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第一章 ①

「敵襲!!敵襲ー!!」


襲撃を告げる鐘が簡易型の天幕が並ぶ夜の野営地へ響き渡る。

ほんの数分前まではその場は見張りのわきにあるかがり火が爆ぜる音と通り抜ける風が森を揺らす音のみが響き、時折談笑する声が聞こえるだけであり、音はその夜の闇にすべて飲み込まれるかのようであった。

だが、今はその名残など一切残さずに悲鳴と怒号が満ち、かがり火はその数を増やし緊急事態を大きく表していた。


「#####!!」


まるで地の底から響くような低い音で、意味を持たない叫び声をあげながら人ならざる化物が天幕の周りに設置された柵を乱暴に破壊する。


「妖霊だ!依代をありったけ持って来い!」


妖霊と呼ぶ化物が柵を破壊する様を見た見張りが声を上げて後ろの部下に伝える。

妖霊は全身が灰色と黒のようなごつごつした巨躯をしており、理性などかけらも見せないような赤く爛々と光る眼で辺りを見回した。自らが害すべき獲物を定めた妖霊は食べ物を食べるにはおよそ不向きなほどの不揃いさだが鋭さを持った牙をたたえた大きな口を限界まで開けて雄たけびを上げる。

見張りは自分の倍はあろう体躯を持った妖霊の前に一人飛び出し、気合の声を上げた。見張りは持ち運びに特化した小ぶりな槍を右手一つで保持し、妖霊の首へ向かって突き出しながらけん制の動きを取る。妖霊が攻撃に怯んだ隙を見るや見張りは左手に紋章のついた飾り紐を胸元に押し当て、高く掲げ、大きく振りかぶった。

すると木々をなぎ倒してもおかしくないほど強い風が見張りの前から吹き荒れ、妖霊の巨体をよろめかせた。


「おぉぉ!」


見張りは裂帛の気合を込めて妖霊の胸元に向かって槍を突出し、妖霊に向かって傷を与える。よく研がれた槍は岩のような体皮に対しても刃が刺さり、刺した場所から黒いもやが大きくあふれる。

見張りは逸らずに距離を取ってかがり火の光で陰影の強調された黒いもやの影に隠れるように身を動かし、さらなる隙を伺う。


「##!」


短く妖霊が吠えるとその後ろから同じような妖霊が1匹、2匹とさらに現れる。見張りの体の2倍はあろうとする体の妖霊が5体現れたのを確認すると、見張りは顔を強張らせ、息をのんだ。見張りの顔が絶望に変わろうかというところで―、


「全員!構え!放て!!」


見張りの後ろからよく通る女性の声が響いたかと思うと勢いのついた長弓による矢が見張りのすぐ上を通り、20近い矢が妖霊に突き刺さる。妖霊が矢に驚き体の動きを鈍らせるとさらに声が響く。


「今だ!炎を放て!!」


後ろで依代を高く掲げた兵士数名が『炎よ!20メルトル先、10メルトル四方、燃やせ!』と唱和すると妖霊のいる場所付近が激しく燃え上がる。


「つぎ!風よ!」


妖霊は燃えている範囲から逃れようとするが、通る声が続いて号令をかけると先ほど見張りが使った風を呼ぶ依代が妖霊をその場に押しとどめる。妖霊がその炎に苦しみ体の動きが鈍ってきたのが見える。


「突撃!」


後ろに控えていた屈強な兵士数人がそれぞれ得意な獲物を持って切りかかる。炎に焼け弱った体にはよく刃が通り、1体、また1体と妖霊を両断していく。

妖霊は斬られると恐ろしい叫び声をあげながら、黒い霧となって霧散していった。


「警戒を緩めるな!1、2班は付近の哨戒!戦闘するな!見つけたら必ずここに逃げてこい!」

「了解!」


何人かが返事をすると、そのままかがり火を持って夜の森に分け入っていった。


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