表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

空想童話集

ランプの願い

作者: 夏野ゆき


 昔々、あるところに何でもねがいをかなえてくれるランプがありました。

 きれいな細工さいくがほどこされ、きらきらした宝石がいくつもはめ込まれた金のランプは、持ち主を変えながら何年ものぞみを叶え続けていました。

 暗い宝物庫ほうもつこの宝箱のなかで、ランプはつぶやきます。


「ああ、誰か私の願いを叶えてはくれないだろうか。“二度と願われない”という願いを」


 最後にランプを手にした男は、“自分の国がほしい”と願い、願いを叶え終わったランプを自分の宝物庫に大切にしまっていました。そこにはたくさんの宝物がおいてありましたが、どれひとつとしてランプの願いを叶えてくれそうにはありませんでした。


「願われるのは、もういやだ」


 ランプは今までに悪い人間の願いも、良い人間の願いも叶えてきました。けれど、人の願いを叶えすぎて、もう人の願いを聞くのにはきしていたのです。


 そうして、とあるお城の宝物庫ほうもつこにおさめられていたランプは、あるときひとりの盗賊とうぞくによってぬすみ出されてしまいました。

 ランプを盗み出したあと、盗賊はいそいで海に出ました。船に乗って遠い国へいってしまえば、誰も盗賊からはランプを取り戻せないからです。

 盗賊は一生懸命いっしょうけんめい船をこいで、海を進みます。辺り一面が青い海でいっぱいになったころ、盗賊はランプを取り出しました。お日さまに照らされて、金のランプはきらきらと美しくかがやきます。


「美しいランプよ、賢いランプよ。俺の願いを叶えておくれ」


 盗賊はランプをでながらそう言います。ランプはうんざりしながらも「お前の望みはなんなのだ」と盗賊に聞きました。


「一生かかっても使いきれないほどの金がほしい!」

「そうか」


 ランプは盗賊の願いを叶えてやることにしました。

 ランプが願いを聞き届ければ、青い空から金貨きんかが船めがけていくつも落ちてきます。雨のように降る金貨に盗賊は大喜びしました。


「こいつはすごい! さあ、もっと降らせておくれ!」

「そうか」


 金貨に目のくらんだ盗賊は、降ってくる金貨を一枚も逃すまいと腕を広げます。


「もっと、もっと、もっとだ! 俺が要らないというまで、もっと金貨を降らせておくれ!」

「そうか」


 ランプは何枚なんまいも、何枚も金貨を降らせました。船がいっぱいになるまで、ランプを手にした盗賊の腰ほどまでが金貨でもれるまで。


「ああ、なんと素晴すばらしい!」


 ランプを手にして、盗賊は船いっぱいの金貨にうっとりとしました。どの国の王様も、船いっぱいの金貨をみたことなんてないはずです。

 空からはまだまだ金貨が降ってきます。盗賊は自分の体に当たり、金貨の山に落ちていく金貨に笑みをこぼしましたが、ふと気付きました。

 船のへりぎりぎりに海がせまっているのです。いつのまにか海の高さがしたのだろう、と盗賊はふしぎに思いましたが、金貨の重みで船がしずんでいるのだとすぐに気付きました。


「美しいランプよ、賢いランプよ。もう金貨は要らない」

「そうか」


 ランプは金貨を降らすのをやめましたが、船はゆっくりゆっくりと沈んでいきます。金貨が重すぎたのです。

 これではまずい、と盗賊は金貨を一掴ひとつかみずつ静かに落としていきました。

 金貨を一掴みずつ海に捨てるのを盗賊はとても惜しく思いましたが、船が沈むよりましだと考えたのです。


 青い海に一枚ずつ、光り輝きながら星のように金貨がひらひらと落ちていきます。海のなかの魚たちもながぼしが落ちてきたのだと勘違かんちがいして、船の周りに集まってきました。


 最初は手のひらほどの小魚が。

 お次は中くらいほどのお魚が。

 そうして最後に大きなお魚が。


 魚たちは降ってくる金貨をお星さまだと思い、めいめいに口にくわえて願いを叶えてもらおうとしました。星に願えば願いが叶うことを魚たちも知っていたのです。


 すべての魚が口に金貨をくわえたころ、大きな大きなお魚がやって来ました。この大きな魚はくいしんぼうで、小さなお魚も中くらいのお魚も、大きなお魚も関係なしに食べてしまうお魚でした。


 大きな大きなお魚がやって来たのをみて、魚たちは一目散いちもくさんに逃げ出します。

 盗賊は集まってきていた魚がいなくなったのに驚きましたが、船もやっと軽くなったところだったので、船をこぎ始めます。

 海にいる大きな大きなお魚には、動き始めた船が大きなお魚に見えました。


「やあ、こんなに大きな魚は初めてだ」


 大きな大きなお魚は、その大きい口を開けるとランプと盗賊、そしてたくさんの金貨ごと、船をひとのみにしてしまいました。


 こうして、盗賊は一生かかっても使いきれないお金がほしいという願いを、ランプはもう二度と願われないという願いを、めいめいに叶えたのでした。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ