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-Re:ika-警視庁 恩寵刑事部 特殊捜査課 通称 「零課」  作者: 灯火 由夢葉
第一幕 第一章 夫丈高校一学期
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1 全ての始まり

 このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。

 数週間前。

 「何でしょうか、國崎総理」

 國崎の席の前に立った夢は、軽くお辞儀をした。

 「急に呼び出して済まない。君に頼みたいことがあって呼び出したんだ」

 國崎は優しく微笑んだ。三日月のような髪と髭で顔は皺だらけだが、とても優しい表情である。國崎は引き出しから、六法全書のように分厚い書類の束を取り出した。そこには『徒陰』と『夫丈高校』について書かれていた。

 「これは……?」

 夢は書類を受け取り、軽くページをめくる。夢は数秒書類に目を通した。横に飾ってある歴代の内閣総理大臣の視線も感じる。

 「君に通って貰いたい高校がある。頼めるかな?」

 夢は、元気よく返事した。

 「私がここ夫丈高校を推薦するのは、君たちの任務にひどく関わるからだ」

 夢はゆっくりと口を開いた。

 「私は夫丈高校で『徒陰』と思わしき人物が入学するので、潜入し、正体を突き止めて“最終作戦”に繋がるように行動しろということですね」

 國崎は感嘆の表情を浮かべる。

 「やはり君はとても理解力があって合理的で良い。孫もこんなんだと良いんだが」

 國崎は軽く溜め息をついた。

 「彼は、彼なりに努力していると思います」

 夢は机の上にあるライターを手に取り、書類を燃やした。炎を見ながら、夢は言った。

 「書類は一通り目を通して暗記しました。機密情報なので燃やしときます。それと“内通者”の件お願いします。かなりの痛手を負っているので」

 國崎は静かに頷いた。

 「それと……、両親は元気ですか?」

 「安心したまえ。何不自由なく暮らしているよ」

 「……分かりました。では」

 夢は一礼をして、総理室を後にした。

 「何不自由なく……、か」

 國崎は、不気味に口角を上げた。

 

 『警察官内事件解決数ナンバーワン!熱血警視総監 五十嵐衂漉(いがらしじくろく)!火事が起きれば、そこにいる!そして瞬く間に火は消えている!煉獄(れんごく)大炎天隊(だいえんてんたい)隊長(たいちょう) 煉獄(れんごく)太陽(たいよう)!自衛隊の若きリーダー!総隊長 三上(みかみ)(しん)!彼らは全員、夫丈高校出身者!高校からの恩寵訓練!行き届いた環境で子どもたちもナンバーワンに!』

 ビルの電光掲示板に大きく夫丈高校の広告が流れている。それ程までに有名な夫丈高校は普通科、工業科、公務科の三課に分かれている。今年度の入学者数は例年の約2倍近くに増えている。これは、他の高校には少ない“公務科”が存在し、1クラス20人という少人数しか求めていないからである。

 

 校門に立ち一息つく。校舎を見つめ直す。設立して暫く経つが外装はまだ新しい。夢は大きく一歩を踏み出した。自分のクラスである1-Bの教室の前に立った。観察をしておきたいので、始業の20分前には着いていた。夢は再び一息ついてドアを開けた。教室には既に数名の生徒が座ったり、立ったりしていた。夢は黒板に貼られた座席表を見て、自分の席に着いた。ドア側の真ん中である。知り合いがいないので、取り敢えず辺りを見回した。

 (赤毛で筋肉質……。彼が大道寺炎司(だいどうじえんじ)ね。呑気に眠っているわ……)

 夢は國崎に渡された書類に書かれた生徒の名簿をあのとき瞬時に暗記していたので、直ぐに顔と名前が一致した。2列目、後ろから2つ目の席である。その後ろの席のもう一人は、茶髪のツーブロックに額に小さな傷がある。大道寺(だいどうじ)(とび)(たか)である。その他にも緑色の毛の筋肉質の草木(くさき)(しげる)とピンク色の髪の毛の草木(くさき)(はな)が仲良さそうに話していた。

 そもそも『徒陰』の柱の素顔は分かっていない。狐の面を付けていたり、ペストマスクをしていたりと明かされていない。ただ分かるのは子どもであるのに強く、脅威であること。それだけだった。

 そのとき、鳶鷹と目が合った。友好的に片手を上げて、少し大きな声で話しかけてきた。

 「初めまして!俺、大道寺鳶鷹!で、こっちが大道寺炎司。宜しくな!」

 すると、炎司が目を開け、

 「勝手に俺の自己紹介をするな」

 と言った。

 「良いじゃん!どうせ色々あって名前とか知るんだからさ!」

 夢は、少しぎこちなく微笑みながらこう言った。

 「苗字同じなんだね」

 「義兄弟なんだよね!」

 鳶鷹はそう言って、夢も含み他愛もない会話を続けた。夢は少しの間だけ任務のことは忘れてしまった。夢だって零課という肩書きがなければ普通の筋肉質な女子高生である。時間が過ぎるにつれ、人が増えてくる。予鈴の十分前に、殆どの生徒が席に着いていた。暫くすると本鈴も聞こえてきた。

 「先生どんな人だと思う?えっと……」

 夢の後ろから声が聞こえた。名前は確か、吉良きら良嬉らきだったか。背の低い可愛らしい女の子である。

 「あ、私?憾咲夢よ。よろしくね、吉良さん」

 「よろしくね。名前知ってるなんて相当準備したのかな?憾咲ちゃんはどんな先生だと思う?もしかしたら、ランキング一位の(はく)龍院(りゅういん)先生かもね」

 白龍院、この高校の創設者であり、校長、教員ランキング1位の名前である。

 「どうでしょうね。そんな先生に教わるなら凄いことですね」

 同年代に接するには少々堅苦しい言葉で話す。そのときだった。凄まじい殺気を夢は感じる。殺気は背後から感じる。振り返ると、グレーのスーツを着た中年の長身の男性が入ってきた。

 「皆さんお早う」

 真田さなだまことである。教員ランキング圏外ながらも冷静沈着であり、癖の強い教員陣の中で唯一話の通じる相手であると夢は勝手に思っている。

 場数を踏んでいる夢だから殺気を感じ取ったわけではない。クラス全員が真田の殺気に気づき、黒板の方を向いている。真田の一挙手一動に集中せざる負えなくなっている。

 「皆さん緊張しているのは分かります」

 (いや、貴方の殺気にびびってるのよ)

 夢は思わず言いたくなった口を開けないようにした。

 「先生殺気出し過ぎですよ!」

 発言したのは鳶鷹だった。クラス全体の視線が真田に向けられる。完全に地雷だった。真田は沈黙していた。

 「なあ、炎司」

 「俺に振るなよ……」

 炎司は気だるそうに答えた。どうやらこの二人は馬鹿らしい。夢がそう思ったときだった。

 「……注目されるのは嫌いです。全員をジャガイモだと思っても人語を話すなら意味ないですよ。10年以上教員をやっているが、これだけは慣れない」

 真田が溢した。クラスは困惑に包まれる。

 「大丈夫だよ先生、俺らだって緊張ぐらいするぜ」

 鳶鷹の謎のフォローが入る。どうやら本当に緊張らしい。クラス全体が安堵する。

 「取り乱してすいません。改めてお早うございます。本日から担任を任されました真田真です。以後、お見知り置きを。……では早速入学式に行きましょう」

 真田がそう言うと、生徒は各々立ち上がり、校庭に向かう。

 夢は鳶鷹を追う。

 「大道寺さん!」

 鳶鷹と炎司が振り返る。

 「あ、えっと鳶鷹さんの方……」

 炎司はそれを聞くと、向き直し歩みを再開した。鳶鷹は徐行し夢と同じ歩速で横に並んだ。

 「ん?どした」

 「なんでさっきの殺気じゃないって思ったんですか」

 鳶鷹は少し笑い、答えた。

 「あんなん殺気なわけないやん。……んまあ、殺気にも感じ取れたけど、あんなん殺気やと思ってたら生活できひんわあ」

 夢は今までに数多の人災者と戦ってきた。しかし、あれは今まで感じたことのないほどの殺気であった。理解できなかった。

 「んまあ、本当の殺気感じたらわかると思うで。それよりええダジャレやったで」

 鳶鷹はそう言うと、炎司の元へ戻った。

 体育館には、公務科の他にも普通科、工業科が並び始めていた。既に2、3年生は整列していた。そして、なぜが体操服姿であった。

 壇上には、教頭である豪炎寺ごうえんじたてがみと校長の白龍院はくりゅいん嬰児えいじがいた。

 「ええ、では揃ったので、入学式を始めたいと思います。まずは校長の挨拶から……」

 白龍院は壇上の真ん中に向かう。全身白い服が嫌に目立つ。あれでもうすぐ80歳なのが信じられない。

 「皆様初めまして。校長の白龍院です。皆様は沢山の受験生の中から選ばれた数少ない宝であります。近年では増加する人災者に対して、公務員が足りていない現状であります。ですが、関東でも公務科がある学校はここを含めて数校しかありません。ですから、公務科生だけでなく普通科、工業科の生徒も是非公務員となって欲しい。そこでまずは君たちに活躍できる場を設けたいと思います」

 白龍院がそう言うと、指を鳴らした。すると、体育館の壁が一気に地面に沈んだ。1年生は何が起きたか理解できなかった。辺り一面が巨大なグラウンドであった。観客席にはちらほら有名な公務員が座っている。

 「これから、毎年恒例の体育祭を開催したいと思います。2年生は第2グラウンド、3年生はここで待機、1年生は着替えてから担任の指示に従って第3グラウンドへ向かってください」

 1年生は理解でき切れていないまま教室に戻ったのだった。

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