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2―32.山道の先

 色把は、大通りまで出ると、苑司の手を引き、迷いも無くバスへと乗り込んだ。

 曽根越の車は如何したのだろうか。

 二人の他に、数人の乗客がバスに乗り込む。蓼原も、一般の乗客に紛れ、バスへと駆け込んだ。



(随分と、さびしい所だな)

 高級住宅街を抜けてしまえば、そこはもう、民家が点在する寂れた町並みへと変わる。

 だが、寂れた町並みを過ぎても、色把と苑司は降りる気配が無い。やがて、バスの乗客の人数は減り、車内は、色把と苑司、蓼原のみとなってしまった。

 蓼原は、バスの中で居眠りをしているフリをし、静かに二人の様子を探った。


 色把は窓の風景を眺め、苑司はなにやら落ち着かない様子で視線が定まらない。



 やがてバスは、終点へとたどり着いた。

 ここでようやく、色把が腰を上げる。苑司も色把に反応し、席を立つ。

 色把と苑司がバスから降りるのを見計らい、蓼原も後に続いた。


 人気の無い道、真後ろを歩いていては、流石に怪しまれてしまう。

 遠くに二人の姿を確認できるまで距離をとり、後を追い続ける。時刻はまだ16時頃と早い時間だが、日が早く落ちるこの時期は、夕方のように薄暗くなりかけている。

 周囲は、人が住んでいるのかわからないような古びた小屋や、積み上げられた大きな木材、手入れのされていない田畑が広がっている。地面のアスファルトは暫く舗装もされていないようで、ひび割れ、間からは雑草が生えてきている。

 一体、このような場所に、何の用事があるというのだろうか。



 このまま歩みを進めれば、僅かにに建物がある地域すらも通り過ぎ、その先に見える山道へと入っていくことになってしまう。

 バスの中で遠くに見えていた山は、もうすぐ近くにまで迫ってきている。


 手を引かれていた苑司も、様子がおかしいことに気づいているようだ。

「ねぇ、本当にこんなところで僕に用事があるって言うの?」

 色把の歩みを止めようと、何度か進めている足を緩めるも、その度に振り返り、小さく縦に首を振る色把。

 通常と様子の違う色把の強い瞳の色に、苑司は何も言い返すことが出来ずに、またもや色把に手を引かれ、されるがままになっている。 



 烏が一声鳴き声を上げて飛び立つ。

 案の定、色把と苑司は目の前の山に足を踏み入れる。苑司が履いているスニーカーは兎も角、色把の履いている女物の靴は、山を歩くのには明らかに不適切だ。

 だが色把は、そんなことはまったく気にも留めていない様子で、まっすぐに足を踏み入れていく。蓼原の足元はすでにアスファルトから砂利へ、砂利から踏み鳴らされた土へと姿を変えていた。


 入り組んだ山の中では、二人を見失ってしまう。

 蓼原の足が速まり、二人の若者らの背中を追いかけた。


(こんな所を、あの二人は進んでいったのか……)

 獣道とは言わないが、人が一人通れる位の狭い道。真新しい女物の靴跡と、スニーカーの足跡が重なって蓼原の前に続いている。

 スーツに合わせた革靴が、足を踏み出す度に土の水分で滑る。周囲は霧が出てきたようで、足元の草が湿っているのだ。

 体力には自信がある蓼原も、危なげな足元に閉口してしまう。 

 どの位進んだか時間の感覚はなくなっていた。霧はどんどんと濃くなり、周囲も徐々に暗くなってきている。




 ふと、蓼原の目に、一瞬だけ明かりが映る。

 気のせいかと目を瞬かせ確認をするも、確かに、蓼原の先に、何か明かりが漏れていものがあるのだ。

 目的が見つかると、自然と足が速まる。何度か湿った草に足をとられ、斜面に膝をつきながらも、何とか上りきると、平坦な場所へと繋がっていた。そこには古びた大きな建物が姿を現した。

 何かの工場跡のようだ。トタンが張られた壁は、所々がさび付き、大きな穴が開いている箇所もある外側に見える窓のガラスはほとんど残っていない。外壁には、何に使っていたのか分からない機械のガラクタが積み上げられている。


 蓼原が見た明かりは、その工場跡から漏れ出していた。

 明らかに人の気配がする建物に、蓼原は息を殺し、割れた窓から中を覗き込んだ。


 焚き火が焚かれている。火の周囲には色把と、十代を漸く迎えたくらいの幼い少女が見える。苑司の姿は蓼原の位置からは見ることが出来ない。

「……」

 蓼原は更に中を覗き込み、様子を探る。

 そして、次の瞬間に、蓼原は信じられない光景を目の当たりにするのだった。

「何だ……アレは……!?」



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