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1―13.畏怖

 未だに天井に向けた視点が定まらない。身体は横たえられているはずなのに、家全体が揺れているようだ。

(……来る)

 身体は本調子でなくても、刷り込まれている習性はそうそう無くなるものではない。幼い頃から感じていた威圧感が近づいてくるのを感じ取った。

 哭士は、無理矢理に身体を起こし、布団から移動する。近づいてくる気配の方向に身体を向け、黙座もくざした。



 静かに襖の開く音、進んでくる足音。顔を上げなくても分かる。あの老人だ。

「……哭士」

 老人の声が哭士の頭にふりかかる。祖父、早池峰修造の声に哭士の身体は瞬く間に萎縮いしゅくする。

 体中の筋肉が収縮し、体が石のように動かなくなる。意識をしなければ域を吐き出す事も出来ない。

祖父様じじさま……」

 ようやく搾り出すように出た言葉。既に哭士の手の平からは、じんわりと嫌な汗がにじんでいる。



「貴様、早池峰家の血を引いておりながらその有様、情けないと思わぬのか。あまつさえ、息女に怪我までも負わせおって」

 色把にかけた声とは明らかに違う、厳格げんかくな声色だった。

「申し訳……ございません」

 どんどん滲み出てくる嫌な汗を手のひらで握り締めた。大柄だとしても、所詮自分より身体の小さく力の弱い老人である。



 だが、哭士にとっては、この世の何よりもこの人物が恐ろしいのだ。傍から見れば、それは異常な様であっただろう。修造の前で正座している哭士の顔は緊張で歪み、額から脂汗が流れ落ちている。

 息を上手く吸えない。いつも、この人物の目の前から逃げ出したい衝動に駆られるのだ。


 祖父の姿を直視すら出来ない哭士の耳に、祖父の纏う着物の衣擦れの音が流れ込む。

「比良野家の息女は、しばし自邸じていで過ごす事になる。命に替えても、まもれ。良いな」

「……かしこまりました」

 駄目なのだ、何故かこの老人には抗えない。

 声を振り絞り、祖父の命令を受け入れると、哭士は更に頭を下げた。


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