まるで日向の縁側に居るような二人
私は島本 朱里。何処にでもいる140センチの高校二年生。
・・・コラッ、小さいって言うな。
ゴホン、まぁ、今回は私の話は私の話じゃ無い。
とあるカップルの二人の話。
そのカップルは、私のクラスの一番後ろの席に二人並んでいる。
男の方は学校に新聞を持ち込んで、それを隅から隅まで見るというトリッキーなことを毎日やり遂げる男、名前は須藤 牧夫。ボサボサ髪で、眼鏡を掛けていて、目付きが悪く、無口で何を考えているか分からない男。
その隣で微笑みながら須藤の様子を見ているのは、クラスのマドンナこと丸井 恵美さん。私と違って背は高く170センチ、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいるボンキュッボン、顔は小顔で目が大きく、黒髪ロングの長髪が似合う端正な顔立ちの美人。勉強も出来て、スポーツ万能の才女であるからして、どうしてこんな美人があんな偏屈な男と付き合っているのか正直理解できない。
だが、この二人を見ていると、何故かほのぼのしてしまうのである。
須藤は新聞から目を離さずに、一言だけこう言う。
「茶」
すると丸井さんはニコニコしながら水筒を取り出し、コップにお茶を入れて須藤に渡す、その際に須藤は「ん。」と一言だけ言って、渡されたお茶をゴクリと飲んだ。
「むっ、ほうじ茶か。」
「はい、今日は少し暑くなりそうでしたから。」
「うむっ、暑い日は熱いほうじ茶だからな。ありがとう。」
ここでようやく感謝か。しかし、ここで特出すべきは須藤の偉そうな態度ではなく、この二人の関係性だね。
この新聞を読んでる相手に、すかさずお茶を差し出す感じが・・・まさに長年連れ添った老夫婦。それを高校生のうちからやってのけるのだから、この二人只者じゃない。この朱里ちゃんが言うんだから間違いない。
フッフフ、今日は気になる二人にコンタクトを取ってやる。それで根掘り葉掘り二人の関係を聞いてやるんだ。
「丸井さーん♪」
私がトコトコ・・・オホン、スタスタと歩いていくと、丸井さんが私の方に気付いた。
「あら島本さん、どうしたの?お菓子食べる?」
「えっ、お菓子、食べる♪」
ふ菓子を渡されて、当初の計画が吹き飛び、一心不乱にふ菓子にパクついてしまった。
「あらあら♪」
「リスみたいだな。」
その様子を見る丸井さんと須藤。誰がリスだ須藤め。というかもしかすると、他の人から見たら、コレはもしかして祖父母家に来た孫みたいな感じになってる!?
それから私は丸井さん・・・いや、恵美ちゃんと仲良くなり、一緒にウィンドウショッピングしたり、パジャマパーティするぐらいの仲にはなった。
「恵美ちゃん♪」
「朱里ちゃん♪」
二人でニコニコしながら廊下を歩く、もう恵美ちゃん可愛すぎるよ。
・・・っと、いけない、いけない。完全に当初の目的を忘れてたわ。まぁ、恵美ちゃんと仲良くなれたのは、棚からぼたもち的な幸運だったけど、一応聞いとかないとね。恵美ちゃんの家でパジャマパーティした時、私が風呂から上がったら、恵美ちゃんの部屋にいつの間にか居て、恵美ちゃん膝枕で須藤が耳掻きされてたし。「大きいのが取れましたよ♪」「うむっ」みたいなやり取りしてたし。
是非とも聞きたい。
「恵美ちゃん、どうして須藤と付き合ってるの?」
「付き合ってる?牧夫さんと?付き合っては無いよ。告白されてないし。私も告白してないし。」
「えっ!?あれで付き合ってないの!?」
付き合ってないのにお茶持ってきたり、弁当作ってきたり、耳掻きしたり、須藤の家に行って学生服にアイロンかけたりするの?信じられないなぁ。
「うん、牧夫君とは家がお隣同士だから、物心付いた時には傍に居て、お世話するのが当たり前だったから。当たり前だから全然苦じゃないの。」
くぅ、天使かよぉ。あんな男に、こんな天使は勿体無いだろうよ。
「ちょっと聞きたいんだけど、恵美ちゃんは須藤のこと好きなの?」
単刀直入に聞いてみたけど、答えてくれるかな?
「好きですよ。とても。他の男の子が目に入らないぐらいには。」
凄い真顔で、凄いキュンキュンする台詞言ってきたぁ・・・。
と、ここで金髪の不良みたいな男の二人組が、ヘラヘラ笑いながら前からやって来た。こういう人達って、どうして真ん中を歩きたがるんだろう?理解できないけど、とりあえずココは脇に避けて、無用なトラブルが起こらない様にしましょうかね。しかしながら避けてもトラブルがある時はあるものらしい。
「おっ、丸井恵美だぜ。美人だよなぁ。」
「声かけてみっか?」
やべーやべー、何か聞こえてきたぁ。こっち来たし、怖いよぉ。
「よぉ、アンタ丸井恵美だろ。」
「はい、そうですが、何か?」
ほうほう、私はアウトオブ眼中ってワケですか、クソォ、私に力があればコイツら抹殺してやるのに。
「学校抜け出して俺らと遊ばない♪」
「楽しいとこ行こうよぉ♪」
う、うわぁ・・・ピンチピンチ。あ、足が震えてくるわぁ。ごめん、恵美ちゃん助けたいけど勇気出ないわぁ。
「嫌です、この後も授業があるので。」
恵美ちゃんはキッパリと言いたいこと言えるんだなぁ。凄いなぁ。
「そんなこと言わないでさぁ。」
「俺知ってるぜ、アンタなんかジジ臭い男の世話してるんだろ?あんな男の何処が良いんだよ。俺達と遊んだ方が楽しいぜ♪」
軽口を叩きまくるヤンキー達。するとここで恵美ちゃんの目の色が変わった。
「ジジ臭い?・・・話はそれだけですか、じゃあ私達はこれで。」
恵美ちゃんは私の手を引っ張り、強引にこの場から去ろうとする。痛い痛い、怒っているのを分かるけど、私に当たるのはやめて欲しい。
「待てよ。」
おっと、ヤンキーが通せんぼ。くぅ、なんでこんな展開になった。今日に限ってトラブルが続く。
「やめてください・・・さもないと。」
「さもないと、なんだ?助けでも呼ぶってか?」
助けを呼んでも誰も助けてくれなさそうだなぁ。もう怖いの嫌い。
私はもう声も出ないぐらい怖かったので、心の中で誰か助けてと叫んでみた。するとテクテクと誰かがこっちに歩いてきた。
「恵美、ここに居たのか?」
助けと呼ぶに頼りないヒョロっとしたボサボサ頭の男、須藤 牧夫。実は格闘技をやってるとかいうミラクルは無いよね。
「なんだテメー、引っ込んでろ。」
ヤンキー二人の矛先は一気に須藤に向いた。さて須藤の反応は。
「もう授業が始まる、行くぞ恵美。」
ガン無視。ヤンキーが見えてないんじゃないかってぐらいガン無視だ。
どうやら須藤 牧夫という男は、ヤンキー二人ぐらいでは動じないらしい。
「無視すんな!!殺されてぇのか!!コラッ!!」
「ん?さっきから煩いとは思っていたが、なんだ貴様ら?授業が始まるぞ。」
「あん!!」
うぉおおおい!!火にガソリン注ぎよる!!この口だけ番長!!
不良の一人が須藤の胸ぐらを掴む、爪先立ちになり、今にも足が宙に浮きそうだ。予想通り須藤は喧嘩弱そうである。
「ぶん殴るぞ!!コラッ!!」
「何故殴られるのか分からんが、やめておけ。痛い目にあうぞ。」
「あっ、テメーがなんかしてくれんのかよ!!」
「いいや、俺じゃない。」
「じゃあ誰だよ!?」
「恵美だ。」
へっ?
須藤が何を言ってるのか分からなかったけど、その証拠に恵美ちゃんが須藤の胸ぐらを掴んでいるヤンキーの顔を壁に叩きつけた。
"ドォオオオン!!"
思いっきり壁に叩きつけられ、壁に亀裂が入りへこんだ。
叩きつけられたヤンキーは白目を向いて失神しているのに、恵美ちゃんは目を見開いて失神したヤンキーにゆっくりと語りかける。
「次、牧夫さんに危害を加えたらころ・・・ボコボコにしますよ。」
・・・今、まさか殺すって言いかけた?ま、まさかね。
そこから恵美ちゃんはビックリするぐらい通常営業で、相方をやられて、へたり込んでいるヤンキーに優しく語りかける。
「すいません、手荒な真似をして。すいませんが、そこでのびている人を連れていって貰えませんか?」
「ひぃいいいいい!!」
ヤンキーは怯えた様子で、失神したヤンキーを引きずりながら、その場から去って行った。
「大丈夫ですか?牧夫さん。」
「うむ、大丈夫だ。だが、乱暴はよせ。争いからは何も生まれん。」
「・・・ごめんなさい。次から気を付けます。」
一難去って、再び老夫婦。ここまで来るとプロですな。
「恵美、一つ提案があるのだが、聞いて貰っても良いか?」
「何ですか?」
おっ、なんだなんだ?このパターンは見たこと無いよ。
「改まって、言うのは少し気恥ずかしいのだが、この須藤 牧夫、丸井 恵美に結婚を前提とした交際を申し込む。」
「えっ?・・・あぁ・・・えっ?えぇえええええええ!!」
恵美ちゃんあまりの衝撃に、ビックリして、一旦理解したと見せ掛けて、今度は顔を真っ赤にして、雄叫びを上げた。うんうん、突然だったもんね。私も凄く驚いてる。
「はしたない声を出すな。返事は後からでも良い。授業が始まるから教室に戻るぞ。」
「は、はい。朱里ちゃんも行こう。」
「う、うん、分かった。」
恵美ちゃんが須藤と付き合わないわけは無いのだけど、付き合ったとしても関係性とか変わらずに、長年連れ添った老夫婦感を出し続けて行くことでしょうよ。
はい、めでたしめでたし。