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一話、理不尽は『運が悪かった』の一言で片付けるのが無難

 この作品を開けてくださり、ありがとうございます!

 皆さんに『作品は好きだけどお前は嫌い』と言われるような作者を目指して精進いたします!!


「魔王しゃま……すき、すき……」


 目の前に抱き着いて離れない女の子。女の子の近くには銀色の輝きを放つ剣……聖剣が置かれている。

 ――――この子は、勇者である。


「……しゅき、しゅき…」

「(……どうして、こうなった)」


 俺は眼鏡をくいっとして、思い出す。そう、それは二ヶ月ほど前のことだ――――

◆◇◆

 聖王国/聖都ドスコイマッスル、謁見の間にて。


「ふん、いつみても汚らしい奴隷じゃわ」

「(うぇっ、くっせ)」「(王の御前に……汚らしい)」


 そこでは陰口、軽蔑、不快――――総じてショボい悪意が渦巻いている。その悪意が向けられるモノは謁見の間にて跪く。


「戦闘奴隷、メリー・バットエンド。帰還しました」


 声は枯れかけており、性別すら分からない。彼女の身体はあらゆる汚れが付いている。とてもじゃないが、王城に上がっていい見た目じゃない。


「(ふふっ、奴隷はこうじゃないとっ)」


 だが、それが許されるのには理由があった。王の隣で口角を上げる女が、王の寵愛を受けた愛人。彼女こそがその理由だ。


「(老いない身体なんて、奴隷が持ってていいものじゃないものね~。身体を洗わないように命令したのを守ってていいこね~ww)」


 つまり簡単な話こうだ――――嫌がらせをされている。

 その嫌がらせはネチッコイもので、武器を肥溜めに落とす、顔面に掃除の汁を掛ける、そして最後に『誰にも言うな』と命令するのだ。

 そしてそれは彼女に限ったことではない、この王城に住む者は集団心理の基、メリーに遊び半分で嫌がらせ行為を行っていた。


「報告します」


 だがメリーはそんなこと、気にもかけていない。

 ――――無機質な声。無感情な瞳。徹底して虚無の彼女に、女は苛立ちを覚えた。


「国境付近にいた魔物の集団、計1029体を全て討伐しました」

「うむ、下がれ」

「(つぎの、戦場、どこ……だろう)」


 メリーは1029体の魔物をたった一人で討伐した。それは王から爵位を賜っても可笑しくない功績だ。

 だが、それは評価されない。当然のこととして処理され、労いの言葉もない。


「父上、一つよろしいですか? この奴隷、もう必要ないのではないですか?」

「(……王の、男の、子供……)」


 許可を取ってから内容話すという常識を覆す男――――ミリッジ・ドスコイマッスルは声を上げた。

 中肉中背の金髪ロン毛、彼はこの国の王太子である。


「む? ミリッジ、なんだいきなり」

「考えてもみてください! 敵の軍勢はもう僅か、この奴隷などおらずとも我々で対処できましょう?」

「(……? これ、会話……になっている……?)」


 頭が痛くなる言葉の殴り合いを繰り広げる国のトップ。メリーは帰ろうとしたが『下がるな』と命令されて困った。


「む……だが」

「父上! 我らには彼の聖剣があるのです! ならば、恐れることもないでしょう! なあ、みんな!」

「(聖剣……? 下水道、浄水器の、こと……?)」


 メリーは二年前に下水道に聖剣を放置したことを思い出した。下水道の水が全て真水にすることから常に放置している。


「へっ、よゆーよ」

「(剣の、人……この前、犬相手に、遊び、で殺してた、人だ)」


 ミリッジの背後から数名の男が登場する。メリーは脳裏で軽く情報を引き出した。


「999,9%ですね」

「(なにが……?)」


 何が999,9%なのかは不明だが、本人が言うには何かあるのだろう。


「はは、僕に任せていいんだよ?」

「(教師の、人……女生徒200人と、不倫、してた人……)」


 二百股という伝説の記録を叩きだした男だ。


「お、お前たち……! オレは、王子として、お前らのような配下が出来て嬉しい!」

「(感動要、素……あっ、た……?)」


 王子ミリッジは感動する。何と素晴らしいんだ……! と。メリーには良く分からんかった。


「ふむ……剣聖、賢者、導師……そして我が息子。これならば、魔王すらも、いけるか……?」

「(難しい、とおもう……)」


 何せ全員、本当に貧弱だ。何なら兵士二人に負ける実力の持ち主だ。


「ええ、何も問題ありません! 何ならこの場で、この奴隷の足を斬って私の実力を証明しましょう!!」

「(……? わたし、許可ないと、動けないの、だけれど……? それは、実力の、証明、足るの……?)」


 ――――その日、彼女は自らの右脚を失った。


 酷すぎた、余りにも酷すぎた。

 彼女の活躍、彼女の力、彼女の全ては、何一つとして評価されない。

 メリー・バットエンド、王国に最も貢献し、最も底辺に位置するもの。


 彼女が救われる日は、まだこない……具体的には、あと二日ほど来ない。

◆◇◆

「王様、大丈夫なのですか?」

「む? 何がだ」


 王と愛人は別室にて話をする。愛人が公式の場で顔を出す、そんな状態であるのはこの王の非常識な面が関係している。ゆえに心配して問いかけた――――この国、大丈夫なん? と。

 尚、謁見の間はメリーの血で床が汚れ、現在清掃中である。


「もし、彼らに何か怪我があれば……私は……っ」

「ふ、お前は優しいな。だが、大丈夫だ。わしは完璧な王じゃからな、対策は勿論ある――――おぅい消しゴム!」


 王の呼び掛けに、扉が開かれる。扉を開けて入ってきたのは魔物、鎧をまとった骸骨だった。

 その魔物を前に軽く驚くものの、騒いだりはしない。それは目の前の魔物が彼らに従属しているからだ。


「この骸骨兵を500体ほど、奴らに同行させる。コイツらは一体でもオーガ並みの力を発揮する自慢の兵士だ」

「すごい! これなら何も問題ないわね!」


 骸骨兵、それは聖王国が間接的に(・・・・)所有する兵士だ。

 一体一体がオーガ並みの能力を所有し、しかもそれが軽く一億は存在する。


 加えて休みは要らず、普段は聖都の付近で仕事をするのだ。これが人格が酷い彼らが誰からも粛清されない理由であった。


「ねえ、この骸骨ってどうやって従えてるの? 私知りた~い」

「ん~それはな~。あー、まあ、王家に伝わる力じゃよっ」

「きゃ~すごーい♡」


 ※とある少女一人の力です。


「王家に伝わる力ってどんなのがあるの~」

「むへへ~そうじゃな~軽く一億ぐらいはあるかの~」

「例えば例えば? 凄い力とか見てみたいわよね~やっぱりぃ」

「例えばっ? お、おー、そう、じゃのー」


 ※一億ないです。


「あー! あった! そういえば一つあったわ!」


 ※一億とは数字の一の一億倍のことです。


「この国が出来る前に合った国に伝わる伝説の魔導書、ってのがあった……らしい? いやある!」

「唐突な反語」


 ※結論、王家に伝わる力はない。


「王家に伝わる話じゃと、魔王が現れると人の姿となり舞い降りる……らしい!」

「すっごーい、かっこいい~」


 彼らは笑う。自分たちの圧倒的な力に酔いしれて。

 彼らは笑う。この世の全ては取るに足らぬと。

 彼らは笑う。決定的な見落としに気付かずに……


◆◇◆

 二日後、奴隷市にて。薄汚れたゴミのような何かが、檻に入っていた。


「え゛、女奴隷なのに一切、身体を綺麗にさせるな……? 何の冗談だよ、パンツ直飲み合衆国に入国禁止みたいなもんじゃねえか」

「これがさー、コイツ、王族の機嫌を損ねたらしいんだよ。つーわけでよろしく」

「はぁ、ならしゃーなしか……つっても、右脚も無いし、格安になるかな……コレ」


 奴隷商人はトングでウンコを触るような手付きで、首輪の鎖を持った。


【隷属の首輪】

 王国法、第七条十六項。奴隷身分に人権はなく非王国民であることと共に、隷属の首輪の装着を義務付けるものと~~


 要約――――首輪の効果で奴隷は逆らえない。


「ほら、入れ。飯は……まあ、食わせちゃならんと言われててな。恨むなら自分を恨め。それはそうと、パンツ食う?」


 奴隷商人はそれだけ告げると鍵を閉めて、大銅貨一枚と値札を張った。

 大銅貨一枚……日本円にして千円だ。安い、恐ろしく安い。


「(恨むなら、自分、を……?)」


 暗い檻の中、彼女は内心で呟いた。彼女は過去のことを思い浮かべる。


「(私、に、落ち度……は、あった……? どこか、で、間違えた……?)」


 この時、常人ならば、この言葉は単純な文句だ。理不尽に右脚を斬り落とされ、自分の境遇に涙もしよう。だが。


「(身の、振り方……かな)」


 彼女は、あろうことは正確に答えを導き出すのだ。どのような理不尽さえ、無表情で受け止めて問題点の把握、具体化、抽象化、要点、改善方法の構築まで繋げだす。

 分かり易く伝えよう――――彼女の心は、何処か壊れていた。


「(女には、女の身の振り方、がある。男に、は、男の、身の振り方、がある……かーすと、制度……奴隷身、分……王城、なら……あの場、の対応、は――――……もう、いいや)」


 そこまで考えて、思考を停止した。

 それはこの行為の無意味を知ったゆえだ。この場所で、生きれる可能性は皆無、ゆえに目を瞑り眠ることが正解なのだ。

 と、結論を下した時だった。


「(……だれ、か、くる……?)」


 足音、奴隷商人、もしくは客だろうと当たりを付ける。


「(でも、わたし、には……)」


 メリーは足を見る。右脚は無く、髪はぼさぼさ、身体からは凄い臭いがあった。

 ――――だからこそ、目の前の光景は幻覚かと思ったのだ。


「固有、魔法……」


 目の前で、男が立ち止まった。


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