高尚デエト
いきなり温度が下がりましたね。
風邪などひかれませんよう、ご自愛ください。
本日はお日柄も良く。デート日和というやつなのでしょうか。
私は今、公爵家の立派な馬車に揺られています。
セドリック様は約束通り宰相補佐というお忙しいお仕事の合間を縫ってお時間を作ってくださったわけです。
セドリック様は外の景色に夢中です。そんなに面白いものが外にあるのでしょうか。私にも見せてくださいまし。
実はこの公爵様、出発してから一度も口を開かないどころか目を合わせようともしない。無論私はこの馬車の行き先を知らない。
前回お会いした時の私の無礼をまだ怒っているのかしら。それとも、屋敷に迎えに来たとき見送りのシャーロットに生ゴミを見る目で見られたのが尾を引いているのかしら。
少しはお話できるといいのだけれど。
「ここだ」
馬車が止まり、降り立ったのは王都随一の高級ブランド「ニーヴ」の前だった。
「セドリック様」
「なんだ」
「ベタですわねぇ~」
「ベタとはなんだ、ベタとは!女は好きだろう、こういうの!」
否定はしませんが。それにしても、ニーヴか。
ニーヴはシャーロットが社交界デビューした直後、令息たちからよく送り付けられてきたプレゼントだった。うぅ、このアゲハチョウのシンボルマークを見ると寒気がする。
思わず体を縮こませて腕をさすっていると、本気で寒がっていると勘違いしたのか、セドリック様は自分の上着を脱いで私に掛けてくれた。
「大丈夫か?寒いなら早く店に入って何か羽織れるものを見繕わせよう」
紳士的な行動に一瞬呆気にとられる。この人元々良いところのお坊ちゃんだし、根はまっすぐな人なのよね。
きっと本当はいい人なんでしょう。シャーロットが絡まなければ。
「?どうかしたのか」
「いいえ、なんでもありません」
折角連れてきてくださったのですから、覗いてみることにしましょう。
結論からいうと、お値段が高尚すぎました。羽織物を買っていただくなんてとてもとても。何回「高ッ」と声に出して言いそうになったことか。
嫌というほど見慣れたニーヴでしたが、ここまでのものとは。ご令息たち、頑張っていらっしゃったのね。
何も買わずに店を出るわけにいかないので、私が選んだものはシャーロットの瞳と同じ色のノート。理由はこれが一番安かったから。
「本当にこれだけでいいのか」と何度も念押しされたけれど「これがいいのです」と譲らなかった。
結婚しない相手に高級な品物をプレゼントされるわけにはいかない。とはいえ、公爵様が高級ブティックに入ってノート一冊しか買わないなんて面子が立たない。
申し訳ないことをしてしまった。
「そろそろ昼食の時間か」
「あの!もしよろしければ、私の馴染みの店に行きませんか?」
恐らく、というか絶対に高級店に連れていってくれるのだろうけど、私が一緒だとまた恥をかかせかねない。
一応貴族の令嬢として最低限のマナーは身に着けているつもりだけれど、公爵様の隣で見劣りしないかと言われると自信がない。
「君の?」
「はい、シャーロットとよく行く店なのです」
シャーロットという言葉にピクリと反応する。わかりやすい人だな。特定の人物のことになると極端に単純になる、確かに似ているかも。
「いかがでしょうか?そこでゆっくりシャーロットの昔話でも」
「……わかった、行こうか」
頬の緩みが隠しきれていませんよ。
お読みいただきありがとうございます。
もうしばらくお付き合いください。