始まりは日常の崩壊から
昔から書きたかった小説をついに執筆!
少し王道的な感じにしたい展開となります。
現在まだ執筆中なのですが、今回のネット大賞の応募に応募します!
いつもの日常、いつもの風景、いつもと変わらぬ現実
そんな毎日が続く事に変わり目がない、つまらない、飽き飽きしている
そういう人もいるだろう、特に青春時代を過ごす高校生ともなると
窓際の席に座っている男子生徒の夏山 涼は、夕方に染まる外を見ながらそう思い耽る
視線を教室に戻すと、放課後だからかあまり人はいない
そろそろ帰ろうかと、大きな欠伸をしてカバンを取ったその時、地面がグラリと揺れ、涼が突然の事に周りを見渡そうとした瞬間、頭上から大きな音がし、上を見た時には天井が目の前に迫っており、涼は確信した、あぁこれは死んだな、と。そこから意識は途絶えた
次に気がついた時には奇妙な空間にいた、自分だけが見え、周りは闇だけの空間
「・・・望め」
不意に聞こえた、まるで地獄の底から聞こえそうな禍々しい声、誰だ!と涼が叫んでも返事はない
「・・・望め」
まるで言い聞かせるかの様に聞こえる声は、恐怖と不安ですら覚える
「・・・望め」
淡々と聞こえる声に、ここは答えに応じるしかないだろうと決めた涼は何を望めと叫ぶ
「・・・己の内に秘める力」
一瞬の静寂から出た声は、違った。己の内に秘める力・・・?それはなんだ、と涼が言い放つと、目の前に日食の様な、光の輪を回す黒い球体が現れる
「・・・掴め、そして行くのだ」
涼が問う前に声はそう言い、静寂が訪れる、涼は考えても仕方ないと思い、球体を掴んだ
荒々しい黒い風が涼の周りを纏い、段々と自らに起こる変化に、少しずつ目の前がぼやけていく
「・・・うぅん」
ぼんやりと赤い色が瞼の奥に見え、ゆっくりと目を開く
夕方の色はこんなにも赤色だっただろうかと思うと、空の色を見て驚愕した
「な・・・なんだよ。空が・・・赤い・・・!」
先程まで見慣れていたはずのオレンジ色の空ではなく、まるで血の様に赤い空色となっており、夏山には事実が受け入れられなかった
更に夏山自身の身にも起きている事にも驚愕する
確かに天井のガレキが落ちてきて潰されているはずなのに、体はなにごともなく、床と板挟みになっていた
だが、体は一切動かせず、抜け出せない事に変わりはなかった
「クソッ、死んだかと思ったけど、これじゃあこのままのたれ死ぬじゃねぇか!」
その時、体の内側にある黒い何かが飛び出し、ガレキを持ち上げたと思ったら、夏山を引き出すとそのままガレキを降ろす
そして近くにあった椅子に座らせると、その黒い何かは段々と人型となり、背中に悪魔の様な翼と顔がない全身真っ黒の存在が立つ
「宿主である主が死んでは我も消えてしまう事となる、折角力を与えられたと言うに」
「なっ、なんなんだお前は!?」
「お前とは失礼な主。言わずともわかるではないか」
「えっ?」
そう言われ、少し集中すると、確かに体から細い糸が黒い存在へと繋がっている様な感覚があり、夏山の精神体だと認識し
「・・・シェイド?」
「そう、我の名前はシェイド。主は我であり、そして我は主でもある。未知の力により我がある事は以後御忘れず」
「未知?シェイドは誰かに力を与えられた以外、何も知らないのか?」
「左様。言わば記憶喪失の様な、喪失感があるがままに、我が居ると説明がいりましょう」
なんとなくで、意思疎通の様に考えは通じ、多少ならば手足の様に感覚が共有できる妙な事に驚きを隠せない
「なんか変な感じだ」
「違和感はありましょう、しかしまずは敵意への応戦を」
その時、窓から1体の羽の生えた魔物が侵入すると、シェイドが黒い刀の様な武器を出現させ、そのまま魔物を真っ二つに切り落とす
「な、なんだコイツ?!ゲームに居そうなモンスターがなんで!?」
「それは外を見た方が一目瞭然かと」
言われるがままに外を見ると、いつもあった日常の風景はそこになく、まるでゲームの中の様な様変わりした風景が夏山の眼下に広がる
空のあちこちには羽の生えた魔物が飛び交っており、地上には様々な魔物が居るありえない事となっていた
「涼!大丈夫?!」
その時、一人の女子生徒が息を切らして、教室の入り口に立っていた
「深月!無事だったのか!」
夏山はその女子生徒を知っており、深月 華だとわかっていた
髪の一片をゴム紐で結わえてるものの、相当焦っているのか髪が乱れている
「ちょっ、何ソイツ!?涼に手出しさせないよ!」
と、ダッとステップを踏んで、両手を空手の様に構える
「ああこいつはシェイドって言って・・・俺の分身みたいな奴なんだ」
「分・・・身・・・?」
何を言ってるのと夏山を見るも、状況を察したのか、あぁと小さく呟き、構えを解く
「こんな状況じゃ、何が来ても驚かないわ、だって外がそんなのだし、モンスターみたいなのがあちこちに居るし、退治するだけで手いっぱいだもの」
「退治っておま・・・よく倒せたな」
「伊達に空手部部長のアタシを、舐めちゃいけないわよ」
そう言って自慢げに胸に手を当てる
「それもそうだった・・・って、今はそんなのどうでもいい!アイツは見なかったか!」
「アイツ?あぁアイツなら外でこの状況を楽しんでるわよ」
思わず、は?となって外を見ると、それらしき人物が、学校の入り口で暴れていた
「岩沢!大丈夫か!」
暴れていた男子生徒が、最後の魔物相手を終えると、ん?と上を見上げ
「おー!夏山無事だったかー!こっちは思わぬ状況に体が震えてよー」
岩沢 志木、薙刀部所属の幼馴染であり、彼の右手には練習用の木製薙刀が握っているのが何よりも証拠
「それよりか無事ならいいけどよ、早くそこから脱出しないと魔物に襲われるぞー」
岩沢特有のマイペースに、大丈夫そうだと、謎の安心感が生まれる
「今そっち行くから、安全な所で隠れててくれ!」
「あいよー」
はぁと短くため息を吐くと、自分のカバンを背負い、護身用としては不安であるが、何もないよりはマシと思い、壊れた掃除用ロッカーからモップを取り出して教室から出る
「それで、あのしぇいど?ってなんなの?」
「それがわからないんだ、突然俺の体から出て来てあんな事に」
「あんなとは失礼です、主」
階段を下りる二人の後を追う様に、浮いたままで付いて行くシェイド
「そもそも何かの力でシェイドは居るけど、その力の・・・元?がわからないんじゃ」
「でも、涼の助けとなるのなら、少なくともこの状況をなんとか出来るんじゃないの?」
「だといいんだけど」
見えない不安な状況に突然手に入れた力と重ねて理解がまだ出来ない夏山としては、曖昧に答える事しか出来ない
やがて岩沢の元へと着いた二人は、シェイドに驚く岩沢と情報を交換し、これからどうするか考える
「ふーむ、突如として夏山に宿った力、もしかしたらこの状況と関わりがあるかもしれないな。この魔物達もさっき現れて、空もこんな事になってるし」
「ちょっと!それじゃあ夏山が悪いみたいじゃない!」
「推測だからありえなくもないってこった。確実な事じゃない」
「そうだけどさぁ・・・」
二人が少し暗い顔をする中
「・・・なあ、シェイド。その姿は変える事は出来るのか?」
「主の仰せの通りに変える事は可能です」
「よし、それなら」
夏山は目を閉じて想像をすると、シェイドは黒い塊になると徐々に姿を変え、3人が乗れそうなドラゴンへと変化した
「おぉ・・・なんだこれ」
「すっごーい!なんでも変身出来るの!?」
「主の仰せのままに」
「シェイド、俺の家へ飛んでくれ、母さんが気になるんだ」
シェイドは頷いて体を低い体勢にし、3人を乗せると、そのまま空へと飛び立つ
「うわぁ・・・なんだこれ・・・夢みたいだ」
「現実だけど、夢であって欲しい、今は・・・」
夏山の言葉に、二人は頷く事しか出来ず、夏山の家まで黙ったままだった
やがて一軒のパン屋に降り立ち、夏山は扉を勢いよく開ける
「母さん!無事!?」
三角巾とエプロン姿の母親が、夏山の方を向く
「あらお帰り、涼。今日はお外が急にヘンになっちゃって、いきなり窓からこわ~い動物が来たから、手元にあった固いバゲットを差し上げちゃったけど、そのまま動かなくなっちゃったの」
母親の居る床周りをよく見ると、魔物がピクピクと痙攣したまま、口にかみ砕けないバゲットを突っ込まれたままで気絶していた
「いや襲ってきた時点で、心配しなくてもいいと思う、それにこれは動物じゃないと思う」
「あらそう?せっかく喜んで食べてくれると思ったのだけど、お口に合わなかったかしら」
「はぁ・・・母さんが無事ならいいよ。ちょっとさ、しばらく帰ってこれそうにもない程、外出するかもしれない」
「そうなの?でも涼ならお母さん絶対帰ってくるって信じてるから、元気に行ってらっしゃいね」
「母さん・・・うん、ごめん」
「いいのよ。きっとお父さんも今はお仕事で忙しいけど、涼の事は見えなくても応援してるわ」
「あ、あぁ・・・うん」
そもそも父親も危ない目にあっていると思ったが、きっと大丈夫だよなと母親の言葉を信じる
「それじゃあ、このパン詰め合わせ袋を持って行って。涼の役に立つはずよ」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
「はい、いってらっしゃい。必ず帰ってくるのよ」
と、涼に笑顔を見せる
「もちろん、帰ってくる!」
涼はその安心感に不思議と元気が湧いてきて、店を出た
「大丈夫だったの?涼のおばさんは」
「あの分じゃあ大丈夫だと思う。二人は会わなくていいのか?」
「俺はどーせ家に居なくたって心配されんよ、殆ど家に居ないし」
「私なら気にしないで、だって両親は涼に言わなくてもわかるでしょ?」
深月の言葉にそうだなと思い、彼女の両親を思い浮かべても、師範代である父親と柔道部黒帯の母親の時点でどうとでもなりそうだと思えた
「それじゃあ、あの魔物達が出てくる場所へ行こう。今SNSでそれらしいのがあるみたいだし」
「ネットって便利よね・・・こんな事になってても普通に使えて、誰かが情報発信してるし」
確かに文明の利器は凄いのと同時に、呑気だとも思える
やがてSNSに投稿されていた、魔物達が出てくる大穴付近に到着し、その異様な光景に目を疑う
「あの穴がそうか・・・まるで隕石が落ちた様に、すり鉢状の真ん中に穴が大きくある・・・」
「だが大丈夫なのか?あの穴へ落ちて、帰ってこれるのか?」
「だけど、このままモンスターが出てくるのをただ見てるだけってのは、涼としてもそうするわけがないよね?」
「もちろん。それに、この力ももしかしたら、この穴に入った先で、わかるかもしれない」
「はぁ・・・。一度はゲームの様な世界になって欲しいと願ったもんだけど、こうも様変わりしたら、そんな事迂闊に言えないな」
岩沢の言葉に、確かにと頷ける。夏山としてもそんな想像した事はあるが、今の状況では願ってはならないと強く感じた
「主、この先はいかなる事があっても、主は絶対救い出す」
「シェイド・・・。うん、信じてる」
「シェイド、私の事も守ってね?」
「お、俺もいいか?」
「主のお供も、我が守る事を契る」
シェイドが言ったものの、夏山の思いも込めた一言でもあり、気を引き締める
(この力は俺に与えられた。だったらこの先、絶対に二人を守り続ける・・・!)
そう決意を胸に満たし
「よし、行こう!必ずこの状況を元通りにする方法を見つけよう!」
夏山が言うと、シェイドは大穴へと直下した
周りの魔物がいくつかシェイドに突進しようとも、シェイドの周りを覆うオーラがそれを弾き、ついには何かの魔法陣が見えて通過した時、光に包まれて三人の意識は途絶えた