2―31.目撃者
曽根越が関わる事件は、次々と闇に葬られている。どうしても自分の目で確かめたかったのだ。
勢いで早池峰家の前まで来てしまった。
(だが、どう切り出す?)
自分の直感でたどりついた結果は独りよがりのものに過ぎないのだ。
だが、ここでの機会を逃してしまえば、自身が掴みかけた、真実につながるかもしれない一片を永遠に失ってしまうことになるかもしれない。
もう、後には引けないのだ。
(外に出てきたところを押さえるか……)
早池峰家の門に注意を向けながら、張り込みを続けた。
が、蓼原の思惑は外れてしまった。
早池峰家の前で待つこと数十分、黒いセダンが早池峰家の正門に横付けする。セダンから降りてきたのは曽根越本人だった。
正門から出てきた色白の少女を助手席へと座らせると、曽根越は運転席に乗り込み、静かにセダンを発進させた。
「……」
走り去った黒い車を見送り、蓼原は煙草に火を点けた。車で出かけたとなれば、暫くは戻って来ないだろう。
(……出直すしかないか)
紫煙を吐き出し、吸い終わった煙草を携帯灰皿へねじ込む。
その時だった。蓼原は、一人の人物の影を捉える。
(あの少女は……)
先ほど菊塵と車に乗り、出かけていったはずの色白の少女だった。早池峰家に出入りをしている人間の一人で、名は比良野 色把だったか。
それが今は一人で歩いて屋敷に入っていく。
(何か、妙だ)
数回、張り込みをした際に見かけただけであるが、どこにでも居そうなおっとりとした少女という印象を持っている。だが、今蓼原の視界が捉えている少女は、なにやら纏っている雰囲気が違うように思えた。どこか妖艶な色香を持っているように思えるのだ。
その場を離れようとしていた蓼原の足は止まっていた。胸騒ぎがする。
蓼原は、そのまま様子を見守った。
数分も経たぬうちに、少女はまたもや姿を現した。
少女の後ろには、一人、小柄な少年が続いている。少年にも見覚えがあった。早池峰家に寝泊りをしている、苑司という少年だ。
「色把さん、一体どこに? 哭士君が僕を呼んでるって……」
苑司が、前を歩く色把に声をかける。だが、色把は何も答えず、苑司を振り返ると、にっこりと笑みを浮かべ、苑司の手を引いて歩き出す。
「え……! え……! ちょっと……!」
顔を赤く染め、慌てた様子を見せるが、色把の手を振り払うわけでもなく、大人しく手を引かれるまま歩みを進める苑司。
(曽根越は……どうしたのだろうか?)
車に色把を乗せる様子からも、少女を大事に扱っている様子が伺えた。だが、今は周囲に曽根越の姿は見当たらない。
そうこう考えているうちに、色把と苑司は、早池峰家の門からどんどん遠ざかってゆく。
「……」
もう一度周囲を見渡すも、やはり曽根越は居ない。
蓼原は、黒髪の少女と、小さな少年の後ろを、気づかれぬように追い始めた。