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1―31.レキの狗石

 屋敷内は静まり返っており、哭士の耳には人の動く音は殆ど聞こえない。たまに聞こえたとなると、レキが食事を運んだり、御用聞きをしに来たりするのみ。

 この軟禁状態も、カナエの指示があるまで続けられなくてはならない。持って来ていた携帯電話も、山奥の為か電波は圏外になっていた。菊塵に連絡も取れない。



 外はとうとう暗くなり、レキが部屋に布団を敷きに来た。哭士はレキに問う。

「当主の指示というのはいつになったら出されるんだ」

 自身の狗鬼になれ、と命令をされた後は、音沙汰おとさたが無い。なんとも中途半端な状況に、哭士は落ち着かなかった。正直なところ、さっさと話をつけて、早池峰家に戻りたいと思っている。

「ス……スイマセン。僕は何も聞いてないんです」

 小さな体をさらに小さくさせて哭士に申し訳なさそうな顔を向けるレキ。従者のレキには、これからの説明がされないのも仕方が無いのかもしれない。




 哭士は、寝床の支度を続けるレキを何とはなしに眺めていた。自分よりも大きな布団の塊を軽々と持ち運ぶレキ。恐らく彼も狗鬼のようだ。

「お前、自分の狗石はどうしてる」

「狗石、ですか? 僕は契約が済んだ後は、狗石を飲み込みました。アレ、僕が狗鬼だっていいましたっけ?」

 レキが狗鬼だと言い当てた事に、少し嬉しそうな表情をしている。

「飲み込む……?」

 意外な返答に狼狽を見せた哭士に、レキも少し驚いた様子で答えた。

「あれ? ご存知ありませんか? 狗石を飲み込めば自分が操られるという欠点を無くす事が出来るんです」

 そしてレキは狗石の説明を続ける。レキの説明をまとめると、自分の狗石は飲みこむことができる。だが、その代わりに狗鬼の能力――哭士でいう氷を操る力――が、なくなってしまうのだそうだ。

 レキは能力が元から弱く、さほど能力を必要としていなかった為、早々に狗石を飲んだそうだ。だが、ほとんどの狗鬼は、能力を失うことを嫌がり、自身の狗石を必死に隠しているという。また、契約を結んでいない狗鬼が狗石を飲みこむと、能力が暴走し、命を落としてしまう、という事もレキは続けて説明した。

「……そうなのか」

 狗石が今まで祖父の体内に隠されていた事で、狗石に関する事柄ことがらは殆ど知らなかった。初めて聞く狗石の説明に哭士は頷いた。



「では、僕はこれで。あ、御用がありましたら鈴がありますので鳴らしてください。すぐに参りますので!」

 元から人懐こいのだろうか。大分哭士にも慣れているようだった。

 レキは、部屋の隅にある鈴を指し示すと、丁寧に部屋を出て行った。



 狗石がカナエの手の内にある今、屋敷を抜け出したとしても、命令で連れ戻されるであろう事は容易に想像できる。抜け出そうという考えは毛頭無かったが、ふと、哭士は外に続く襖を開けてみた。

 と、襖を開く音を聞きつけ、三匹の犬が廊下を挟んだ庭に集まってきた。唸り声を上げ、部屋から一歩でも踏み出そうものなら、大きく吠え出しそうな勢いだった。

「……」

 ため息をついて哭士は静かに襖を閉めた。



 一人で居るのはまったく苦では無いが、やはりこの状況は落ち着かない。

「……」

 持ってきていた携帯で時刻を見ると二十二時。いつの間にか時間が過ぎていた。時間は早いが特にすることもない為、仕方なく哭士は床につくことにした。


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