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4―15.神の警告

「あのねぇ、僕だって暇じゃないの。そりゃ狗鬼の身体いじくれるなら本望だけどね。最近は連日、君たちの治療で休めてないんだから勘弁してよ……」

 診療室のみ明かりが照らされ、哭士、菊塵、友禅がそれぞれ桐生を見つめている。


 あの庭で菊塵は哭士の攻撃を一身に受け止めた。

 攻撃を反射するものと見ていた哭士の氷は、菊塵の赤色を散らせた。

「菊塵君、たまにこういう事やるんだからもう。友禅君も見てたんなら止めてよ、哭士くんを止められるの、お兄さんの君しかいないんだから」

 まだぶちぶちと小言をつく桐生に友禅はすいません、と笑って答える。その様子に菊塵も苦笑した。



「哭士」

 菊塵の瞳は、意識せずとも緩やかに笑んでいた。

「かつてのお前の性格を考えれば、こういう事態は予想出来ていたはずだった。そんな事も想定していなかったなんて、まったく以て自分に呆れるよ」

「……」

 もう哭士は答えない。だが、菊塵はそれで十分だった。

 あの月の下、相棒の「生きたい」という思いは本物だった。それだけで、自分がこれまでしてきた事は間違いではなかったと菊塵は思えるのだった。




     ※




「ところで桐生さん、哭士が契約を結べない理由というのはやはり分からないんでしょうか」

 菊塵が桐生へ向き直る。今まで何度も試みてきた哭士と籠女の契約。あと一ヶ月を切ってしまっている今、僅かでも情報が欲しいのだろう。

「うーん、そうだねぇ。哭士くんの身体は今回の能力の暴走を除いては何の問題も無いんだよ。勿論、今まで引き合わせてきた籠女さん達もね。哭士くんの身体に、というよりはもっと狗鬼の根源に理由があるのかもしれないね」

 華奢な指で顎をひねりながら桐生はのんびりと語った。

「といいますと……?」

「彩子、言っていたかな? 【神】のこと」

 【神】と言葉が出て、狗鬼らは顔をこわばらせた。

「……ええ、言っていました」

「哭士くんのお母さん、さくらさんが【神】に呼ばれた事があるっていうのは?」

 菊塵と友禅はその問いを耳にし、更に表情を固くした。




――教えてやろうか、駄犬。さくらが【神】に呼ばれて嵜ヶ濱村に行ったときのことだ。【神】はさくらに言ったんだ。『氷の仔を産んだとき、お前は死ぬ』ってな。




 哭士の脳裏に克彦の言葉が蘇る。桐生は修造から【神】が放った言葉を聞いているのだろう。

「哭士くんのお母さんであるさくらさんは【神】に、哭士くんを産んだら死ぬと告げられていた。ちょっと君を前にして言うべきではないのだけれど……子供を作らない、という選択肢もあったはずなんだ。それでも、さくらさんは哭士くんを産んだ。……自身が死ぬと分かっていながらね」

 現に哭士の母は、生んだ直後に哭士の能力が暴走し命を落としている。

「一見、警告のように聞こえる【神】の言葉だけど、もっと他の感情を孕んでいるとは思わないかい?」

 桐生の言葉に、友禅がゆっくりと口を開いた。

「……恐れ……?」

 桐生は友禅の言葉に目を細めた。口元が笑んでいる。桐生の言わんとする言葉だったらしい。

「【神】が一人の狗鬼の誕生について語った。その子供を産めば、母親に死が訪れるという警告を。……でもそれはこの世に生まれ落ちる前から【神】は哭士くんの存在を恐れていたようにも取れる。そして【神】に捧げられるはずだった双子の一人が入れ替わり哭士くんの傍にいる。そう考えるとあらビックリ。どこかで聞いたことのある道につながっている気がしない?」

 顎に持っていっていた人差し指をぴんと立て桐生は微笑んだ。

「嵜ヶ濱村……か」

 【神】がいるという嵜ヶ濱村。哭士らが次に向かうであろう場所である。嵜ヶ濱村へ向かうことが遠回りに思えた哭士の制約の解消も、桐生の話から大きな可能性へと浮上した。

「そうそう。嵜ヶ濱村と言えばねぇ、色把さんが気になることを言ってたんだよ。それこそ、その村の夢を見たってね。なんだかいつもと違う夢だったって言ってたなあ。今朝の哭士くんの騒ぎで言いそびれちゃったみたいだね」


 菊塵の真剣な面差し。

「明日、話を聞いてみるべきでしょう」

「……そうだな」

 哭士は同意し頷くのを見、更に菊塵は続けた。

「僕の方でも、件の調査が終わったところです。合わせて報告を」

 本家で狗鬼と共に消えた哭士の叔父、克彦。早池峰家を嗅ぎまわっていた克彦の足取りにも何か手がかりがあるに違いない。頬に傷が広がるあの引きつった笑い顔が哭士の脳裏に浮かんで消えていった。




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