表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/190

6―3.独りの子供

 じゃり、と足元が音を立てる。

 目が暗闇に慣れていて、周囲の明るさに戸惑った。

 延々と続く瓦屋根と立派な家屋。哭士は庭に立っていた。家屋に人の気配は無い。



 だが、庭の奥から子供の声が聞こえる。手毬唄だ。

 一人の子供の声。どこか寂しげに漂う歌声の他は、何も聞こえない。

 哭士は声の方向に向かって歩きだした。





 足音を立てないように歩いていたはずだった。

 だが子供は瞬時に哭士の気配に気づき、唄を止めて振り返った。

 一瞬驚いた表情を見せた子供は、哭士へと駆け寄ってきた。


「おにいさん、どうしたのですか」

 見上げた子供は髪を一本に結い、白小袖を纏っている。





 そして、右目が金色と、目の色が違っていた。

 


 

「道に迷ってしまったんですか?」

 哭士の心中の動揺は子供には伝わっていないらしい。子供を見つめ、何も答えない哭士に、子供は首をかしげながらも続けた。

「道を案内してあげたいんですけど、でも、ぼくはこの庭と、離れ以外に行ってはいけないんです。……目の色が、ほかの人と違うから」

「友達もいないから、こうして一人で遊んでるんです」

 お時間があるなら、お話しましょう。と妙に大人びた態度で子供は縁側に誘った。

 瞳の奥の寂しげな色に、哭士は子供の隣に腰を下ろした。



「おにいさんに、きょうだいはいますか」

「ああ。……兄と、弟が」

 哭士の返答に子供は声を上げた。

「仲はいいんですか?」

「……悪くは無いと思う」

 いいなぁ。と子供の言葉は口の中を転がった。

「ぼく、弟に会いたいんです。この間、生まれたんだって。でも弟が生まれてからすぐ母様も父様も死んじゃったって……」

 俯き、縁側から下がった足をぶらぶらと小さく揺する。

「きっと、寂しがってると思う。だから、弟に会えたら、ぼくがまもってあげるんです」

 無邪気に笑う顔に、見慣れた兄の姿が重なる。

「あとね、凄いもの見せてあげます」

 内緒だよ、と口に指を持ってくる子供。

「みて! ほら!」

 屈託なく笑い、指さした先に虹が出来ている。

「綺麗でしょう? ぼくの弟も、これ見たら喜んでくれるかな」

 光る金色の目が、哭士を映す。

「……きっと、喜ぶ」

「そうかあ、会いたいなぁ……」





 チリチリと、自分の周囲がざわめき始めた。

 この時間に滞在できる期限が迫っている。

「……そろそろ、行かないといけない」

 立ち上がった哭士に、子供は悲しそうな表情を一瞬だけして、すぐに笑った。

「そうですか。お話できて楽しかったです。……お気をつけて」

 ぺこりと頭を下げる子供を背に、哭士は歩き出す。




 子供が背中を見つめているのを感じた。振り返り、口を開く。

「……弟には、いつか会える。その時は、助けてやれ。……だが、無理はするな」

 哭士の言葉に、きょとんとした子供は、ニッコリと笑ってはい、と返事をした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ