六話、ゾンビは怖い。でも何度も噛まれて■されると恐怖は消える。てか飽きる。
短パンニーソ短パンニーソ あああ~↑↑↑ 短バン゛ニ゛ー゛ソ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!
◆◇◆ 王国ぅ。
その日、ドスコイマッスル王国では騒ぎがあった。メリーが下水道浄水器(※聖剣の名前)を呼び出した翌日のことである。
「聖剣が……消えた……?」
「お、おい! 誰か、詳しそうな奴呼んで来い!!」
王都の下水道、その最奥に聖剣の間はあった。だが今、その場所に聖剣は無い。
気付いたのは王国兵士、朝の巡回で聖剣の間を渡った際、その異変に気付いたのだ。
「なにィッ!? 聖剣が消えた!?」
「(唾きたねえ)」
報告を聞いた王は唾と同時に発狂した。だがそれも当然の反応だろう。
誰が置いたかは不明の聖剣は今まで、王都に流れる水を絶え間なく浄水に変えてきた。その影響で水の都、聖なる力を持つ国と周辺の国から評判なのだ。
――――つまりドスコイマッスル王国は、無くてはならないと思えるほど聖剣に依存しているのだ。
「川の水を目当てに来るカモもいるというのに……! このことが下民に伝わりでもしたら……! どこのどいつだ!? 我が王家に伝わる(予定の)国宝をよくも奪ったな……!」
「(所有者不明の聖剣みて『これ儂の国宝な!』とか言い出して奪ったの誰だったかな……)」
王様は怒り狂う。王家に代々伝わる(予定の)国宝を奪われたことに激怒していた!! 正に王家の鑑!! 盗んだ聖剣すら国宝として崇めるなんて素敵!! 素敵すぎる!! その素敵さは公衆便所の臭いを連想させる!!
「お待ちください父上!! 聖剣ならばオレが持っています!!」
「何!? それは真か!?」
謁見の間をバーンと開けて王子ミリッジとよいしょ組の皆さんが同時に入ってきた。
「へっ、まあ、そういうこった」
「999.9%……つまり、ほぼ確実ということです」
「ふ、流石は姫……あ、間違えた。流石は殿下です」
「お、お前たち……! 来てくれたんだな!!」
ミリッジは感動し肩を震わせる。仲間は同時に入ってきた気がしたが気のせいだった。
「父上、オレは見たのです!! 今朝、夢の中で美しい少女が『私は女神、貴方に聖剣と私の心と身体を捧げましょう』と言っていたのです!!」
「(おう、この王子何言ってんだ)」
※夢とは睡眠中に見る幻覚のことを指す単語のことを言います。
「ふむ……! 女神からのお告げ、か。ならば、安心だな」
「(おう、この薄毛何言ってんだ)」
近衛騎士は絶句する。
「父上! 実はその女神との約束をオレは果たさなければなりません!! 女神は確かに言いました、心と身体を捧げると!!」
「いいですか殿下、夢とは現実ではないのですよ」
「馬鹿にすんな!! そんぐらい分かるわ!! つーかなんだお前!! 近衛騎士がオレの崇高な誓いに口挟むな!!」
ミリッジは(夢の中)の女神を思い出す。とても可憐な無表情の少女で、思い出すだけでニヤケ始める。
「愛する女神の名はメリー! メリー・バットエンド!
彼女はドラゴンに連れ去られてしまったのです!!」
「(は? メリー・バットエンド? コイツら自分で足を斬り落とした奴のこと忘れてんのかよ、マジかコイツ)」
近衛騎士は絶句する。呆れを越えて乾いた笑いすら漏れる。
「彼女を魔王の手から救い出すため、骸骨兵を出して向かわせてください!!」
「(骸骨兵が行くのか)」
近衛騎士は瞠目した。乾いた笑いも出ないほど呆れる。
「ああ、かわいかったなぁ……めりぃたん。待っててね、オレが迎えに行って、うぇへへ」
近衛騎士は甲冑を外し、爽やかな笑みを見せた。
――――近衛騎士、仕事辞めるってよ。
◆◇◆
その夜、魔王城/居間にて。
『ゾンビが、消えていく。これで……終わったのね』
『ああ――――これから二人で愛を育んでいこう』
『……いいえ違うわ……三人、よ』
『……!』
魔力で構築される液晶画面に『END』という文字が浮かぶ。壮大な音楽と共にスタッフロールが流れてる。
『映像:田 中
演出:田 中
台本:田 中
作画:田 中
音響:田 中――――』
「うあ゛あ゛あ゛ぁ゛ーーーー! よがっだ! えがっだよ゛ぉーー!! げへっ、げへへ……ぅあ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!」
「……いい、映画だったな」
「はい……! お幸、せに……うぅ……ゾンビ」
鈴木は号泣しアルスターは頷き、メリーはハンカチで涙を拭う。
彼らが見ている映画は先ほどアルスターが購入したものだった。
当然、購入にはメリーの初仕事で入ったまおまおポイントが使用されている。(現在もなお、溜まり続けてます)
「あ、そいえばメリーちゃん、一ついい?」
「はい、どうぞ」
メリーはハンカチを仕舞う。背凭れに寄りかかる。
「――――なんで上司の膝の上おるん?」
メリーは背を振り向く。背凭れが微動だにせずに、瞠目している。
メリーは鈴木へ顔を向けた。
「ミカン、美味しいですね」
「うん、美味しい! ――――で、なんで上司の膝の上におるん?」
鈴木、ニヤニヤする。アホ毛がタップダンスを踊る。
メリーは背を振り向く。
「…………」
「…………」
背凭れと目が合う。メリーは鈴木へ顔を向けた。
「…………」
「…………なんと、なく?」
鈴木、瞠目。
「…………あ、後ろにゾンビ」
「ひっ!?」「っ!」
メリーと背凭れ、布団を被る。
アルスターが被ろうとした布団を、即座に掴む連携は一心同体を思わせた。一心同体を思わせる、一心同体の理由がビビりである点を除けば最高のコンビネーションだった。
「…………メリーちゃん、今日一人で、寝れる?」
「よ、余裕、です……勇者を、舐めないで、ください……!」
「お、魔王の膝の上に座ってる奴がなんか言ってる」
声が小さかった。
「布団から頭すらだせてないじゃん勇者」
「…………よゆー、です。余裕すぎて余裕大百科登録決定ですよ」
「アホ毛しか出せない時点で高が知れてんだよなぁ……」
メリーは布団の隙間からアホ毛だけ登場させる。馬鹿可愛い。
「はあ、怖くて上司を頼るとか……可愛いなぁ、可愛すぎるよなぁ!」
「…………」
「? 上司?」
そこで鈴木は気付く。先ほどから発現が出来ていない存在がいることに。意識を向ける、そして揶揄うように笑う。
「えっ? まさか上司も怖いん? いや~可愛いなぁ上司!」
「…………」
「うんうん仕方ないよ! でも安心して! この四天王、シャバウォック鈴木は大丈夫だったか――」
「…………」
鈴木、口が開いたまま硬直。
「……………………」
「……………………」
……………………。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
……………………………………………………。
「………………………………………………………………まじかよ」
「かいしんのいちげき止めてくれ」
「(仲間……! これは、私に気があるのでは……?)」
鈴木の真顔が魔王の心臓を突き破る。純粋な呟き、純粋な刃、ゆえに心は致命傷。あとメリーが恐怖で思考が馬鹿になった。
「え……あの、魔王さま、ですよね? ゾンビは勿論、魔物全般を統べる系の……」
「はい、魔王です」
「えっ、あっ…………その、ミカン……食います?」
「皮だけ渡すな」
アルスター、皮を捨てる。
「では、これで映画鑑賞会は終了とする――――何も無かったな」
「はい! 何もありませんでした!! 流石は魔王様!! さすまお!!」
「なにも、ありません、でした……! 勇者に負け、無しです……!」
鈴木は直立で挙手して、メリーは頷いた。
「じゃあ、おやすみ~!」
「おやすみ」
「おやすみ、なさい」
映画観賞会が終わり、コタツの電源を切り各部屋へと帰っていった……。
――――その夜。
「(……とい、れ)」
メリーは。メリーは。
「(……暗い)」
メリーは、メリーは……
「(右脚、もう、無いの、でしたね……車いす、遠い……確実に布団から、出てしまう……)」
メリーは――――
◆◇◆
「ごめんなさい……」
赤面120%。恥じらいに頬を染め、目線は下へ、肩が振るえて恐怖もしていた。
――――結論、おねしょ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……っ」
「…………」
アルスターはメリーを見る。
その状況は言ってしまえば子供が大人に怒られるのを怖がっている、というだけの図である。だが、一つだけおかしな点があった。
「……っ、……ごべ、なざ…ぃ…」
「(怯え方が……異常だ)」
メリーは腕を交差して頭を守っている。加えて床に着く足は痙攣が止まっておらず、足の裏は汗をかいていた――――精神の不安定が身体に出ている。
恐怖のあまり失禁もして、本人はそれすら気付けていない。
「……ごめ゛んな゛ざい……っ、ごべ……な、さい゛」
「…………超速演算」
アルスターは己の所有する奥義を使用する。
――――魔王の所有する奥義である。
その効果は思考の加速と計算能力の上昇、本来は舞台情報から演算をして数手先の未来を計算する力である。
「(失敗を酷く恐れている――――何故?
虐待の可能性が高い、が決め付けは良くない。原因の解析を放棄。
現状の情報から『常識の歪み』が原因であると仮定義。
仮原因:以前の生活環境の劣悪さ。
改善策:以前の生活環境とは違うと認識させる→魔王城の生活環境を教える。
具体的手段:――――よし)」
この間実に0.02秒。
そしてもう一度言おう、これは魔王の所有する奥義である。
魔王の所有する奥義――――それでやろうとしていることが女の子のどう慰めようか超速で考えるということ。流石は魔王様、力の使いどころも下々には到底理解できぬ域であった。
「メリー」
「っ……! は、い……」
メリーの身体が強張る。
「深呼吸をしろ」
「ぇ……?」
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