四話、ここが魔王城と誰が決めた? んなもん俺に決まってんだろ!!
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◆◇◆
ドスコイマッスル王国を出てから約十二時間、時刻は午後六時。メリーはとある場所へと辿り着いていた。
「(ふむぅ……)」
紫色の大地、色々と禍々しい。
――――魔大陸じゃね?
「(うみゅ……)」
中々の大きさの屋敷。表札に『魔王城/アルスター・サナライオ』。
「(うー、ん……)」
庭には鶏が二羽いる。尻尾が蛇だった。
――――魔国じゃね?
魔王城内部、居間。居間には座布団とコタツが備えられており、上にはミカンがザルに入っていた。
――――魔王城とは。
「……と」
アルスターは座布団を足で引っ張り、メリーを座らせる。
「ありが、とう……ござい、ます」
「どういたしまして。ミカンは自由に食べていい」
アルスターはメリーと垂直の位置にある座布団に座る。
――――魔王城とは。
「……バットエンドを買った理由を話す、前に自己紹介を改めてする」
「…………」
コクリ、とメリーは頷く。
「俺は――あ……近所のスーパーの特売チラシ」
「(近所にスーパーあるんだ)」
魔王アルスターはコタツの上にからスーパー『ミリーア』のチラシを仕舞う。
世間一般の魔王イメージが壊れていく気がしたが気のせいだった。
「俺はこの領土を統べる魔王、アルスター・サナライオだ。趣味は読書、恋人いない歴=年齢だ。改めて、よろしく」
「よろし、く……お願い、します」
礼儀正しく礼をする魔王。角度は30度だった。
「私、は……固有魔法オプション付きの奴隷、メリー・バットエンド……です」
「(固有魔法はオプションだったのか)」
「あと、趣味は、無い、です。よろしく、お願、いしま、す」
「よろしく」
こちらも礼儀正しく礼をする。角度は45度だった。
「で……君を買った理由だが……」
「は、い」
メリーは覚悟する。奴隷を買う魔王、その目的はだいたい見当が付くのだろう。
生贄、人柱、酷い目に遭う……想像するだけでも常人ならば震え上がる。
「――――女性とイチャイチャするためだ」
「真顔で何言ってんだコイツ」
真顔で女性にイチャイチャするために奴隷買いましたと言い放つ。流石は魔王、人間を戸惑わせることに関しては右に出るモノがいない!! 凄い!! 凄すぎる!!
「時を遡ること一日前…………」
回想に入りそうになるが、そこで待ったがかかる。
「(待てよ、回想頼りだとこの子にどう思われる……?
もしかしたら『回想頼ってんの? ウケる』とか言われるんじゃないか……? だ、ダメだ……! 魔王として、それだけは阻止せねば!!)」
最高に意味の分からない思考回路を所有する魔王。
流石に回想頼りは魔王の威厳が許さなかったのだろう。もっと別のところで威厳を発揮してほしいという部下の祈りは彼へは届かなかった。
「まあ、要点をまとめるならこうだ。
・部下に女性への耐性の無さを馬鹿にされた。
・女の子を買ってこいと進言された。
・君を買った
……イチャイチャは言い過ぎた、女性慣れ、が本来の目的だ」
「分かり、やすい」
メリーは感想を簡潔にまとめて告げた。
「(分かり易いと褒めてくれた……!? 待て、この子、もしかして俺のことが好きなんじゃないか……!?)」
半日前のミステリアス眼鏡は何処に行った。
「(こんなに、分かり易く、伝え、てくれ、る……!? もし、かして……この人、わたしのこと、が……!)」
半日前の無表情な奴隷少女は何処に行った。
「「(いや……そんなわけ、ない)」」
――――両方アホだった。
だが、これは仕方のない反応なのかもしれない。
「(女性と会話とか……懐かしいな。部下に女はいるけど、人外だし……)」
アルスターは魔王として軽く百年は生きている。その間、女性と恋仲になったことは皆無だったのだ。その結果、女性へ極端な耐性の無さを持ってしまった。
「(気遣い、なんて……初めて…された)」
メリーはこれまで、悪意の満ちた環境で過ごしてきた。ゆえに気遣いということを一切されてこなかった。その状態で気遣いと呼べるような行動を初めてしてくれたのだ。
要約。
――――童貞拗らせ過ぎた魔王。
――――不憫に慣れ過ぎた天然。
アルスターはゴホン、と咳払いをする。
「まず……これから、この自称魔王城で暮らしてもらう」
「はい(自称なんだ)」
メリー・バットエンドの 住所:自称魔王城。
所有者:魔王アルスター。
「仕事は……色々見せて適性を調べてから、判断する」
「はい」
メリー・バットエンドの仕事:未定。
給料:無い。
「仕事探しは明日からになる、以上だ」
「はい」
アルスターは立ちあがる。
とりあえずの説明が終わったのだろう。
「まずはバットエンドの部屋を見繕う、何か要望はあるか」
「特にありません、部屋を頂ける、だけでも、有難い、です」
「そうか」
と、言ってアルスターはメリーのことを抱き上げる。
ふに、太股にアルスターの指が触れる。
「っ……~~///」
「(……車椅子も必要だな)」
車椅子が用意された。
◆◇◆ メリー視点
一時間後、私の部屋も決まり食事の時間となっていた。
「……? わた、しの分……も、ある……!?」
「? ある」
驚いた、自分の食事が与えられるという事実に。
王国にいた際は食事など与えられず、ネズミを口に突っ込まれたり台所の虫を食わされたり……などもされてきた。
――――奴隷相手でも食事を用意する人、初めて見た……!
※実は人間は食事をしないと、死んでしまいます。
「いただきます」
「……?」
御主人様は手を合わせてそう告げる。私はその行動の意味が分からず、首を傾げる。
「これは食事の挨拶だ。食材へ自分のために死んでくれてありがとう、という感謝と皮肉を込めるんだ」
「何か違う気がする」
私が睨むと御主人様は少しだけ頬を緩ませて修正する。
「食材へ感謝をする、というのが一般的な解釈だ。君もやってみるといい」
「……? はい」
私は自分の掌と、掌を見る。外の風に触れて冷たくなった手だ。身体は熱を生み出そうという気が無いのか、全然温まらない手だ。
手と手を、見様見真似で合わせる。
「……ぁ」
手がほんの少しだけ優しくなった気がした。
不思議だった、ずっと冷えて諦めていたのに、手を合わせるだけで……少しだけだけど、和らいだ。確かに和らぎました。
「いただ、きます……?」
御主人様の真似で、呟く。
それで、食材に感謝……こう……?
「ありが、とう……」
小さく、呟いてみる。御主人様は
「うん」
とだけ呟いた。声が、とても優しかった。
目元も、優しかった。初めて、そんな声を聞いた気がした。
私の人生で、初めて〝優しい〟を聞いた気がした。
「今、どんな気持ちだ?」
不意に聞いてくる。私は今、どんな顔をしているんだろう。
分からない、分からないけどきっと。
「胸が、ふわふわしてます」
少しだけ、笑えてるのかな。
目元に触れてみる、五ミリすら動いてなかった。
――――無表情のままだったみたい。でも御主人様は。
「よし、召し上がれ」
「は、い……いただき、ます」
もう一度、手を合わせていただきますをする。
魔国の食べ物だろうか、見た目は美味しそうだった。
一口、食べてみた――――美味しい。
「美味しい、です」
「ならよかった」
とても美味しい。
美味しくて、感動する――――あと息が苦しくなってる気がする。
美味し過ぎて胃がびっくりしてる――――なんか、喉に鉄の味が広がる。
ああ、これが美味しい食事――――毒、入ってる気がする。
私は意識を失った。
「ふぁっ!?!?」
あとで分かったのですが、魔国の食材――――慣れてない人間には毒みたいです。
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