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聖域への侵入者2

更新遅くなりましてもうしわけありません。

デイリーランキング4位ありがとうございました!

恐れ多いですが、光栄です!

やあ、アメリア嬢」


「……セドリック様」



侵入者。招かれざる客という言葉が脳裏に浮かぶ。アズキパンヒーローのようになっていた片頬は腫れがひいてセドリック様の顔貌は元の麗しさを取り戻していた。

なんだ、つまらない。


セドリック様の背後にはメイドのジーナが恐縮しきった様子で控えていた。

庭には我が家と親しいごく一部の特別なゲストしかお通ししない。当然セドリック様は特別なゲストのなかに含まれていない。

セドリック様にどうしてもと言われ仕方なく連れてきたのだろう。ジーナに非はないので責める気はないと示すように笑顔でうなづくとジーナは深く頭を下げ持ち場へと戻っていった。



「済まないね、アメリア嬢。君が庭にいると聞いてメイドに無理を言って通してもらったんだ。彼女を責めないでやってくれ」


「ええ。もちろんです」



悪いのはあなただもの。


私はいらだっていた。妹への嫌がらせの為に私を利用したことよりも、気丈な妹の憔悴した様子を見た時よりも。

聖域に踏み込んだことが許せなかった。

私のいらだちをよそにセドリック様は興味深げに庭を見渡している。



「それにしても、美しい庭だね。隅々まで神経が行き届いているのを感じるよ」


「ありがとうございます」



微笑みを浮かべたつもりだけど、ちゃんと笑えていたかしら。



「実はダグラス家の庭に出てみるが夢だったんだよ。いつも部屋の中から眺めるだけだったからね」



恐らく応接室からの眺めだろう。押しかけて来たセドリック様を応接室に案内した際「庭を散策したい」と言われ断ったとシャーロットが言っていた覚えがある。



「ところで」


「はい?」


「私の周りを色々嗅ぎまわっているみたいだね」


「えっ」



突然の言葉に間の抜けた声が出た。セドリック様はこちらに視線を向けずマリーベルという名前の薔薇を眺めている。



「シャーロットだろう?」


「……知りません」


「べつに誤魔化すことはないよ」



表情を伺うと新しいおもちゃを買い与えられた子供の様な顔をしていた。



「私の弱みを握ろうと何者かが嗅ぎまわっているのはわかるのだが、全く尻尾は掴ませない。餌を撒き、誘い込もうとしても罠の臭いを敏感に嗅ぎ分けて一向に食いついてこない」


「こんな真似ができるのはシャーロットしかいないさ」



うっとりと呟くセドリック様。まるで恋人を自慢するような口ぶりだ。ますますいらだちが募る。


それにしても、シャーロットは私の為にそんな危険な事をしているのか。証拠をつかまれない手際は流石シャーロットといったところだろうか。

でも今は大丈夫でも絶対という保証はどこにもない。私がシャーロットを止めなければ。



「どうして君なんだろう」



ボソッとした陰気な呟き声に一瞬誰が発した言葉かわからなかった。今ここには二人しかいないのに。

セドリック様はよそ見などせず、いつも浮かべている微笑を消しこちらをまっすぐ見つめているのに、瞳に映っているのが私だとは到底思えなかった。



「シャーロットは賢い女性だ。公爵家相手に何か企てるなんてどれだけ愚かな真似か誰よりも理解できるはずだ。能力的に可能でも冷静な彼女なら絶対にしないだろう。

だが、君のことなるとどうだ?何もかもなげうって行動する。君のために何かせずにはいられないとばかりに」


「どうしてシャーロットはそこまでする?」



答えろ、という無言の威圧。耐えかねて当たり障りのない適当なことを口にする。



「シャーロットはとても姉思いの優しい子です。今までも私が困難にあれば助けてくれていたので今回も同じように」



なぜこんな言い訳じみたことを言わなければならないのかと考えている隙に間を詰められ右腕を掴みあげられた。



「優しい子?姉思い?本気でいっているのか?」



パーティで見た口の端を吊り上げた嘲笑。あの時とは違って今のセドリック様には余裕が全くない。



「シャーロットはこんな女のどこがいいんだ?目を引く美貌も、優れた頭脳もなく、シャーロットの機微に触れようともしない!」



取り繕うのをやめ、乱暴な口調で吐き捨てられる心無い言葉。正直聞きなれた言葉もあったが、最後の一言が私の逆鱗に触れた。



「私がシャーロットをないがしろにしていると?気のないシャーロットに迫ったあげく、嫌がらせに私に求婚した人間がどの口でほざくのですか?」


「なんだと?」


「なんだと?じゃないですわ。シャーロットのことを何も知らないくせに。貴方が知っているのはせいぜい天使のような美貌と、優れた頭脳と身体能力、冷静沈着な性格、それぐらいでしょう?

すべて表面的なものじゃない」


「違う!俺は!」



遂に一人称まで崩れ始めた。貴公子の仮面が崩壊していく様に昏い悦びを感じ始めている自分がいた。



「俺と彼女は似ていると思ったんだ」


「貴方とシャーロットが」


可愛い私の妹と公爵様にどんな共通点が?



「社交界デビューのパーティで彼女を見かけた時、あまりの美しさに目が眩むような思いがした」


「やはり外見の話ですか」


「違う!最後まで聞け!」



「すみません」と謝って次の言葉を待つ。



「気になって目で追う内に気づいたんだ。彼女がとても退屈していることに」



……へぇ。



「彼女の退屈が万事に向けられていることに気づいた時、俺は彼女に惹かれたんだ」



この人、ちゃんとシャーロットのことを見ていたのか。あの子の退屈に気が付くなんて。同じ天才ゆえの同調なのだろうか。


シャーロットは子供の時から何でもできた。勉強も、ダンスも、刺繍も、マナーも、剣術も。一度見聞きすれば簡単にマスターした。

幼児期から天才と呼ばれ、美貌も兼ね備えたシャーロットは国の至宝と呼ばれた。

姉である私は比較され続けたが、妹を妬んだり、羨んだことは一度もなかった。


だって、シャーロットはいつも退屈そうにしていたから。


学校を飛び級で卒業した時も、国一番のダンス講師に褒められた時も、刺繍がコンクールで優勝した時も、隣国の国王様に所作の美しさを称賛されても



「ありがとうございます」



と、完璧な笑顔を見せるだけ。例外もあったけれど、基本的に全て同じ。



セドリック様はどこまで理解したのだろう。シャーロットの孤独と退屈を。

理解できたのなら、この人も抱えているのだろうか。途方もない空白を。

確かめてみたい。


初めてセドリック様に興味が湧いた。



「だから、彼女の表層のみに惹かれたわけでは」


「セドリック様」



言い終える前に私の右腕を掴むセドリック様の手にそっと左手を重ねた。



「今度、私とデートしませんか?」


「はあ!?」



間抜けな声を出して私の腕を掴んでいた手を振り払うように離した。


ついさっきまで聖域に侵入されいらだっていたはずなのに、今は楽しくて仕方がない。



「何を突拍子もないことを!」


「まぁ、つれない方。つい先日情熱的にプロポーズしてくださったのに」



ため息をつき、傷ついたようなポーズをとる。しなを作ったのは生まれて初めてかもしれない。



「あれはっ!……ッ!さっきまでシャーロットの話をしていたというのに!」


「ですから、そのシャーロットについて教えて差し上げますわ」


「えっ?」



困惑した表情を浮かべるセドリック様。ちょっと可愛く見えてきたかもしれない。



「私はシャーロットを生まれた時からしっています。当然、あなたの知らない顔も知っている。

知りたいでしょ?だって、心搔き乱されたシャーロットが見たくて興味もない私に求婚するくらいだもの」



図星をつかれて屈辱だったのか顔を紅潮させている。そろそろ潮時だろうか。



「私たち、結婚するかもしれませんのに、お互いのことを何も知りません。それはあまりにも寂しすぎるとおもいませんか?二人でどこかにおでかけして、妹のことや、他にも色々なお話をしてみたいのです。駄目でしょうか?」



上目遣いセドリック様を見つめながらしなを作る。しなはこれで本当に合っているのだろうか?



「……後日連絡する」



ぶっきらぼうに言うと踵を返し庭を後にするセドリック様。



「ありがとうございます。楽しみにしていますわ」



淑女の礼をとりながら礼を述べたが、届いていたのだろうか?



完全にセドリック様が去ったのを見計らって肩の力を抜き、テラスの椅子に腰かけ、ため息をつく。



今日の私はどうかしていた。公爵様相手にあんなにも無礼に振る舞うなんて。

聖域に踏み入られ気が昂っていたから?逆鱗に触れられたから?


馬鹿なことをしたと思う。



馬鹿だと思う。デートを楽しみにしているなんて。


お読みいただきありがとうございます。


次はなるべくお待たせしないように!

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