飯を食う流れになっていた。まあ、腹減ったしご馳走になるか。




